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腸内マイクロバイオームと肺       07/31/25

当時、重症化の要因を探るため、COVID-19の急性期から回復期における腸内マイクロバイオームの探究が不可欠でした。急性期には腸内微生物叢の多様性が低下し、回復期には増加していました。そして、急性期にはEnterococcus faeciumの顕著な寄与が確認され、回復期には酪酸産生細菌(Roseburia、Lachnospiraceae)の増加が見られました。さらに、Prevotella属はlong COVIDになりにくくする保護的効果を持っていました。

腸内マイクロバイオームは、主にFirmicutesフィルミクテス、Bacteroidesバクテロイデス、Aspergillusアスペルギルス、Actinobacteria放線菌に加え、Clostridiumクロストリジウム、Verruciformヴェルシフォルム、Spirochetesスピロヘータなどから構成されています。

腸内細菌叢は、リガンド、代謝物、免疫細胞を産生することで肺細菌叢に影響を及ぼすことができる数千の微生物で構成されており、これらは血流を介して肺に到達し、肺免疫を調節します。これらの循環細胞と代謝物を介して、腸内細菌叢は肺免疫に直接影響を及ぼし、場合によっては肺細菌叢の構成にも影響を及ぼします。

腸内マイクロバイオームは、免疫経路と代謝経路の両方を通じて肺機能に影響を与える可能性があります。腸内マイクロバイオームは喘息などの異常な免疫反応において重要な役割を果たしています。乳児では、肺や腸内に病原菌が存在することが、アレルギー性喘息の発症と関連しています。生後2~12か月の新生児の腸内微生物叢は、リポ多糖類(LPS)を介して、肺免疫系を調節し、酸化ストレスを増加させ、腸管バリアを調節することによって肺の損傷を媒介し、アレルギー性喘息を引き起こす可能性がある。酪酸を生成する腸内細菌群集や、SCFAなどの腸内微生物の代謝物の一部は喘息を予防します。腸管内の分節糸状細菌は、肺におけるTh17細胞応答を刺激し、肺炎球菌による感染と致死から肺を防御します。

このように、腸のマイクロバイオームは遠隔地である肺の免疫に影響しており、このような腸と肺の相互作用を「腸肺axis」と呼んでいます。

腸肺axisは双方向性であり、逆に肺は腸管の恒常性維持に影響を与えている可能性があります。鼻腔内に注入された物質はすぐに消化管内に出現し、
気管内の呼吸器系微生物叢の破壊は、一部の呼吸器系細菌を血流に移行させ、24時間以内に腸内微生物叢に影響を与え、腸内総細菌負荷を著しく増加させます。インフルエンザウイルス感染によって呼吸器系で生成されるインターフェロンは抗菌作用を示し、腸管の炎症反応を増幅さ、腸内細菌叢の異常を引き起こします。

喘息や COPD などの慢性肺疾患は、炎症性腸疾患 (IBD) や過敏性腸症候群 (IBS) などの慢性胃腸管障害を合併することがよくあります。IBD および IBS の患者も、肺疾患を発症する一定の可能性があります。喘息患者では腸粘膜の機能と構造が変化しており、COPD 患者では腸管透過性が通常増加しており、腸肺の密接な関係を表しています。

Gut Microbiome Composition and Dynamics in Hospitalized COVID-19 Patients and Patients with Post-Acute COVID-19 Syndrome
Impact of SARS-CoV-2 infection on respiratory and gut microbiome stability: a metagenomic investigation in long-term-hospitalized COVID-19 patients
Lung microbiome: new insights into the pathogenesis of respiratory diseases:Nature

RSウイルス感染のマイクロバイオーム     07/30/25

細気管支炎は、RSウイルス(RSV)感染が主な原因で、生後6ヶ月未満の乳児の入院原因疾患になります。鼻水、咳、喘鳴、息切れ、呼吸困難を起こします。2014年のcochrane reviewによると、アジスロマイシンまたはクラリスロマイシンの有効性は否定的な結論でしたが、将来的には、抗生剤が有益な病態がありうる可能性があるとも結論づけていました。それを受けて、2017年に発表されたAmerican Family Physicianのガイドラインでは、細菌感染が疑われたり確認される場合以外は、抗生剤投与は推奨されないとされました。

一方、そもそも特に小児の胸部レントゲン検査による肺炎の有無の判定はかなり主観的なものであることは避けられず、2018年のボストン小児病院は、胸部レントゲン検査で異常なしと判定されたうち9%が肺炎だったと報告しています。5歳児前後のマイコプラズマ肺炎の診断においてさえ、胸部レントゲンの誤診率が13%以上もあることが報告されています。ましてや、乳児のRSVによる細気管支炎において、胸部レントゲン検査の有無を問わず、肺炎がないと断定するのは極めて難しい。

乳児のRSV感染時のサイトカイン及び細胞内シグナル伝達の研究結果を考慮すると、乳児のRSV細気管支炎時はかなりのサイトカインストーム、強い炎症促進状態であることは確かです。2020年以降に起きたコロナ研究の副産物として、下気道・肺のマイクロバイオーム及び腸管マイクロバイオームの研究が進むにつれ、コロナウイルス感染時にこうしたマイクロバイオームによる炎症促進作用の寄与が相当大きいことがわかってきています。RSVがコロナウイルスと同程度の炎症促進状態を引き起こしうるウイルスであることから類推すれば、RSV感染も肺のマイクロバイオームの負荷増大による炎症促進作用が病態形成に大きく寄与しているとしても不思議ではない。RSVの肺内マイクロバイオーム研究が必要な理由です。

古いガイドラインに最新知見が反映されるのにはかなりの長年月が必要であることも確かです。

Antibiotics for bronchiolitis in children under two years of age
Respiratory Syncytial Virus Bronchiolitis in Children
The radiological diagnosis of pneumonia in children
Negative chest radiograph reliable rule-out of pediatric pneumonia
Clinical value and radiographic features of low dose CT scans compared to X rays in diagnosing mycoplasma pneumonia in children

気管支拡張症のマイクロバイオーム     07/29/25

気管支拡張症は、肺の気道の一部が永久的に拡張し、過剰な粘液の蓄積を引き起こす病気です。そのため、感染にさらされやすく、気管支拡張症では、発熱、痰、息苦しさによる急性感染性肺機能障害を発症することがしばしばです。

数多くの気管支拡張症で、FirmicutesとProteobacteriaが重症の気管支拡張症と関連していました。病状悪化に関連して最も多いのはインフルエンザ菌で、最も死亡率を高める病原体は、Pseudomonas aeruginosaとStreptococcus pneumoniaeでした。気管支拡張症が急性増悪しても、 微生物叢の構成はほとんど変化ないのですが、微生物叢多様性が減少してしまうことによって、重症化し死亡率も高まることになります。これは、微生物叢の多様性減少が治療に使われるマクロライドに感受性のある微生物叢の量の相対的減少につながるからだとも考えられますが、微生物叢全体の多様性低下によって、致死性の高いPseudomonasが相対的に増える結果であるとも考えられます。Pseudomonas aeruginosa、 Aspergillus fumigatus、非結核性マイコバクテリウム(NTM)による慢性感染、またはこれらの組み合わせは、肺損傷を加速的に進行させ死亡率を高めます。

真菌やウイルスも気管支拡張症の過程に関与しています。アスペルギルス(Aspergillus fumigatus、Aspergillus terreus)という真菌の量は病状の悪化と関連しており、気道炎症の重要な原因である可能性が示唆されています。小児の気管支拡張症では、呼吸器ウイルス、特にライノウイルスが被験者の48%で検出され、気管支拡張症急性期にはウイルス陽性サンプルの数が有意に多かったことが示されています。

気管支拡張症では、気道の粘液線毛クリアランスの低下によって、Neisseria subflava が気道に定着し、繊毛上皮機能を抑制し破壊する因子を放出します。それに対して宿主側は好中球性気道炎症を引き起こし、肺損傷を進行させます。その結果、さらにクリアランス機構が弱められ、悪循環に陥ります。そして、P. aeruginosa の優勢および微生物叢多様性の低下は好中球性炎症レベルを高めていました。一方、Rothia属の多様性は気道炎症の抑制と関連していました。

Lung microbiome: new insights into the pathogenesis of respiratory diseases: NATURE

COVID-19肺のマイクロバイオーム      07/28/25

COVIDの肺で微生物負荷が増加すると、呼吸器管理から離脱して回復する確率が低く、死亡率が高いことがわかっています。
肺微生物叢の増加及び構成の変化は宿主の免疫応答に影響を与え、肺胞の炎症を増加させる可能性があります。肺の細菌および真菌の量が、炎症の活性化に関与するサイトカインや肺胞炎症マーカー (TNF-α、IL-6、IL-1β) と関連していました。また、COVIDの重症化、ARDSの発症に関連していました。肺の微生物群の量と不均衡が、回復率や死亡率と関連していたのですが、特定の個々の細菌の種類とは関連していませんでした。

このように、COVIDはウイルスによって引き起こされるのですが、肺のマイクロバイオームが炎症反応を促進し、サイトカインを調節することで重症肺炎の発症に寄与しています。ある種の抗生剤の有効性を支持した、パンデミック初期の報告は、肺マイクロバイオームに関する知見と合致していたのです。

Lung microbiome: new insights into the pathogenesis of respiratory diseases: NATURE
Doxycycline for the prevention of progression of COVID-19 to severe disease requiring intensive care unit (ICU) admission: A randomized, controlled, open-label, parallel group trial (DOXPREVENT.ICU)
Doxycycline treatment of high-risk COVID-19-positive patients with comorbid pulmonary disease

肺炎のマイクロバイオーム      07/27/25

肺炎は読んで字の如く、肺の炎症、火事のことですが、その火元は大抵、細菌・ウイルス・真菌または他の微生物であることになっている。例えば、マイコプラズマやクラミジアは肺の常在菌ではないので、それらによる肺炎は外部病原体の肺への侵入によって引き起こされているのは明らかです。一方、市中肺炎の原因菌でもっともありふれた肺炎球菌、インフルエンザ菌、モラキセラ・カタラーリス、(頻度は低いが)黄色ブドウ球菌、緑膿菌は、流行性感染症でもないのに、一体どこからやって来るのだろうかという根本的な問いに対する答えは推測の域を出ないままでした。

肺のマイクロバイオームを構成しているPrevotella, Streptococcus, Clostridium, Roseburia, Veillonellaなどの下気道・肺の微生物叢の量の増加、つまり細菌負荷量の増大と多様性の低下及び不均衡が、サブクリニカルな炎症開始のドライバーになっています。 中等度から重度のCOPDでは、早期COPDに比べてマイクロバイオームの多様性が低下していました。COPDでは、新しい菌株に感染したり、細菌負荷が変化するとその後、炎症の増加と肺機能の急速な低下が起こります。

何らかの機序で免疫力が低下した結果、肺の微生物叢の量が増大すると同時に、それを構成する微生物群間の不均衡が起こります。優勢になる細菌群は肺炎の基盤になった状況によって異なっており、立場が逆転することもあります。Streptococcus、Prevotella が優勢になる肺炎パターンがある一方で、これらが劣勢になる肺炎パターンもあります。Pseudomonas、Staphylococcus、Streptococcus が優勢な肺炎パターンがある一方で、Prevotella、Veillonella、Corynebacterium、Roseburia が優勢な肺炎パターンもあります。

風邪のウイルス感染でも大気中の何らかの汚染物質でも、いったん下気道や肺を損傷させると肺内の微生物叢の増加と、特定のコロニーの過剰増殖へのシフトが引き起こされ、同時に宿主の免疫機構の一部が障害を受け、さらに炎症を増幅させることになります。こうして突然のように発生した細菌性肺炎は、潜在的な正のフィードバックループの特徴を有し、一度始まると、増殖促進シグナルが徐々に増幅され、マイクロバイオームと宿主側との恒常性の障害と炎症の増加という悪循環を形成します。こうして、選択された細菌群の増殖と病原性が促進され、肺胞炎症が長期にわたって持続する可能性があります。サイトカインと代謝物を調節することで、肺のマイクロバイオームは肺炎の進行を引き起こす炎症を促進します。この調節メカニズムは複雑で双方向性であり、肺のマイクロバイオームの構成自体にも影響を及ぼします。

特定の呼吸器生態系において肺の細菌負荷量は本質的に固定されており、システミックな抗生物質投与は肺の細菌負荷量全体を大幅に減少させることはできないものの、マイクロバイオームの構成を変化させる可能性があると考えられています。狭く特定の微生物群に標的を絞った治療法の可能性は理想的ではあるが、それは少なくとも現時点においては決して現実的な方法ではありません。抗生物質投与は、微生物叢全体を標的として全体の細菌負荷量を一旦軽減し、偏ってしまった多様性と構成をデフォルトのバランスに戻す再調整アプローチとして効果があるのだと考えられています。

Lung and gut microbiota profiling in intensive care unit patients: a prospective pilot study
Therapeutic Targeting of the Respiratory Microbiome

気管支炎(特に遷延性細菌性気管支炎)のマイクロバイオーム     07/27/25

遷延性細菌性気管支炎(PBB)の小児の細菌バイオーム量、好中球の割合、IL-8、およびIL-1βは、顕著に高い。PBB小児では、限定された菌種ではなく複数種からなる細菌叢で構成されています。プレボテラ(Prevotella)、インフルエンザ菌(H. influenzae)、肺炎球菌(S. pneumoniae)、モラクセラ(M. catarrhalis)、黄色ブドウ球菌(S. aureus)が増加していました。

PBB患児の好中球性炎症は、単一の病原種に起因するものではありません。Prevotella関連気管支炎では、病原菌でない共生細菌もPBB炎症の発症に寄与している可能性があります。これは、培養で呼吸器病原菌が検出されない小児の慢性咳嗽と下気道炎症が、明らかに抗生物質療法に反応するという経験的事実を裏付けます。また、肺のマイクロバイオームは気管支炎の予後と強く関連しています。PBB小児において、気道感染におけるH. influenzaeによる寄与が低い場合は、気管支拡張剤に対する反応が7倍良好であることがわかっています。また、急性呼吸器感染症後1カ月以上咳が続くPBB小児では、Neisseria、Streptococcus、M. catarrhalisの寄与が大きいことが示唆されています。

一方、PBBは、細菌叢によって気道内細菌叢バイオフィルムが形成され、それによって慢性的な炎症が持続しているのではないかとも考えられています。非定型インフルエンザ菌Haemophilus influenzae(NTHi)は、好中球の網状構造内のDNAなどの物質を、栄養源としてだけでなくバイオフィルムの材料として利用し、炎症によって局所環境に放出された物質をも自らの栄養素として利用している。さらに誘導された宿主炎症反応は、肺炎球菌などの他の潜在的な病原体や正常な共生細菌とNTHiが競合するのを助けることになり、さらに気道内の多様性が低下することになる。そこにウイルス感染が生じると、バイオフィルム内の微生物叢が剥離・放出され、単なる風邪症状では済まずに強化された炎症反応が生じることで、急性憎悪と持続炎症をもたらされます。

気管気管支炎のマイクロバイオームは、高い微生物多様性が特徴的です。PseudomonasとStaphylococcusが優勢であり、Actinomycetes、Firmicutes、Ascomycetes、Bacteroidetes、Tenericutesなどの多様性があります。気管気管支炎の炎症は、P. aeruginosaなどの優勢な細菌叢による炎症性サイトカイン刺激と同時に、Lactobacillusなどの抗炎症性細菌叢の減少によってもたらされています。同時に、増加した細菌叢の一部、BacteroidesとClostridiumは逆に炎症を抑える免疫反応を誘導しています。

Persistent and Recurrent Bacterial Bronchitis—A Paradigm Shift in Our Understanding of Chronic Respiratory Disease: Frontiers in Pediatrics
Lung microbiome: new insights into the pathogenesis of respiratory diseases: NATURE

COPD肺のマイクロバイオーム       07/26/25

健康な個体の肺マイクロバイオームは、肺環境の調節と免疫応答の調整を通じて、肺の恒常性維持に重要な役割を果たしています。肺マイクロバイオームとさまざまな肺疾患との関連性が明らかにされています。病気の肺のマイクロバイオームは、健康な肺のマイクロバイオームとは著しく異なり、主な属、微生物叢、その種類と量は疾患の種類によって異なります。一方、肺のマイクロバイオームの乱れは、病気の発症と悪化の原因です。

COPD
COPD患者の微生物叢は、健常者と比べて著しく異なる。COPD患者では、潜在的な呼吸器病原菌を含む複数の細菌がしばしば検出される。さらに、気流制限の程度が増加するにつれ、Pseudomonas aeruginosa(P. aeruginosa)やLactobacillusなどの日和見感染病原菌の数が増加する。病原性プロテオバクテリア、特にHaemophilusは、喘息とCOPD患者で増加している。一方、バクテロイデス属、特にプレボテラ属は、喘息とCOPD患者ではほとんど検出されませんでした。

COPD肺における細菌叢の多様性は、肺の構造が壊れているほど、慢性炎症が持続するほど、減少していました。COPDの慢性気道炎症は、γ-プロテオバクテリア優位の微生物叢と関係しており、肺組織における免疫細胞の浸潤と同時にプロテオバクテリアとアクチノマイセスが検出されています。

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喘息における肺のマイクロバイオーム        07/26/25

「そもそも肺のマイクロバイオームがなぜ重要なのか?」
健康な肺の中では、生態系バランスの維持された微生物群集が、宿主側の肺の細胞や免疫細胞群と絶妙な恒常性を保ち、静かで安定した宿主との共生状態なのですが、一方病気の肺では、病原性微生物群が偏って増加すると同時に免疫応答異常を引き起こし、微生物叢と宿主側との共生状態が崩れ(微生物叢の不均衡(ディスバイオーシスdysbiosis)と呼ばれます)、さらに病気を進行させることになります。宿主側の肺の構造の一部が壊れたり粘液クリアランス機構の損傷は、微生物群衆のさらなる不均衡をもたらし、悪循環に陥ることになります。したがって、正常な共生細菌の活動とバランスに副作用を及ぼすことなく、偏って増加した病原性微生物の活動だけをピンポイントで抑えることができれば、理想的な治療選択肢になりえます。

喘息
喘息では、肺のマイクロバイオームにおける病原性微生物の増加が特徴的です。それにより反復的な炎症が引き起こされ、さらに全身的な免疫機能障害の悪化がもたらされます。

喘息では、下気道内におけるHaemophilus、Staphylococcus、Actinomycesなどの病原性微生物群の増加が特徴的であると同時に共生細菌(PrevotellaやVeillonella)の数が減少します。さらに、正常肺では検出されないPseudomonasが多くの患者で病原体として検出され、特に重症喘息患者で頻度が高い。アトピー性喘息で入院した患者による報告では、Haemophilus、Fusobacterium、Neisseriaceae、 Sphingomonas、およびPorphyromonasが高レベルで検出され、BacteroidesとLactobacillusが低レベルになっていました。

このような肺のマイクロバイオームの異常は、Th2経路や他の経路を活性化することで慢性炎症プロセスを引き起こし、喘息の進行を悪化させる可能性があります。この炎症プロセスは、特定の細菌コロニーの増殖を促進し、さらに微生物のdysbiosis(不均衡)を招く可能性があります。さらに特定の病原性細菌は、薬物療法に対する免疫細胞の反応に悪影響を与える可能性があります。

肺の微生物叢のdysbiosisによる悪循環は、肺の炎症の増加と免疫バランスの乱れを引き起こし、アレルギー性喘息の発症および重症喘息の多様な特徴の要因になっています。このように微生物叢のdysbiosisは、喘息の病態の基盤なのです。

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肺のマイクロバイオーム(3)         07/25/25

ウイルス群集(ヴァイローム、ウイルスーム)
ヒトでは、ウイルス群集を構成するウイルスの数は身体の部位によって異なります。腸内容物には1gあたり109個のウイルス粒子、口腔咽頭、鼻腔、咽頭、唾液には1mlあたり108個のウイルス粒子が存在します。一方、肺のウイルス粒子は腸や口腔咽頭よりもずっと少ない。

健常なヒトの呼吸器系ウイルス群集は、パラミクソウイルス科、ピコルナウイルス科、およびオルソミクソウイルス科という主要な3グループから成ります。数は少ないが、アルファパピローマウイルス、KIポリオマウイルス、WUポリオマウイルス、およびアデノウイルス科のマストアデノウイルスも検出されます。健康な呼吸器系ウイルス叢の構成は多様・複雑というより単純で偏っています。例えば、健康な肺のウイルス叢は主にアナポウイルス科のグループが占め、まれにヘルペスウイルス、パピローマウイルス、レトロウイルスなどが検出されます。

このような多様な真核生物ウイルスの長期潜伏状態を通じて、体はIFN-γを継続的に産生し、マクロファージを活性化します。基礎免疫状態が上昇することにより細菌感染を制御することができるように成り、宿主にとって有利な環境を提供してくれている可能性があります。

肺の中には、ファージが豊富に存在し、そのファージの群集は宿主内の細菌の数に応じて変化します。ヒトの呼吸器系には、19種類のファージからなる常在コア群が存在します。ファージは肺という極めて限られた生存環境内において細菌の生存と繁殖を助ける役割を果たしています。

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肺のマイクロバイオーム(2)       07/24/25

腸内や口腔咽頭部のマイクロバイオームの豊富な微生物群集と比べて、肺のマイクロバイオームには常在微生物が少ないが、群集の多様性は保たれています。肺のマイクロバイオームは、細菌の群集であるバクテリオーム、カビの群集であるマイコバイオーム、ウイルスの群集であるヴァイロームから成る集合体です。

細菌群集(バクテリオーム)
肺のバクテリオームでは、ストレプトコッカス、ヴェイロネラ、プレボテラが最も一般的な属であり、ヘモフィルス(インフルエンザ菌など)は肺に特有の常在微生物であり、他の部位のマイクロバイオームでは稀な細菌です。(肺のコア微生物叢には、Pseudomonas、Streptococcus、Proteus、Clostridium、Haemophilus、Veillonella、およびPorphyromonasが含まれます。)
皮膚や腸のような、ほぼ変わることがない自己維持型の微生物叢とは異なり、肺の微生物叢の構成は永続的なものではなく、体の免疫応答に応じて変化します。肺の微生物叢は口腔咽頭や上気道といった隣接する部位から微生物の継続的な移動を受けるため常に変化し続けており、新しい種がランダムに導入されたり除去されたりしています。そのため肺の微生物の組成は口腔咽頭と類似しているのですが、お互いの微生物群集の割合は異なり、肺には独自の属が存在しています。そして肺の微生物叢の一部には長期にわたる自己維持型の細菌群集も存在しています。(肺の微生物叢は口腔咽頭と比べてRalstonia、Bosea、Haemophilus、Enterobacteriaceae、Methylobacteriumが多い。)
肺の正常な微生物叢のバランスは、免疫応答に参加し炎症を防止することで、清潔で安全な肺環境を提供する役割を担っていると考えられています。

真菌群集(マイコバイオーム)
健康な肺における真菌の種は多様です。アスコマイセテスとストレプトマイセスが最も一般的な群集であり、次いでカンジダが優勢で、サッカロマイセス、ペニシリウム、ディクティオステリウム、フザリウムが続きます。さらに、アスペルギルス、ダヴィエラ科、ユーロティウムも存在します。
肺の真菌叢は、細菌を脱水、薬剤、免疫細胞の攻撃から保護するバイオフィルム構造を産生できます。これにより、抗菌剤に対して多剤耐性を持つ細菌株の発生と拡散が可能になります。

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肺のマイクロバイオーム(1)         07/23/25

ヒトのマイクロバイオームとは、人体内の特定の環境に常在または存在するすべての微生物とその遺伝子配列の集合体のことです。これには、細菌、古細菌、真菌、ウイルスを含むすべての生物が含まれます。昔から口腔咽頭マイクロバイオームと腸内マイクロバイオームは研究されやすかったのですが、肺は本来無菌環境だと考えられていたため、肺のマイクロバイオームについて研究が始まったのはつい最近になってからです。技術の進歩により肺の中にも多くの微生物が常在していることがわかってきました。肺のマイクロバイオームは主に細菌、真菌、ウイルスから構成されています。肺のマイクロバイオームと口腔咽頭または腸のマイクロバイオームの関係、特に腸マイクロバイオーム-肺マイクロバイオームの共鳴相互作用関係(腸-肺axis)が最近集中的に研究されています。腸-肺axisは双方向性であり、代謝、免疫など複数のネットワークを介して腸と肺の疾患の進行に影響を及ぼし合います。

大変興味深いことに、肺のマイクロバイオームは肺の発達に影響を与えることがわかっています。無菌状態で育てられたげっ歯類(ネズミ)では、肺実質が減少し、肺胞の発達が不十分になってしまうことがわかっています。
また、健康な肺と病気の肺では、マイクロバイオームを構成する菌の種類と多様性が異なります。肺のマイクロバイオームの構成とサイズは、さまざまな疾患の影響を受けてダイナミックに変化します。例えば、喘息や慢性閉塞性肺疾患(COPD)の患者では、病原性プロテオバクテリア、特にインフルエンザ菌などのヘモフィルス属が増加しています。肺のマイクロバイオームのdysbiosis(不均衡)は、その構成とサイズを乱し、疾患の発症、進行、予後に影響を及ぼします。

肺のマイクロバイオームは口腔咽頭部のマイクロバイオームや腸のマイクロバイオームと強く関連しています。口腔、腸、肺の微生物間の相互作用が確認されています。口腔の微生物が肺に入るとそれらは肺内で群集を形成し、肺の細菌の増殖に直接影響を与える可能性があります。

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パラインフルエンザ菌はパラインフルエンザウイルスとは全く異なる病原体です 07/21/25

5月から7月にかけて、パラインフルエンザウイルスによるしつこい咳が流行しましたが、実は同時期に複数の気管支肺炎からパラインフルエンザ菌も検出されました。さらに紛らわしい病原体として、インフルエンザウイルスとインフルエンザ菌もあるのですが、それぞれ全く異なる病原体です。
パラインフルエンザウイルスとパラインフルエンザ菌は両方とも「インフルエンザに似ている」「インフルエンザと関係あるかのように見える」という歴史的背景から命名されていますが、片方はウイルスで、片方は細菌という別物であるものの、どちらも呼吸器感染症を引き起こす病原体です。

1. パラインフルエンザ菌の発見と命名の経緯
1892年、最初にインフルエンザ菌(H. influenzae)がインフルエンザ大流行時に発見され、当初はインフルエンザの原因と間違われていたのですが、その後、インフルエンザの真の原因はインフルエンザウイルスであることが判明しました。
後になって(?)、パラインフルエンザ菌が同定されたが、インフルエンザ菌と近縁であるが、栄養要求性や抗原性が異なることから、「インフルエンザ菌に似た(para)」という意味のパラインフルエンザ菌(Haemophilus parainfluenzae)と命名されました。インフルエンザ菌属(Haemophilus属)というグループに属しています。

2. パラインフルエンザウイルスの発見と命名の経緯
1950年代に、米国で風邪様症状を引き起こすが、インフルエンザウイルスA・Bとは異なる原因病原体として分離されました。当時はインフルエンザ様症状を示すが、インフルエンザウイルスとは抗原性が異なることから、やはり「近い」「類似の」を意味する接頭語「para」をつけて「パラインフルエンザ(para-influenza)ウイルス」と名付けられました。ヒトの呼吸器感染症(クループ、気管支炎、肺炎など)を引き起こします。系統的にはRSウイルス(RSV)や麻疹ウイルスと同じパラミクソウイルス科に属しています。

これら二つを明確に区別するために、専門的には、パラインフルエンザウイルスは、HPIV(Human Parainfluenza Virus)、パラインフルエンザ菌は、Hpi(Haemophilus parainfluenzae)と表記されることがあります。

3. パラインフルエンザ菌は、上気道や口腔咽頭に常在する菌ですが、時に日和見感染を起こし、中耳炎、気管支炎、肺炎、敗血症などの原因になります。感染症を引き起こしやすくなる条件として、高齢、COPDや喘息などの慢性呼吸器疾患、免疫抑制(がん、免疫抑制薬、糖尿病)、気管挿管や人工呼吸器使用中、歯科処置・口腔内侵襲があります。
COPDなど呼吸器基礎疾患がある場合に、気管支炎や肺炎、COPDや慢性気管支炎の増悪といった病状を引き起こすことが多く見られるようです。さらに小児で中耳炎の起因菌となることがあったり、慢性副鼻腔炎の起因菌の一部となることがあります。専門的に要注意の病態としては、弁膜症や人工弁がある場合や、口腔内手術後の菌血症から発症する感染性心内膜炎や、極めて稀だが免疫不全状態や高齢者で起こりうる菌血症/敗血症があります。

Immune Response to Haemophilus parainfluenzae in Patients with Chronic Obstructive Lung Disease
HACEK endocarditis: state-of-the-art

百日咳が長期化するのは毒素が咳受容体に結合し続けるからではない    07/17/25

百日咳では、感染期を過ぎても咳が数週間〜数ヶ月残ります。一見、百日咳毒素が、喉頭・中枢気道の咳受容体に直接「強固に結合し続ける」ために持続的な咳嗽反射を引き起こすのかなと考えやすいのですが、そうではないようです。

百日咳毒素(PT)は 気道上皮細胞に限らず、全身免疫応答細胞(マクロファージ、好中球、好酸球、T細胞など)、平滑筋細胞、神経細胞など宿主の様々なPT感受性細胞に結合・侵入します。侵入後、細胞内にあるGiαタンパク質(Gタンパク質共役型受容体(GPCR)というタンパク質の一部)の働きを不可逆的に阻害します。

その結果、気道上皮細胞では線毛運動障害やバリア機能破綻を誘導し、さらに免疫細胞(好中球、マクロファージなど)ではそれらの働きを抑制することによって、百日咳菌が気道内で長期生存することを可能にし、慢性炎症環境が作り出される。

一方、神経細胞における変化として、自律神経系細胞のGiαをブロックすることによって副交感神経緊張の調節を乱すことにより求心性神経終末の感受性が変化し、咳反射回路のリセットを乱すことになる可能性が示唆されてはいるものの、咳反射感受性を亢進させる直接的証拠はなく、百日咳における咳感受性亢進は主に慢性炎症や長期に及ぶ気道上皮破綻によって神経反射が間接的に増強される結果であるとされています。

百日咳菌の持つもう一つの毒素Adenylate Cyclase Toxin (ACT) は、主に宿主の免疫細胞(特に好中球、マクロファージ、樹状細胞など)の局所機能を強力に阻害して、初期感染防御を回避し、気道感染を長期持続させる役割を果たします。ACTの気道上皮への直接障害はほとんどなく、ACT単独で咳受容体に作用するわけでもありません。

このように、百日咳毒素が中枢気道の咳受容体に直接「強固に結合し続ける」から咳が長期にわたって止まらないというわけではなく、百日咳毒素は、気道上皮の障害・修復障害、免疫環境を改変して慢性炎症環境を作り出すことによって、長期の咳感受性亢進を間接的に誘導しているというモデルが提唱されています。

したがって、百日咳は一旦発症してしまえば治療はそもそも極めて困難なものであり、その根本治療は、百日咳毒素が気道と全身の広範な細胞内に侵入するのをブロックすることであり、それはつまりTdapなどのワクチンによって毒素が細胞内に入る前の段階で中和してしまうことに他ならないことを意味しています。

Highlights of the 14th International Bordetella Symposium
Pertussis Toxin Inhibits Early Chemokine Production To Delay Neutrophil Recruitment in Response to Bordetella pertussis Respiratory Tract Infection in Mice

感染後や喘息などの慢性炎症で咳受容体(感覚神経末端)が感作され、咳反射が亢進し続けるしくみ 07/12/25

最初に、風邪のウイルスが気道上皮を直接障害し、上皮細胞の骨格を乱し、細胞同士の隙間が破壊される。その結果、上皮バリア機能が低下し、異物や刺激物が容易に侵入するようになる。前後して、上皮細胞死と再生が亢進し、上皮細胞群の異常修復が始まる。
障害を受けた上皮細胞は、「危険シグナル」として、炎症を惹起させるシグナル物質を放出し、それによって気道局所の様々な免疫細胞が活性化され、持続的炎症性環境が出来上がる。同時に、障害上皮細胞からATPという物質が持続的に放出される。このATPによって咳受容体終末が活性化し、神経発火しやすくなる。
炎症惹起シグナル物質の働きによって、神経線維末端である咳受容体が増殖し、末梢神経ネットワークが増え、刺激伝達経路が増強される。以上の変化の結果、低レベル刺激でも容易に発火するようになる。
また、末梢神経内でも神経伝達ペプチド物質が増加することによって、神経伝達の自己増幅ループを形成すると同時に、さらなる炎症細胞浸潤が呼び起こされ、神経原性炎症が重ね合わされることになる。
以上が、慢性咳嗽や「神経感作咳」の病態の本質である。
これらの結果、感染は治癒しても、神経感作は「リセット」されず、咳反射が亢進したまま「長引く咳」になる。
こうした神経感作性咳嗽に対しての実際に利用可能な治療としては、吸入ステロイドなどの抗炎症治療薬や神経受容体拮抗薬があげられる。

Profiling of how nociceptor neurons detect danger – new and old foes
Persistence of asthma requires multiple feedback circuits involving type 2 innate lymphoid cells and IL-33
The P2X3 receptor antagonist filapixant in patients with refractory chronic cough: a randomized controlled trial

気道の治癒過程そのものが咳反射増強の基になる    07/11/25

1.咳受容体(求心性感覚神経終末)は気道上皮内に分布
咳受容体は気道上皮内に分布しており、杯細胞、線毛上皮細胞と密接に接触している。そのため、咳受容体はムチン分泌など上皮細胞由来メディエーターの影響を受けやすくなっている。気道上皮細胞、特に杯細胞の異常や炎症による再構築が、求心性神経終末(咳受容体)の感作亢進を介して、空気中の刺激物質に対する過敏な咳反射を引き起こす基盤になる。

2.気道上皮の「再構築(remodeling)」が感作の基盤
喘息、COPD、ウイルス後咳嗽などで共通するのが「上皮修復の異常」である。気道上皮杯細胞の過形成、基底膜肥厚が引き起こされる。炎症に伴って増殖した杯細胞・上皮細胞からの放出物質が知覚神経の咳受容体発現や感受性を増強する。この過程によって生じた上皮バリア機能の破綻は、咳受容体の反応閾値を低下させるため、様々な刺激物質に対する過敏な咳反射を引き起こすことになる。

3.吸入ステロイドは、気道上皮の異常修復を抑制し、正常なremodelingを促す
そして、もっともエビデンスが豊富な「気道上皮修復調節薬」が吸入ステロイドである。そもそもの炎症を引き起こすメディエーターを抑制し、杯細胞過形成を抑え、上皮細胞のバリア機能回復を促し、ムチン過剰発現を抑制する。喘息やCOPDでは吸入ステロイドがリモデリング予防の中心になる。

Transient receptor potential cation channel, subfamily V, member 4 and airway sensory afferent activation: Role of adenosine triphosphate
Cough and airway disease: The role of ion channels