私たちのミッションは、
世の中に元気を拡散させること。
そのために、皆様の病気を
治すお手伝いをすること。
元気がない時、
ここでの小さな出会いと
ふれあいが
回復への起点になること。
そして、前向きな気持ちと
充実した時間を
取り戻してもらうこと。
私たちはいつもと同じように
安心の拠り所で
あり続けたいと思います。
ヒトのマイクロバイオームとは、人体内の特定の環境に常在または存在するすべての微生物とその遺伝子配列の集合体のことです。これには、細菌、古細菌、真菌、ウイルスを含むすべての生物が含まれます。昔から口腔咽頭マイクロバイオームと腸内マイクロバイオームは研究されやすかったのですが、肺は本来無菌環境だと考えられていたため、肺のマイクロバイオームについて研究が始まったのはつい最近になってからです。技術の進歩により肺の中にも多くの微生物が常在していることがわかってきました。肺のマイクロバイオームは主に細菌、真菌、ウイルスから構成されています。肺のマイクロバイオームと口腔咽頭または腸のマイクロバイオームの関係、特に腸マイクロバイオーム-肺マイクロバイオームの共鳴相互作用関係(腸-肺axis)が最近集中的に研究されています。腸-肺axisは双方向性であり、代謝、免疫など複数のネットワークを介して腸と肺の疾患の進行に影響を及ぼし合います。
大変興味深いことに、肺のマイクロバイオームは肺の発達に影響を与えることがわかっています。無菌状態で育てられたげっ歯類(ネズミ)では、肺実質が減少し、肺胞の発達が不十分になってしまうことがわかっています。
また、健康な肺と病気の肺では、マイクロバイオームを構成する菌の種類と多様性が異なります。肺のマイクロバイオームの構成とサイズは、さまざまな疾患の影響を受けてダイナミックに変化します。例えば、喘息や慢性閉塞性肺疾患(COPD)の患者では、病原性プロテオバクテリア、特にインフルエンザ菌などのヘモフィルス属が増加しています。肺のマイクロバイオームのdysbiosis(不均衡)は、その構成とサイズを乱し、疾患の発症、進行、予後に影響を及ぼします。
肺のマイクロバイオームは口腔咽頭部のマイクロバイオームや腸のマイクロバイオームと強く関連しています。口腔、腸、肺の微生物間の相互作用が確認されています。口腔の微生物が肺に入るとそれらは肺内で群集を形成し、肺の細菌の増殖に直接影響を与える可能性があります。
Lung microbiome: new insights into the pathogenesis of respiratory diseases: NATURE
5月から7月にかけて、パラインフルエンザウイルスによるしつこい咳が流行しましたが、実は同時期に複数の気管支肺炎からパラインフルエンザ菌も検出されました。さらに紛らわしい病原体として、インフルエンザウイルスとインフルエンザ菌もあるのですが、それぞれ全く異なる病原体です。
パラインフルエンザウイルスとパラインフルエンザ菌は両方とも「インフルエンザに似ている」「インフルエンザと関係あるかのように見える」という歴史的背景から命名されていますが、片方はウイルスで、片方は細菌という別物であるものの、どちらも呼吸器感染症を引き起こす病原体です。
1. パラインフルエンザ菌の発見と命名の経緯
1892年、最初にインフルエンザ菌(H. influenzae)がインフルエンザ大流行時に発見され、当初はインフルエンザの原因と間違われていたのですが、その後、インフルエンザの真の原因はインフルエンザウイルスであることが判明しました。
後になって(?)、パラインフルエンザ菌が同定されたが、インフルエンザ菌と近縁であるが、栄養要求性や抗原性が異なることから、「インフルエンザ菌に似た(para)」という意味のパラインフルエンザ菌(Haemophilus parainfluenzae)と命名されました。インフルエンザ菌属(Haemophilus属)というグループに属しています。
2. パラインフルエンザウイルスの発見と命名の経緯
1950年代に、米国で風邪様症状を引き起こすが、インフルエンザウイルスA・Bとは異なる原因病原体として分離されました。当時はインフルエンザ様症状を示すが、インフルエンザウイルスとは抗原性が異なることから、やはり「近い」「類似の」を意味する接頭語「para」をつけて「パラインフルエンザ(para-influenza)ウイルス」と名付けられました。ヒトの呼吸器感染症(クループ、気管支炎、肺炎など)を引き起こします。系統的にはRSウイルス(RSV)や麻疹ウイルスと同じパラミクソウイルス科に属しています。
これら二つを明確に区別するために、専門的には、パラインフルエンザウイルスは、HPIV(Human Parainfluenza Virus)、パラインフルエンザ菌は、Hpi(Haemophilus parainfluenzae)と表記されることがあります。
3. パラインフルエンザ菌は、上気道や口腔咽頭に常在する菌ですが、時に日和見感染を起こし、中耳炎、気管支炎、肺炎、敗血症などの原因になります。感染症を引き起こしやすくなる条件として、高齢、COPDや喘息などの慢性呼吸器疾患、免疫抑制(がん、免疫抑制薬、糖尿病)、気管挿管や人工呼吸器使用中、歯科処置・口腔内侵襲があります。
COPDなど呼吸器基礎疾患がある場合に、気管支炎や肺炎、COPDや慢性気管支炎の増悪といった病状を引き起こすことが多く見られるようです。さらに小児で中耳炎の起因菌となることがあったり、慢性副鼻腔炎の起因菌の一部となることがあります。専門的に要注意の病態としては、弁膜症や人工弁がある場合や、口腔内手術後の菌血症から発症する感染性心内膜炎や、極めて稀だが免疫不全状態や高齢者で起こりうる菌血症/敗血症があります。
Immune Response to Haemophilus parainfluenzae in Patients with Chronic Obstructive Lung Disease
HACEK endocarditis: state-of-the-art
百日咳では、感染期を過ぎても咳が数週間〜数ヶ月残ります。一見、百日咳毒素が、喉頭・中枢気道の咳受容体に直接「強固に結合し続ける」ために持続的な咳嗽反射を引き起こすのかなと考えやすいのですが、そうではないようです。
百日咳毒素(PT)は 気道上皮細胞に限らず、全身免疫応答細胞(マクロファージ、好中球、好酸球、T細胞など)、平滑筋細胞、神経細胞など宿主の様々なPT感受性細胞に結合・侵入します。侵入後、細胞内にあるGiαタンパク質(Gタンパク質共役型受容体(GPCR)というタンパク質の一部)の働きを不可逆的に阻害します。
その結果、気道上皮細胞では線毛運動障害やバリア機能破綻を誘導し、さらに免疫細胞(好中球、マクロファージなど)ではそれらの働きを抑制することによって、百日咳菌が気道内で長期生存することを可能にし、慢性炎症環境が作り出される。
一方、神経細胞における変化として、自律神経系細胞のGiαをブロックすることによって副交感神経緊張の調節を乱すことにより求心性神経終末の感受性が変化し、咳反射回路のリセットを乱すことになる可能性が示唆されてはいるものの、咳反射感受性を亢進させる直接的証拠はなく、百日咳における咳感受性亢進は主に慢性炎症や長期に及ぶ気道上皮破綻によって神経反射が間接的に増強される結果であるとされています。
百日咳菌の持つもう一つの毒素Adenylate Cyclase Toxin (ACT) は、主に宿主の免疫細胞(特に好中球、マクロファージ、樹状細胞など)の局所機能を強力に阻害して、初期感染防御を回避し、気道感染を長期持続させる役割を果たします。ACTの気道上皮への直接障害はほとんどなく、ACT単独で咳受容体に作用するわけでもありません。
このように、百日咳毒素が中枢気道の咳受容体に直接「強固に結合し続ける」から咳が長期にわたって止まらないというわけではなく、百日咳毒素は、気道上皮の障害・修復障害、免疫環境を改変して慢性炎症環境を作り出すことによって、長期の咳感受性亢進を間接的に誘導しているというモデルが提唱されています。
したがって、百日咳は一旦発症してしまえば治療はそもそも極めて困難なものであり、その根本治療は、百日咳毒素が気道と全身の広範な細胞内に侵入するのをブロックすることであり、それはつまりTdapなどのワクチンによって毒素が細胞内に入る前の段階で中和してしまうことに他ならないことを意味しています。
Highlights of the 14th International Bordetella Symposium
Pertussis Toxin Inhibits Early Chemokine Production To Delay Neutrophil Recruitment in Response to Bordetella pertussis Respiratory Tract Infection in Mice
最初に、風邪のウイルスが気道上皮を直接障害し、上皮細胞の骨格を乱し、細胞同士の隙間が破壊される。その結果、上皮バリア機能が低下し、異物や刺激物が容易に侵入するようになる。前後して、上皮細胞死と再生が亢進し、上皮細胞群の異常修復が始まる。
障害を受けた上皮細胞は、「危険シグナル」として、炎症を惹起させるシグナル物質を放出し、それによって気道局所の様々な免疫細胞が活性化され、持続的炎症性環境が出来上がる。同時に、障害上皮細胞からATPという物質が持続的に放出される。このATPによって咳受容体終末が活性化し、神経発火しやすくなる。
炎症惹起シグナル物質の働きによって、神経線維末端である咳受容体が増殖し、末梢神経ネットワークが増え、刺激伝達経路が増強される。以上の変化の結果、低レベル刺激でも容易に発火するようになる。
また、末梢神経内でも神経伝達ペプチド物質が増加することによって、神経伝達の自己増幅ループを形成すると同時に、さらなる炎症細胞浸潤が呼び起こされ、神経原性炎症が重ね合わされることになる。
以上が、慢性咳嗽や「神経感作咳」の病態の本質である。
これらの結果、感染は治癒しても、神経感作は「リセット」されず、咳反射が亢進したまま「長引く咳」になる。
こうした神経感作性咳嗽に対しての実際に利用可能な治療としては、吸入ステロイドなどの抗炎症治療薬や神経受容体拮抗薬があげられる。
Profiling of how nociceptor neurons detect danger – new and old foes
Persistence of asthma requires multiple feedback circuits involving type 2 innate lymphoid cells and IL-33
The P2X3 receptor antagonist filapixant in patients with refractory chronic cough: a randomized controlled trial
1.咳受容体(求心性感覚神経終末)は気道上皮内に分布
咳受容体は気道上皮内に分布しており、杯細胞、線毛上皮細胞と密接に接触している。そのため、咳受容体はムチン分泌など上皮細胞由来メディエーターの影響を受けやすくなっている。気道上皮細胞、特に杯細胞の異常や炎症による再構築が、求心性神経終末(咳受容体)の感作亢進を介して、空気中の刺激物質に対する過敏な咳反射を引き起こす基盤になる。
2.気道上皮の「再構築(remodeling)」が感作の基盤
喘息、COPD、ウイルス後咳嗽などで共通するのが「上皮修復の異常」である。気道上皮杯細胞の過形成、基底膜肥厚が引き起こされる。炎症に伴って増殖した杯細胞・上皮細胞からの放出物質が知覚神経の咳受容体発現や感受性を増強する。この過程によって生じた上皮バリア機能の破綻は、咳受容体の反応閾値を低下させるため、様々な刺激物質に対する過敏な咳反射を引き起こすことになる。
3.吸入ステロイドは、気道上皮の異常修復を抑制し、正常なremodelingを促す
そして、もっともエビデンスが豊富な「気道上皮修復調節薬」が吸入ステロイドである。そもそもの炎症を引き起こすメディエーターを抑制し、杯細胞過形成を抑え、上皮細胞のバリア機能回復を促し、ムチン過剰発現を抑制する。喘息やCOPDでは吸入ステロイドがリモデリング予防の中心になる。
Transient receptor potential cation channel, subfamily V, member 4 and airway sensory afferent activation: Role of adenosine triphosphate
Cough and airway disease: The role of ion channels
咳受容体は末梢気道「肺末梢(小気道、肺胞)」にもあるが、特に機械受容性咳受容体 (mechanical rapidly adapting receptors, RARs) と呼ばれる高速伝導で爆発的・即時的な防御咳反射を引き起こす咳受容体は、喉頭、気管、主気管支などの中枢気道に特に高密度に分布し、密度・感受性・即時性・咳反射誘発能は「喉頭から中枢気道に最も多く、最も敏感に分布」している。つまり、喉頭>気管>主気管支>末梢気道の順に咳受容体の密度と咳反射感受性が高い。
喉頭は、食べ物などの異物が侵入した場合、その喉頭刺激で強い咳反射を誘発して、肺を守るために最も敏感な防御機構として作用している。
喉頭には、高速で鋭敏な反射を生む咳反射の「最強のスイッチ」ともいわれるほど咳受容体の密度が高い。そのため、喉頭炎や上気道感染で「刺激性の鋭い咳」が起こりやすい。
末梢気道にもC線維を伝わる化学的咳受容体が分布し、炎症性メディエーターなどに反応し、喘息やCOPDで見られる、ゆっくりとした反射による長引く咳を生みだす。
風邪ウイルス感染によって一度崩壊した気道上皮バリアが修復・再構築されるまでの間、末梢気道からの咳嗽反射よりも、喉頭・中枢気道からの強い咳嗽反射の方がより症状を顕在化し、自他ともに非常に不快な遷延性咳嗽が引き起こされる主な病変部位になるのだと考えられる。
肺炎や喘息などの原因疾患の十分な治療をしても、部分的な改善に留まり遷延する咳を「治療抵抗性咳嗽 Refractory Chronic Cough (RCC)」、様々な検査と治療を施しても原因疾患が特定できない咳は「原因が明らかでない治療抵抗性慢性咳嗽 Unexplained Chronic Cough (UCC)」と呼ばれるようになっている。8週間以上続く遷延性・慢性咳嗽のうち15〜20%がRCC、1〜6%がUCCと報告されている。
こうした慢性難治性咳嗽のうち相当多くが、「咳過敏症 Cough Hypersensitivity Syndrome (CHS)」と呼ばれる病態カテゴリーとして捉えられるものとして経験される。すなわち、低レベルの温度刺激、機械的・化学的刺激を契機に生じる難治性の咳を呈する臨床グループであり、気道知覚神経の過敏状態や中枢神経の機能異常がその主要病態であると想定されうる。
実際には、エアコンなどによる冷気、乾燥した空気、香り、会話などの通常ならば咳を生じない軽微な刺激により生じる喉のイガイガ感、堪えらきれないむせ(urge to cough)に続いて意図的に止められない咳が出る状態が生じ、痰や唾気のような何らかの不愉快なものが引っかかる喉頭感覚異常、かすれ声などの発声異常、喉を中心として息苦しさのような上気道呼吸困難感といった喉頭過敏症状を引き起こす。
気管支喘息やいわゆる気管支炎は喉付近の中枢気道からかなり遠く深いところ(末梢気道)、つまり咳過敏症が生じる部位とはかけ離れた部位で起きる病気である。末梢気道で生じた気管支喘息が十分に治療されたにも関わらず、咳だけが遷延することは日常茶飯であるが、その理由は、喘息の治療が必ずしも喉付近の中枢気道で生じている咳過敏症を治療したことにはなっていないからだと考えられる。
咳過敏症は、主な発症部位が末梢気道と捉えられる気管支喘息とは一部重なるが、異なる疾患カテゴリーとして捉えるべき病態である。
マスギャザリング(人がものすごくたくさん集まること)とは「特定の場所に特定の目的をもってある一定期間、多くの人々が集積することで特徴づけられるイベント」をいい、日本ではおよそ1万人以上を目安としている。万博では世界各国から多様な人が一堂に会することで、さまざまな感染症が持ち込まれ、そこから国内で集団感染やアウトブレイクに発展する可能性があります。大阪・関西万博では約3,000万人弱の総来場者が見込まれており、最も中止すべき感染症として麻疹と髄膜炎菌感染症が挙げられています。実際にすでに麻疹感染者が発生したことが報道されたばかりです。麻疹ワクチン(MMRワクチン)の接種が万博開催期間は特に強く推奨されます。また、ワクチンで予防可能な感染症であり、かつ1例でも発生するとパニックになりかねない髄膜炎菌感染症に対するワクチン接種も同期間にはとても重要だとされています。免疫不全がある場合、侵襲性髄膜炎菌感染症となり急激な経過で死亡することがあります。日本では馴染みのうすい感染症ですが、実際には国内でも2013年から2023年までの10年間で274例が報告されています。2019年ラグビーワールドカップでは、観戦のため来日した人が日本国内で髄膜炎菌感染症を発症しています。聖地巡礼のためのサウジアラビア入国時には髄膜炎菌ワクチンの接種証明が要件となっています。
典型的な夏風邪は一般的にエンテロウイルス属というウイルスグループの中の一部(エンテロウイルスA,B,C,D種とライノウイルスA,B,C種という種類)によって引き起こされます。それぞれの「種」類ごとの代表的ウイルス型は以下のようです。エンテロウイルスA種には、エンテロウイルスA71(手足口病・脳幹脳炎)、コクサッキーA16, A6が、エンテロウイルスB種には、エコーウイルス群(6, 9, 18など)、コクサッキーB1〜B6、コクサッキーA9が、エンテロウイルスC種には、ポリオウイルス1〜3、コクサッキーA13, A20, A21が、エンテロウイルスD種には、エンテロウイルスD68(呼吸器感染、喘息増悪)、エンテロウイルスD70(急性出血性結膜炎)が、ライノウイルスA/B/C種には鼻と気管支にくる風邪ウイルスの大多数がそれぞれ含まれます。
これらのうち、エンテロウイルスB種の中のエコーウイルス18が最近市中に出てきています。
エコーウイルス18は世界中に分布し、特に小児の無菌性髄膜炎の流行株として重要です。アジア、欧州、米国など各国で無菌性髄膜炎のアウトブレイクを引き起こしてきました。中国(2015–2018年)で、欧州(スイス、ドイツなど)では周期的な小規模アウトブレイクを起こしています。温帯地域では夏季に流行しやすく、集団内免疫レベルによって周期的な流行になるとされています。
多くは無症候性感染ですが、夏風邪症状としては、非特異的発熱性疾患(軽い〜高い発熱、咽頭痛、筋肉痛、倦怠感、インフルエンザと似た感じ)になることが多い。稀であるとはいえ、無視できない病状として、無菌性髄膜炎(発熱、頭痛、項部硬直、悪心、嘔吐)や、新生児感染症(まれだが重症化リスクあり。敗血症様症状、中枢神経感染)を引き起こすことがある。エコーウイルスは時に発熱なしで発疹だけを起こすこともあり、単なる湿疹や吹き出物・ニキビに似た発疹に見えるため、ウイルスによる発疹として認識されにくいこともあります。胃腸炎様症状もあります。
簡単にできる検査キットは存在しませんし、一般にその必要性もありません。なぜなら、そうとわかったところで特別な抗ウイルス薬はないからです。夏風邪症状になったところで、特別な治療や薬があるわけではないので、ぐっすりまたはゆっくり休むことが最も効果的な治療方法になります。もちろん、髄膜炎では入院経過観察が必要です。
エンテロウイルス属全般に言えることですが、ここに属するウイルス達はカプシドと呼ばれる鎧のような殻で覆われているため、アルコール消毒ではびくとも壊れません。石鹸と流水でしっかり洗浄しないと、かなり環境中で安定しています。便中にもたくさん放出されます。次亜塩素酸ナトリウム(漂白剤希釈液など)は有効なので、トイレはそれを使ってしっかり掃除してください。
2020年から2022年にかけてSARS-CoV-2の流行とともにインフルエンザ・RSV・パラインフルエンザが消失しました。そして直近の2年間、複数の呼吸器ウイルスが連続的に流行した結果、それぞれが互いに干渉し合い、最終的にそれらの流行が終息したことによって、現在一時的に市中の循環ウイルス量が大幅に低下し、「ウイルス静穏期」に入っています。(この1年間は大の大人が多数肺炎にかかるほど、既存免疫が弱っていて、多くの人が複数の風邪、気管支炎、肺炎にかかりました。消滅していたかに見えていたパラインフルエンザウイルス、百日咳も全部再登場しきりました。)
ウイルス干渉とは、あるウイルス感染が、他のウイルスの感染を抑制する現象のことです。ヒトはウイルスに感染すると、免疫が賦活されます。先に感染したウイルスによって免疫は抗ウイルス状態へ誘導されます。例えば、RSV → インフルエンザ → コロナ のように流行が重なった場合、連続的なウイルス流行によって免疫環境は「干渉強化モード」に保たれます。そのため次に来るウイルスは感染成立が阻害され、流行規模が限定されることになります。この状態が幾重にも繰り返され、市中のヒトの感受性宿主が減り、免疫的「飽和状態」になります。その結果、ほぼすべてのウイルスに対して「部分的に防御された環境」が一時的に形成され、流行する循環ウイルス量が減ることになります。
ウイルス流行後の静穏期(post-epidemic suppression)とは、感染拡大→干渉→終息という波がいくつか続くと、集団内の自然免疫系が「訓練」され、抗ウイルス状態が維持される感受性個体が多数を占めることになり、その結果、数週間〜数ヶ月にわたり複数のウイルスが同時に「出てこない」時期=ウイルス静穏期(viral nadir)が生じるということです。
その後、新たな感受性個体が再増加(例:連続的な流行による免疫訓練を受けていない乳幼児)することで、次の流行波が発生しやすくなります。あるいは、連続した感染拡大時期に参加していなかった別のウイルスによる流行が発生することになります。
Cooperative Virus-Virus Interactions: An Evolutionary Perspective
現在、ウイルス循環の谷にいるのですが、例年通りであればそろそろ夏風邪ウイルスの流行期に入ります。その代表的なウイルスがコクサッキーウイルス(Coxsackievirus)です。コクサッキーウイルスはエンテロウイルス属に属し、A群(A1〜A24) と B群(B1〜B6) に分類されます。ちょっと気がかりな現象が観察されています。2021年〜2024年まではA群による流行が繰り返されていたのですが、昨年秋以降B群の検出率の方がずっと高くなっていて、今年に入ってからは数は少ないもののB群(B5)だけが検出されているのです。
コクサッキーA群は、主に小児に表在性・粘膜性の病変を引き起こしやすく、手足口病(A16, A6)・ヘルパンギーナ(A2-10, A16)・結膜炎(A24)という表面的な病状に終わり、筋肉・内臓への侵襲性は弱く、通常は軽症で済むことが多い。昨年までは、この形で流行しました。一方、B群は、皮膚粘膜症状は少ないが、深部臓器(筋肉・心臓・中枢神経)を侵しやすく、心筋炎・心膜炎・無菌性髄膜炎・新生児敗血症様疾患・胸膜痛症候群(Bornholm病)・膵炎(→1型糖尿病誘因)を引き起こすことがあり、これらの病態は稀ではあるが重症になることがある。好発年齢も新生児~若年成人までと幅広い。
【B群による病状】
心筋炎・心膜炎 :若年男性に多く、胸痛・不整脈。突然死の原因にも。
無菌性髄膜炎(B2-5) :発熱・頭痛・項部硬直。A群より頻度高く、やや重症例も。
新生児感染症(敗血症様) :母子感染。肝炎、心筋炎、脳炎など致死的なことも。
Bornholm病(胸膜痛症候群) :急な胸・腹部筋肉痛と高熱。筋炎を伴う。
膵炎・糖尿病(発症契機):自己免疫性1型糖尿病の誘因ウイルスとして注目されている。
これからしばらくは最も注視されるべきウイルスだと考えています。
パラインフルエンザウイルス 1型(HPIV-1)
教科書的には、好発年齢 6か月〜5歳(特に1〜3歳)、「犬吠様咳嗽」+嗄声+吸気性喘鳴が典型的、急性喉頭気管気管支炎(クループ症候群)の主な原因とされているが、成人の場合は、「声がでません(嗄声)」になる。秋(9〜11月)に流行することが多いといわれているが、春から初夏の今流行している。2年ごとにアウトブレイクが見られる傾向(周期性あり)。発熱・鼻汁・軽い咳で始まり、1〜2日以内にクループ症状(咽頭浮腫による呼吸音異常)へ進展。多くは3〜5日で改善。
パラインフルエンザウイルス 3型(HPIV-3)
生後6か月〜2歳(特に1歳未満)の細気管支炎や肺炎の主要原因、RSウイルスに次いで頻度が高い下気道感染症ウイルス。春〜初夏にかけて(4〜6月頃)に流行することが多い。初期症状は上気道症状(鼻汁、軽度の咳など)、数日後に細気管支炎・肺炎へ進展するケースあり。特に乳児で喘鳴や呼吸困難、陥没呼吸を呈するが、成人でも気管支炎や肺炎で入院の原因になる。高熱を伴うことがあり、持続性だったりする。
Parainfluenza Virus in the Hospitalized Adult; Clinical Infectious Diseases
エンテロウイルス71による手足口病は2023年に大流行しました。コクサッキーウイルスA16、A6による手足口病は2024年に爆発的に1年に渡り長期間流行しました。コクサッキーウイルスA6によるヘルパンギーナは、2023年も2024年も夏を中心に流行するパターンを繰り返しました。下気道炎と急性弛緩性麻痺を引き起こすエンテロウイルス68が昨秋にかなり流行しました。無菌性髄膜炎の主な原因であるエコーウイルス11は昨年秋から冬にかけて大きな流行の山を作りました。咽頭結膜熱の原因になるアデノウイルス1,2,5は2023年から2024年にかけて長期間の流行になりました。感染性胃腸炎を引き起こすアデノウイルス41は昨年後半から今年前半にかけて散発的に流行を持続しています。RSウイルスは今年1〜3月に大流行しました。鼻風邪の最大原因ウイルスであるライノウイルスは今年5月まで2年以上流行が持続していました。今年5月にはメタニューモウイルスも流行しました。
コロナウイルス流行中に感染サイクルが途絶えていたこれらのウイルスは、2023年から2024年にかけて一斉に供給が高まり、今一斉に潮が引くように消えています。
その谷間に久しぶりに登場してきたのが、パラインフルエンザウイルス1,3です。1は主に上気道炎、3は下気道炎の原因になります。
パラインフルエンザウイルスは、ヒトパラインフルエンザウイルス(HPIV)として知られるRNAウイルスで、気道感染症の原因となります。特に小児にクループ症候群(急性喉頭気管気管支炎)、気管支炎、肺炎、上気道炎(風邪)を引き起こすウイルスとして知られています。直近では、長引く咳の原因ウイルスとして、HPIV-3 がライノウイルスの他によく検出されています。
喘息発作の90%は、呼吸器ウイルス(RSウイルス、ライノウイルス、パラインフルエンザなど)が引き金になります。パラインフルエンザウイルスは、喘息発作のトリガー(引き金)となる代表的な呼吸器ウイルスの一つです。小児や乳幼児における初回喘鳴(ぜんめい)の原因、喘息既往歴のある人における発作の再燃、アトピー素因のある人において、ウイルス感染によって気道炎症反応が過剰に起こる原因、喘息患者においては、既にある慢性気道炎症を悪化させる原因になります。
風邪にかかった結果起きている現象は、気管支喘息そのものの症状ですので、咳の風邪なんだけれども喘息薬によって治療することになります。
Impact of viral infection on acute exacerbation of asthma in out-patient clinics: a prospective study: Journal of Thoracic Disease
Naturally Occurring Parainfluenza Virus 3 Infection in Adults Induces Mild Exacerbation of Asthma Associated with Increased Sputum Concentrations of Cysteinyl Leukotrienes: Int Arch Allergy Immunol
よく誤解されているのは、血液検査で特異的IgE抗体が陽性を示すアレルゲンを除去することが、アトピー性皮膚炎の悪化を予防する対策だという迷信です。
アトピー性皮膚炎の場合、多くが何らかのアレルゲンに陽性を示すことが多いのは、皮膚炎があることによって上皮バリアの隙間から内部に侵入してしまった物質に対して免疫が反応するようになってしまった(感作という)結果であって、皮膚炎の原因では決してないということです。
したがって、感作を受けたアレルゲンを除去してもアトピー性皮膚炎の根本的な原因対策にはならない。
最近、盛んに宣伝されている「アレルギー検査」は、アトピー性皮膚炎の原因とは何の関係もないし、その治療には何の役にも立たないということです。同様に、喘息の場合でも、感作を受けた結果である特異的IgE抗体陽性物質は、喘息の治療や予防と直接の関係はありません。
- Detailed Analysis of Immune Tolerance Mechanisms to SARS-CoV-2 in Children Is Needed (2021)『小児コロナ免疫についての論文』
- Early activation does not translate into effector differentiation of peripheral CD8T cells during the acute phase of Kawasaki disease (2010)『川崎病における免疫反応についての論文』
- Tenderness over the hyoid bone can indicate epiglottitis in adults (2006)『急性喉頭蓋炎を見つけるコツを発見した論文』
・一般名処方
当院では、薬剤の一般名処方を記載する処方箋を交付しています。
・明細書発行体制等加算施設基準
当院では、初診時、再診時に、診療内容明細書を無償で交付しています。
・医療DX推進体制整備加算施設基準
当院は、電子資格確認・電子処方箋・電子カルテ情報共有サービスの導入に努め、質の高い医療を提供するための医療DXに対応する体制を整える施設基準申請済みの施設です。
・医療情報取得加算施設基準
当院は、オンライン資格確認体制を有し、診療に必要な情報を取得・活用して診療を行う施設です。