私たちのミッションは、
世の中に元気を拡散させること。
そのために、皆様の病気を
治すお手伝いをすること。
元気がない時、
ここでの小さな出会いと
ふれあいが
回復への起点になること。
そして、前向きな気持ちと
充実した時間を
取り戻してもらうこと。
私たちはいつもと同じように
安心の拠り所で
あり続けたいと思います。
糖尿病薬メトホルミンは、糖尿病でない人が飲んでも寿命を伸ばす作用が確立された長寿薬である。メトホルミンは、20年間で全死因死亡率を36%、その後10年間で27%、さらにその後14年間で20%の有意な相対リスク低下を示している。
糖尿病は、ヒストン修飾、DNAメチル化、非コードマイクロRNAなどのエピジェネティック変異によって持続する炎症誘発遺伝子を形成する。炎症誘発遺伝子の持続的な発現は持続的な低レベルの慢性炎症状態を引き起こす。それに対して、メトホルミンは、ヒストン修飾、DNAメチル化、およびマイクロRNAによる転写活性に作用し、同時に腸内細菌叢の変化を介して炎症老化に拮抗する。また、ミトコンドリア活性化、老化関連分泌表現型を持つ細胞に対するオートファジーとテロメア延長作用により、老化細胞によって引き起こされる慢性炎症に対する拮抗作用を有する。
マウスモデルにおいて、抗炎症作用を有するメトホルミンは、気道抵抗を変えることなく、肥満型喘息における非アレルギー性気道過敏性による炎症を軽減した。この知見は、メトホルミンが肥満型喘息の補助薬理療法となる可能性を示唆している。
さらに、メトホルミンはマウス気道の好酸球性炎症および気道のリモデリングを抑制し、酸化ストレスを抑制することも示されている。
そして、ヒトにおける疫学的エビデンスが得られた。メトホルミンは喘息発作のリスクを30%低下させ、GLP-1受容体作動薬の追加投与は、さらに40%のリスク低下と関連していた。血糖コントロール、体重、喘息の表現型に関わらず、これらの関連性が認められた。メトホルミンは喘息発作の有意な低下と関連し、GLP-1受容体作動薬の追加投与は相乗的な相加効果と関連していることが示唆されている。
Metformin reduces all-cause mortality and diseases of ageing independent of its effect on diabetes control: A systematic review and meta-analysis
Effect of intensive blood-glucose control with metformin on complications in overweight patients with type 2 diabetes (UKPDS 34)
Legacy effect of intensive glycaemic control in type 2 diabetes—the UKPDS
10-Year Follow-up of Intensive Glucose Control in Type 2 Diabetes
Metformin: From diabetes to cancer to prolongation of life
Metformin Alleviates Airway Hyperresponsiveness in a Mouse Model of Diet-Induced Obesity
Metformin Counteracts the Deleterious Effects of Methylglyoxal on Ovalbumin-Induced Airway Eosinophilic Inflammation and Remodeling
Antidiabetic Medication and Asthma Attacks:JAMA Internal Medicine
人間の老化は、ゲノム不安定性、テロメアの崩壊、エピジェネティックな変化、タンパク質恒常性の欠陥、栄養感知の調節不全、ミトコンドリア機能不全、細胞老化、幹細胞の枯渇、細胞間コミュニケーションの変化など、分子および細胞の異常により、生涯を通じて身体の完全性の包括的な低下をもたらす。こうした不可逆的な老化現象は、細胞機能障害、損傷に対する応答障害、細胞環境の変化として現れる。
生涯にわたって進行性の加齢に伴う免疫システムの劣化「免疫老化」は、自然免疫と獲得免疫の両面において進行し、貪食細胞を中心とした自然免疫応答の低下と獲得免疫応答の低下を引き起こし、感染症に対する感受性の高まりや感染症の重篤化、自己免疫疾患および加齢関連疾患の進行につながる。免疫老化を起こし疲弊した老化細胞は、慢性の低レベルの炎症を促進・持続させ、「炎症老化」と呼ばれる慢性の全身性無菌性炎症を促進する。この加齢に伴う慢性の低レベルの炎症が、フレイル、2型糖尿病、アルツハイマー病、関節リウマチ、加齢関連肺疾患など、加齢に伴う疾患の病因になっている。
呼吸器環境においても、肺実質および免疫系の加齢に伴う変化が生涯を通じて起きている。
老化した気管支上皮細胞は粘液繊毛機能およびムコイド産生を増加させ、これを悪化させ、感染および有害病原体に対する感受性を高める。
加齢に伴う免疫の変化は、病原体、真菌、ウイルス、汚染物質、損傷細胞、放棄された細胞片、老化細胞に由来する損傷関連分子パターンなど、様々な刺激によって促進される。免疫老化によって、樹状細胞の抗原提示能力の障害と自己抗原に対する反応亢進、好中球やマクロファージの病原体を貪食する作用の障害、NK細胞の機能低下、T細胞およびB細胞の老化、それらによる病原体の組織環境内への定着、TH17細胞の増加とTreg細胞の減少による炎症性メディエーター産生の増強と持続および老化関連分泌表現型の生成などが引き起こされる。免疫老化中の老化細胞は低レベルの炎症性サイトカインを産生する。炎症老化の結果蓄積した好酸球と好中球は協力して気道の炎症とリモデリングを促進し、肺機能のより深刻な低下を引き起こす。このように免疫老化は炎症老化(慢性の低レベルの炎症)・非2型炎症を進行させ、成人喘息および高齢者喘息の晩発性発症の一因となると同時に、炎症老化を伴う2型炎症は、不安定な喘息状態の進行につながっていく。肺実質の老化と炎症老化は、慢性閉塞性肺疾患や肺線維症などの加齢性肺疾患を引き起こす原因にもなる。
Immunosenescence, Inflammaging, and Lung Senescence in Asthma in the Elderly: MDPI
非2型喘息における好中球性炎症を捉えるバイオマーカーとして、IL-6、メタロプロテアーゼ9(MMP9)、喀痰中の特定のマイクロRNAが候補に上がっているが、実臨床で使用可能で決定的なバイオマーカーは今のところ存在しない。そもそも、血中/喀痰中好中球が臨床的に重要な役割を果たしているのか、それとも局所的な炎症反応の副産物に過ぎないのかは依然として不明であり、好中球性炎症の所見は、同時進行する高用量コルチコステロイド療法、環境汚染やタバコの煙への曝露、あるいは併発する細菌感染など、様々な無関係な原因によって二次的に生じている結果である可能性がある。にも関わらず、2型喘息と非2型喘息に分けるアプローチは、2型炎症の比較的単純なバイオマーカーの存在と、2型サイトカインを標的として治療法が利用可能である現況において、実臨床上極めて有用な方法になる。
① 成人発症非アトピー性喘息
成人発症の非2型喘息は好酸球増多などの2型炎症マーカーを認めず、好中球性(喀痰中の好中球数が40~60%超)または少顆粒球性(喀痰中の好酸球数と好中球数がともに正常)の炎症と、コルチコステロイド療法への反応の欠如を特徴とする。この条件だけでは、経過および呼吸機能低下の予後については様々である。
② 肥満関連喘息
肥満は喘息罹患率の重大な危険因子である。非アトピー性中年女性による肥満関連喘息では、肺機能が中等度に保たれているにもかかわらず、重度の症状を呈する。肥満喘息症候群では分子レベルでの非好酸球性炎症メカニズムが示唆されている。肥満はCD4細胞をTh1型へ分化させ、これがステロイド抵抗性喘息と関連している。Th17経路や自然免疫系リンパ球(ILC)を含む自然免疫応答も関与していることが示唆されている。また、より重症の喘息を有する一部の肥満患者において血漿中IL-6濃度が上昇していたのに対し、全ての肥満喘息患者において上昇していたわけではない。重症喘息を有する肥満関連喘息では、IL-17、IL-22、IL-6の好中球性炎症惹起性サイトカインが臨床的に重要である。
③ 喫煙関連喘息
喫煙関連喘息は非2型好中球性、ステロイド抵抗性の表現型と考えられている。好中球とマクロファージの活性化を引き起こす酸化ストレスによるメカニズムが推定されている。喫煙はアレルゲンに対する感作のリスクも高め、総IgEを増加させ、「喘息-COPDオーバーラップ症候群(ACOS)」を引き起こす。この用語は、かなりの喫煙歴があり、その結果として気流閉塞があり、喘息の重複した特徴(気管支拡張薬の可逆性、好酸球増多、アトピー)も持ち合わせている患者を区別する。主要基準には、40歳以上で10パック・イヤー以上の喫煙歴を持つ患者における持続的な気流制限、および40歳未満での喘息発症があり、副次基準には、アトピーの既往、有意な気管支拡張薬の可逆性、および末梢血好酸球増多が含まれる。
③ 超晩発性喘息
超晩発性喘息の診断における年齢のカットオフ値は、一部の研究では50歳以上、他の研究では65歳以上と定義されている。肺の老化は、弾性収縮力の低下や機械的な不利な状況による肺機能の低下を引き起こす。そうした正常な老化による影響に加えて、免疫老化が高齢喘息患者に重要な影響を及ぼしている。高齢喘息ではTh1およびTh17の炎症に続発して痰の好中球増加症が増加している。
Understanding Asthma Phenotypes, Endotypes, and Mechanisms of Disease
2型に偏った気道炎症は、喘息患者全体の半数のみ、重症喘息患者の37%にしか認められない。非2型喘息は好酸球増多などの2型炎症マーカーが存在しないことが特徴である。非2型喘息は、好中球性(喀痰中の好中球数が40~60%超)または少顆粒球性(喀痰中の好酸球数と好中球数がともに正常)の炎症と、コルチコステロイド療法への反応の欠如を特徴とする。2型炎症が低い喘息では、Th1細胞および/またはTh17細胞の活性化が生じており、Th17/Treg細胞の不均衡が、ステロイド抵抗性喘息、重症喘息、および好中球性喘息において重要な役割を果たしている。
ただし、好中球性気道炎症が原因なのか結果なのかは未解決である。好中球の存在は高用量ステロイド治療による副産物であるかもしれないし、ステロイド療法によって2型炎症反応が検出閾値以下に隠蔽されているだけなのかもしれない。重症好中球性喘息は、非定型細菌による慢性感染症、肥満、喫煙、気管支平滑筋増殖異常と関連している。
好中球性気道炎症では、Th1偏向炎症が認められる。重症喘息患者の約50%において、インターフェロン-γ産生を特徴とするTh1細胞の活性化が認められている。インターフェロン-γの上昇は、気道抵抗の上昇、炎症性浸潤の増加、およびステロイド不応性と関連している。
非2型Th17高発現型喘息はステロイド依存性難治性喘息である。このような重症喘息の気管支壁ではTh17サイトカインであるIL-17が増加している。IL-17の活性化は好中球性炎症を引き起こし、好中球浸潤、喘息過敏性亢進、ステロイド抵抗性の原因になっている。さらにIL-17Aは気管支平滑筋細胞の増殖を促進することで気道狭窄と気管支壁へのコラーゲン沈着を促進し、固定性気流障害を引き起こす。気管支上皮細胞で産生されるIL-8は気管支壁への好中球動員を促進する。
Understanding Asthma Phenotypes, Endotypes, and Mechanisms of Disease
好酸球性気道炎症は喘息において最も影響力のある病態の一つであり、2型喘息診断のゴールドスタンダード・バイオマーカーは誘発喀痰中の好酸球3%以上とされている。2型喘息は典型的には好酸球と関連しているが、好酸球の存在自体が病態形成に最も影響力がある病原性細胞型であるわけではなく、好酸球を除去しても2型喘息が治るわけではない。好酸球は2型喘息の表現マーカーに過ぎない。
2型喘息の典型である早発性アトピー型喘息は、アレルギーが原因ではなく、むしろ上皮形成に関与する遺伝子異常(皮膚や気管支壁という体を覆うバリアの組成になる線維形成経路を活性化する遺伝子の異常)が原因であることが全ゲノム関連研究(GWAS)などによって示されている。
呼吸器ウイルス(特にライノウイルス)は喘息増悪の最も一般的な誘因であるが、2型喘息はウイルス感染により特に増悪しやすい。最近の研究では、呼吸器ウイルス感染の状況下で、局所の自然抗ウイルス免疫応答の欠陥と同時に、Th2サイトカインの産生増加を伴うプロT2応答が亢進しやすいことが示されている。さらに、喘息患者では自然免疫(インターフェロンシグナル伝達経路)の欠陥や肺胞上皮細胞のインターフェロン産生不足が元々あるためウイルス感受性が高くなっている、つまり風邪ウイルスに罹患しやすい免疫学的欠陥が元々ある。アレルギー性喘息で上昇しているIgEはIgE/FcεR1という架橋を形成し、ウイルス誘導性の形質細胞様樹状細胞(pDC)におけるインターフェロン-α応答を阻害することが示されている。
さらに、重症喘息になる原因として、気道上皮におけるタイトジャンクションの形成に関与するカドヘリン関連ファミリーメンバー3(CDHR3)遺伝子の異常が示されている。ライノウイルスCは、細胞侵入の受容体として宿主上皮CDHR3に依存し、それによって既に脆弱な上皮バリアにおけるタイトジャンクションを減少させる。
さらに最近、慢性アレルギー性喘息の症状が、神経刺激因子と関連していることが注目されている。神経成長因子(NGF)の高発現により、好酸球の活性、アレルゲンを介した好酸球炎症、ひいては気道過敏性を増強することが示されている。
Understanding Asthma Phenotypes, Endotypes, and Mechanisms of Disease
2型喘息には、①早発性アトピー性喘息、②遅発性好酸球性喘息、③アスピリン増悪性呼吸器疾患(AERD)の3つの型がある。
①早発性アトピー性喘息
早発性の別名「外因性」アレルギー性喘息は、典型的な喘息の表現型で、一般にイメージされている「小児喘息」のことである。この表現型の特徴は、総IgE値または特異的IgE値の上昇が認められることであり、アレルギー皮膚テスト陽性および血清特異的IgE値の上昇によって、②や③の2型非アトピー性喘息と区別される。
②遅発性好酸球性喘息
成人発症の2型喘息患者の一部は、分子メカニズム不明のステロイド抵抗性好酸球性表現型を示す。気道2型炎症は、喘息患者の約半数において吸入ステロイド療法では改善せず、これらの患者は高齢で、固定性気流閉塞を伴い、発症早期からより重症な形をとりやすい。患者の大多数は、喘息発症に先行して鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎を併発する。一般的に、吸入/経口ステロイド治療に抵抗性の顕著な血中および喀痰中の好酸球増多を特徴とする。
アトピー所見は一般的に認められないが、2型自然免疫の亢進が特徴である。黄色ブドウ球菌エンテロトキシン(SE)特異的IgEの高発現とIL-5およびIgEの高値を示す慢性副鼻腔炎を伴う喘息型が典型的である。好酸球増多に加えて喀痰中好中球増多を呈することがあり、Th2/Th17相互作用が関与していることが示唆されている。
③アスピリン増悪性呼吸器疾患(AERD)
上記の遅発性好酸球性喘息の一部に、COX-1阻害薬誘発性呼吸器反応を有するものがある。
プロスタグランジンE2(PGE2)発現の喪失とその受容体の恒常的な機能低下があるため、グループ2自然リンパ球(ILC2)、肥満細胞、および好酸球の活性化が抑制されにくい。そしてそれらの細胞の中で、5-リポキシゲナーゼ(5-LOX)経路代謝が優先されるため、結果的に強力な気管支収縮因子であるロイコトリエンが恒常的に過剰産生される。アスピリンは強力なCOX-1/COX-2阻害剤であり、COX阻害は、アラキドン酸代謝をCOX経路から5-LOX経路へと移行させるため、気管支収縮因子であるロイコトリエンを異常産生させることになる。こうした脂質代謝異常の結果生まれるメディエーターによって、組織および血中に深刻な好酸球増多を引き起こす。最終的には、難治性鼻茸を伴う重篤な持続性上気道疾患および下気道疾患の形をとる。
Understanding Asthma Phenotypes, Endotypes, and Mechanisms of Disease
「喘息」という病名を聞いて一般に想起されるイメージは、ダニなどに対する特異的IgE(と過剰なTヘルパー細胞2型(Th2)反応)によって気道過敏性(咳)や気道閉塞(喘鳴)が引き起こされるという単一疾患のものである。しかし、例えば、乳幼児喘息と高齢者喘息だけをとってみても、喘鳴や咳など臨床症状が類似しているにも関わらず、同じ治療に対して全く異なる反応を示すことがしばしばあり、専門的には別々の病気と捉えられている。それは、細胞・分子レベルで異なる病態生理学的メカニズムが働いているからであり、現在、「喘息」は、若年性アトピー性喘息、肥満中年型喘息、高齢者喘息など複数の多様な型から成る集合を包括するアンブレラ診断名とされている。
30年以上前に、獲得免疫系の古典的なCD4+T細胞サブセット(Th1およびTh2サブポピュレーション)が発見されて以来、Th2細胞が好酸球性気道炎症の主な駆動因子であることが認識された結果、喘息はTh2高(好酸球性)とTh2低(非好酸球性)という2つの型に分けられた。しかし、近年、自然免疫系のグループ2自然リンパ球(ILC2)も気道における2型免疫応答の増強において重要な役割を果たしていることがわかってきて、自然免疫と獲得免疫が複雑に相互に関連していることがますます認識されている。Th2細胞とILC2は共に2型免疫の主要な制御因子であり、2型サイトカインの産生を誘導する。現在、Th2型炎症は2型炎症とも呼ばれている。このような免疫病態に基づいて、喘息は主に2型喘息と非2型喘息の2つに分けられるようになっている。
Understanding Asthma Phenotypes, Endotypes, and Mechanisms of Disease
過去の研究および現在のガイドラインでは、COPD、気管支拡張症、慢性気管支炎の増悪は主にライノウイルス、メタニューモウイルス、インフルエンザ、パラインフルエンザなどのウイルスによって引き起こされ、細菌や大気汚染などの他の炎症原因がわずかに関与しているとされていた。
しかし、この研究では、緑膿菌またはインフルエンザ菌による慢性気道コロニー形成のあるCOPD集団において、増悪時にウイルス感染の証拠は見つからず、むしろ増悪時よりもベースライン時にウイルスが多く見つかった。さらに、増悪の57.7%つまり半数以上で症状悪化の原因となる新たな細菌またはウイルスが検出されなかった。これは、緑膿菌やインフルエンザ菌といった病原体による慢性気道コロニー形成が、増悪時に存在する炎症を引き起こし得ることを示唆している。緑膿菌やインフルエンザ菌による慢性コロニー形成は、炎症、免疫調節異常、酸化ストレスを引き起こすことが知られている。
研究対象のCOPDと気管支拡張症の患者の85%に緑膿菌が、45%にインフルエンザ菌が慢性気道コロニーを形成していた。他に、18%に肺炎球菌、13%にモラクセラ・カタラーリス、3%に黄色ブドウ球菌が定着菌としてコロニーを形成していた。このように慢性気道感染症のマイクロバイオーム。プロファイルは、多様性の低下と構成微生物の偏移が特徴である。(一方、健常者のマイクロバイオームでは、多様な細菌、主にプレボテラ属、ベイヨネラ属、および連鎖球菌属が少量存在する。)
COPDまたは気管支拡張症による慢性気管支炎の増悪のうち、新な細菌が19.8%に、新なウイルスが15.5%に、新たな細菌とウイルスの両方が7.0%に検出された。一方、57.7%つまり増悪の半数強からは新たな感染はなく、定着微生物またはその他の増悪原因に関連していた。
増悪患者のうち8割近くで緑膿菌が検出されたが、そのうち新規感染による検出は1%未満であり、ほとんどは定着菌による持続感染であった。黄色ブドウ球菌は増悪患者の3%で検出されたが、そのうち1/3は持続感染であった。肺炎球菌は増悪患者の20%で検出されたが、その半分が新規感染検出、半分は定着菌による持続感染であった。モラクセラ・カタラーリスは増悪患者の17%に検出されたが、新規感染検出分が10%、定着菌検出分が7%だった。インフルエンザ菌は増悪患者の1%で新規感染として検出され、増悪患者の46%で持続感染として検出された。
このように、緑膿菌またはインフルエンザ菌による慢性気道コロニー形成のある慢性気管支炎において、増悪の半数以上で症状悪化の原因となる新たな微生物が検出されなかった。新規細菌感染が示されたのは増悪の26.8% にすぎなかった。
ライノウイルス、パラインフルエンザ 3 型、コロナウイルス OC43 がいずれも対象の5%以下にベースラインウイルスとして検出され、インフルエンザ A 型、メタニューモウイルス、コロナウイルス HKU1、RS ウイルスが増悪時に検出されたが、インフルエンザA型以外は数%の検出率にすぎなかった。増悪の15.5%がこれら呼吸器ウイルスの検出と関連しているにすぎなかった。
これらのデータは、細菌定着を有するCOPDまたは気管支拡張症または慢性気管支炎患者が増悪を呈した場合、定着持続細菌感染に焦点を当てた治療が適切であることを示唆している。症例のほぼ3/4において増悪時点で新たな細菌は認められず、過去の検体に基づく治療が、大多数の増悪において有効である。
中葉症候群(MLS)は、肺の中葉が縮小することで生じる長期的な無気肺を指す用語であり、中葉の慢性的な虚脱と気管支拡張を呈する肺の疾患です。右中葉と左舌下葉は、側副換気不良を起こしやすい解剖学的特徴を有するため慢性的な虚脱を起こしやすい部位です。患者は男性より女性に多く、女性は男性よりも発症年齢が高い。
中葉の反復性虚脱や肺炎から気管支拡張症に至るまで、様々な病理的臨床的病変が見られます。MLSは閉塞型と非閉塞型に分類されます。MLSのわかりやすい原因は、腫瘍またはリンパ節腫大による気管支気道への外因性圧迫や肉芽種性感染症による気管内病変による閉塞および鬱血により、慢性炎症、気管支拡張症、再発性肺炎および瘢痕形成を引き起こす閉塞型です。一方、MLSの大多数は非閉塞性型です。成人および小児において、右中葉気管支または左上葉舌部が損傷されていないにも関わらず再発性肺炎を呈し、喘息、気管支炎、嚢胞性線維症を合併することがよくあります。
MLSは、胸痛、持続性咳嗽、多量の痰、喀血、呼吸困難、膿性痰、再発性肺炎の兆候など、複数の症状を呈することがあり、そのうち慢性咳嗽と痰が最も多く、喀血が最も少ない症状です。
小児では、特に喘息またはアトピーの既往歴を持つ患者に見られることが多く、急性喘息で入院した小児におけるMLSの発生率は5~10%とされています。この報告による右中葉症候群(MLS)の小児患者4名は、持続性湿性咳嗽、呼吸困難、および反復性喘息増悪の症状を呈していました。全例が閉塞型であり、喘息を合併し、粘液が気管支を閉塞していました。X線検査では右中葉症候群(MLS)に一致する所見が確認され、気管支鏡検査では右中葉気管支を閉塞する粘液栓子と浮腫性気道が明らかになりました。気管支拡張薬、抗生物質、およびコルチコステロイドによる治療により、症状は改善し、無気肺も消失しました。
MLS症候群の治療は、根本的な原因への対処に重点が置かれます。感染症が原因の場合は、感染症を効果的に治療するために抗生物質が処方されることがあります。気道を広げ、呼吸を改善するために気管支拡張薬が使用されることもあります。体位ドレナージ(肺からの粘液排出を促す体位をとる技術)は、気道の浄化を促進するために推奨される場合があります。右中葉切除術が行われることもあります。
cotton rat(ワタオネズミ)は Sigmodon(シグモドン)属に含まれるげっ歯類で、研究モデル動物(特に呼吸器ウイルス研究:RSウイルス、パラインフルエンザウイルスなど)としてもよく利用されます。その中で Sigmodon hispidus(hispid cotton rat) と Sigmodon fulviventer(fulvous cotton rat) の両者はシグモドン属の中でも特に近縁で、分子系統解析では姉妹群関係にあります。
S. hispidusは、北米南東部から中米に広く分布、毛が「hispid(剛毛状)」で粗い印象、体色は灰褐色〜黄褐色。一方、S. fulviventerは、主にメキシコ高地や南西米国に分布、腹部がより黄色味「fulvous(黄褐色)」がかっているが、体毛は S. hispidus よりも滑らかで淡色傾向。
互いに非常に近縁ですが、分類学的には両者の遺伝的距離は 5–7% 程度とされ、別種として扱われています。
これら二種のネズミに、ヒトパラインフルエンザウイルス3を感染させると、感染後2日目から5日目まで鼻腔および肺でウイルスは増殖し、感染性ウイルスは8日目にかけて排除されていった。鼻粘膜上皮では、ウイルス複製ではわずかな組織学的変化しか生じなかった。決定的な違いは、肺病変の起こり方でした。
S. hispidus の肺では、細気管支炎が引き起こされ、細気管支周囲リンパ球細胞浸潤は感染後6日目にピークに達し、間質性肺炎の要素はわずかに存在するのみだった。対照的に、S. fulviventer の肺では、間質性肺炎が引き起こされ、病変は感染後6日目までに最大限に達し、細気管支周囲リンパ球浸潤は最小限にとどまっていた。
両種のネズミの肺病変は感染後9日目にはほぼ治癒し、感染後16日目には感染の痕跡すらなくなっていた。
ヒトが実際にパラインフルエンザウイルスにかかっても、大抵自然治癒してしまって、ネズミと同じように跡形なく治ってしまうので、肺の中でどのような出来事が起きたかどうかはわからないままです。また、パラインフルエンザウイルスの有効な検査キットが存在しない条件の下、一定の流行状況と臨床症状によって推測するしかない状況で、レントゲンで肺炎像を認めた場合に、そのパターンが人種によって、あるいは個体によって一定の傾向がないとすると、一般外来における肺炎の原因の絞り込みはなかなか難しいということになります。
急性喉頭炎の病因は、感染性と非感染性に分類できます。感染性の方が一般的で、通常は上気道感染症に続いて発生します。多い順に、ライノウイルス、パラインフルエンザウイルス、RSウイルス、コロナウイルス、アデノウイルス、インフルエンザなどのウイルス性病原体は、いずれも潜在的な病原体です。ウイルス性喉頭炎では、細菌による重複感染が起こることがあります。これは通常、症状発現から約7日後に発生します。
最もよく見られる細菌は、多い順に、肺炎球菌、インフルエンザ菌、モラクセラ・カタラーリスです。ワクチンで予防可能な熱性発疹性感染症である麻疹、水痘、さらに百日咳も急性喉頭炎の原因になります。真菌感染による喉頭炎は、免疫不全者や吸入ステロイド薬を使用している患者では、慢性喉頭炎として発症することがあります。
成人における急性感染性喉頭炎は、上記のウイルスによって引き起こされる場合が最も多く、小児の急性喉頭炎でも同じウイルスが原因となることが一般的です。ただし小児の場合は、パラインフルエンザウイルス(最も一般的にはパラインフルエンザ1型)によるクループ(喉頭気管支炎)も鑑別が必要です。クループは、単独の音声症状を呈する場合もありますが、典型的には特徴的な「犬吠様」咳嗽を伴い、吸気性または二相性喘鳴へと進行することがあります。
急性非感染性喉頭炎は、声帯外傷/乱用/誤用、アレルギー、胃食道逆流症、喘息、環境汚染、喫煙、吸入損傷、または機能障害/転換性障害によって引き起こされます。
声の誤用や乱用による喉頭炎は、イベント後のコーチ、ファン、選手によく見られます。また、声楽家、特に最近パフォーマンスの強度や頻度が増した人や、正式な発声指導や歌唱指導を受けていない人に起こります。胃食道逆流症(GERD)、特に食道外GERD(咽喉咽頭逆流症)は、喉頭炎の原因として多い。急性または慢性、断続的に現れることもあります。GERD患者の3分の1は喉頭/声の症状のみを経験します。GERDの既往歴、頻繁な咳払いや咳、咽頭ゴロゴロ感、声の荒さがあります。歌手の場合は、高音域が出なくなることで気づかれます。
喘息では、慢性のステロイド吸入器の使用により、特にステロイド吸入器使用後のうがいを怠っている場合、真菌性喉頭炎を起こすことがある。咳喘息では、繰り返す咳により声帯に反復性の損傷を引き起こし、急性喉頭炎によって声が変わることがあります。季節性および環境性アレルギー、季節性または持続性の大気汚染などの環境的原因は、声帯を刺激し、急性喉頭症状を誘発することがあります。喫煙やその他の薬物使用による意図的な吸入であれ、意図しない暴露であれ、有害物質の吸入は喉頭を刺激し、声帯の浮腫や声の症状を引き起こすことがある。人によっては、香水、コロン、洗剤、または日常生活でよく使用されるその他の芳香剤に敏感な場合もあります。機能性発声障害は、転換性障害群のことであり、幅広い音声喪失症状を呈します。仕事や愛する人を失うといった最近の大きな生活ストレスが誘因になっています。
現在流行中のコロナウイルスは、オミクロン系統のNB.1.8.1株とされています。オミクロン系統への変異により、主な病巣が下気道から上気道に移ったため、重症肺炎を引き起こすことが少なくなり、代わりに咽頭や喉頭が主な病巣になりました。時々厄介な症状を引き起こします。急性喉頭炎とクループです。
急性喉頭炎と診断された患者の大多数は男性であり、ワクチン接種を完了していた。喫煙者はいなかった。全患者がCovidに初めて感染し、急性嚥下痛を呈していた。特徴的な内視鏡所見は、主に声門上部に白色の剥離不能である病変を伴う喉頭の発赤であった。梨状窩への唾液貯留は、患者の入院の独立した予測因子であった。挿管や気管切開を必要とした患者はおらず、全員がステロイドと抗生物質による全身治療に反応した。
潰瘍性喉頭炎は、典型的には重度の咳を伴う疾患の後に発症する特徴的な病態です。声帯の粘膜潰瘍が特徴的な診断所見であり、主症状である重度の嗄声の原因になっている。この疾患は咳のしすぎによる声帯の外傷である。治療は、発症時に咳が残っている場合はそのコントロールと、逆流性食道炎治療薬、経口ステロイド、完全または部分的な声の安静など、一連の抗炎症処置になります。抗生物質、抗真菌薬、抗ウイルス薬、またはこれらの併用も使用される場合があります。臨床経過は長期にわたるのが一般的で、潰瘍の治癒には6週間以上、多くの場合数ヶ月かかります。症例数が少ないため、上記の介入のうちどれが疾患経過の短縮に有効であるかを判断することは困難です。音声の転帰は概ね良好ですが、瘢痕性変化は粘膜の柔軟性と音声に長期的な残存影響を及ぼす可能性があります。
オミクロン変異株の蔓延に伴い、この潰瘍性喉頭炎の発生率が著しく増加していました。症状発症から受診までの平均期間は15日。全患者に発声障害が見られた。その多くはワクチン接種を完了していました。治療は、音声安静、ステロイド、抗生物質、逆流防止薬、鎮咳薬などが使用されていた。
クループは、主にパラインフルエンザウイルスによって引き起こされる急性上気道疾患です。上気道の炎症と浮腫により、小児は犬吠様咳嗽と吸気性喘鳴を呈し、呼吸困難を呈する場合もあります。5歳未満の入院患児の調査で、オミクロン波の急増時にクループ症例が急増していたことが観察されています。オミクロン波期間のクループ症例の割合はデルタ波のそれの10倍でした。
COVID-19 Omicron variant-induced laryngitis
COVID-19–Induced Acute Laryngitis: A Case Series
Increased Incidence of Ulcerative Laryngitis During Spring 2022 Omicron-Variant Wave of COVID19
Croup as a Manifestation of SARS-CoV-2 Omicron Variant Infection in Young Children
痰中に60%を超える好中球を有する成人喘息患者(好中球性喘息)は、高齢、男性、発症が遅い、肺疾患がより重篤な傾向があり、アトピーとの関連が少なく、呼気一酸化窒素(FeNO)レベルが低く、30ppb未満であることがよくある。(小児では、気道好中球増多はそれほど一般的ではなく、発生する場合は急性または亜急性気道感染であることが多い。)病原性を持つ可能性のある気道細菌を保有しており、一般的な喘息治療に抵抗性である。
好中球性喘息は成人全喘息症例の約20~30%(5人に1人)を占めている。喘息の増悪の大部分が非好酸球性であり、好中球増加によるものである(好中球68%、好酸球0.3%)。
喘息における肺の好中球動員は、気道汚染物質や潜在的病原細菌の存在などによって引き起こされる肺の炎症に対する「正常な」反応である。好中球は極めて重要な「第一線」の免疫応答を担い、炎症の原因に関わらず、肺に最初に動員されるエフェクター細胞の一つである。最も豊富な白血球でもあり、循環血中の白血球の70%を占めている。気道炎症部位では、好中球はインフルエンザ菌や肺炎球菌などの標的物質を貪食して退治する。
ところが、加齢によって好中球の微生物殺傷能力は低下していく。小児とは対照的に、高齢者の好中球は病原体除去の有効性が低下すると同時に、むしろ傍観者として宿主気道細胞を損傷する傾向がある。好中球性喘息の成人患者では、抗炎症機能不全と同時に、炎症誘発性メディエーターの放出増加によって、粘液過剰分泌および気道リモデリングが生じる。
小児に多い好酸球性喘息では確かに、肺炎球菌 S. pneumoniae、連鎖球菌 S. pyogenes、百日咳 Bordetella pertussis、レジオネラ Legionella pneumophila、マイコプラズマ Mycoplasma pneumoniae、クラミジア Chlamydia pneumoniaeなどの細菌性病原体に弱く、それらによる急性呼吸器感染症を罹患しやすい。しかし、急性感染症がない通常時には、好酸球性喘息患者の気道内細菌レベルは低く、ゲメラ属、連鎖球菌属、ナイセリア属など主に上気道微生物叢の一般的な構成菌であり、気道細菌多様性も保たれている。
一方、好中球性喘息では、気道内の好中球増加に伴って、宿主の免疫応答に抵抗できる少数の細菌である、ガンマプロテオバクテリア属細菌、特にインフルエンザ菌(H. influenzae)とモラクセラ・カタラーリス(Moraxella catarrhalis)、さらに連鎖球菌(S. pneumoniae)の気道内での大幅な増殖と、細菌多様性の顕著な減少が見られる。これは気管支拡張症、COPD、嚢胞性線維症など、気道好中球増多を特徴とする他の慢性呼吸器疾患のマイクロバイオーム環境と同じである。
好中球性喘息では、他の慢性呼吸器疾患と同じように、気道クリアランス障害と粘液過剰分泌の結果として好中球が気道分泌物中に蓄積すると同時に、インフルエンザ菌、緑膿菌、黄色ブドウ球菌といった呼吸器系日和見病原体が分泌物内で増殖し、細菌負荷の増加と細菌多様性の減少を引き起こす。気道内細菌増殖に伴う気道炎症の増加は、さらなる気道クリアランスの低下と微生物叢多様性の低下を悪化させ、慢性的な細菌定着と気道好中球増多の持続的なサイクルに入る。好中球エラスターゼは、気道粘液腺の過形成、粘液分泌、気道平滑筋細胞の増殖、気道過敏性、杯細胞化生、炎症細胞浸潤を引き起こし、慢性好中球浸潤によって持続的な気道損傷およびリモデリングが進行していく。このような慢性好中球増多および気道感染は、気管支拡張症と同じように 重症のコントロール不良喘息患者においてよく見られる。
好中球性喘息を含めた慢性呼吸器疾患全般において、加齢に伴い、機能不全に陥った好中球性炎症という環境が、気道マイクロバイオームの構成に対する選択圧となっている。対照的に、小児喘息では、好中球は有害事象との関連性が低く、小児においては好中球の病原性が低い可能性がある。好中球性喘息における気道細菌、炎症、そして好中球増加症の間の悪循環が確立するには加齢という相当な時間が必要である。
Neutrophils in asthma: the good, the bad and the bacteria:BMJ Journals Thorax
RSウイルス感染症に感染した乳児のうち26%に、少なくとも1種類の追加ウイルスが存在していました。かなり厳格な基準を用いた検出率なのでかなり控え目な数字になっています。あらゆる年齢の小児における呼吸器感染症における複数ウイルス同時検出率が10~65%と報告されていることと一致します。 同時に、病原性の高い呼吸器細菌では、乳児の91%でモラクセラまたは連鎖球菌(肺炎球菌)またはヘモフィルス(インフルエンザ菌)が検出されました。
一般に、ウイルスの重複同時感染率は年齢とともに低下するが、乳児および幼児では成人よりもウイルスの重複同時感染率が高い。 しかし、より詳細に見れば、生後3ヶ月までの最年少児では、母親からの抗体の影響のためか重複同時感染率は低く、4ヶ月以上の年長児では保育施設への通園などの社会的接触機会の増加のため、より多くの呼吸器系ウイルスに曝露されているためなのか、重複同時感染率が高かった。
ライノウイルスは最も多く同時検出されたウイルスであり、RSウイルス感染乳児の16%で検出された。ライノウイルスはRSウイルスに次いで小児における重症肺炎を引き起こす2番目に多いウイルスであり、また健康な小児または重症肺炎のない小児では最も一般的な風邪ウイルスである。実は、RSウイルスとライノウイルスはウイルス干渉効果により、同時感染しにくいウイルス同士であり、他の報告と合致したこの数字は、ライノウイルス同時感染率としての最大公約数だと考えられる。RSウイルス感染症乳児の5%以上は他の重複感染はなかった。
RSウイルスに加えて他の呼吸器系ウイルスの重複同時感染がある場合は、集中治療および人工呼吸器の必要性が高まった。しかし、ウイルスの同時検出と重症度との全体的な相関は小さく、同時検出されたウイルスはいずれも疾患の重症度と関連していなかった。
他の報告では、ライノウイルス、ヒトメタニューモウイルス、またはヒトパラインフルエンザウイルスが同時検出された5歳未満のRSウイルス感染児では下気道炎リスクが高まっていた。さらに、3歳未満の小児では、RSウイルスとライノウイルスの同時検出は、RSウイルス単独の場合よりも入院期間および酸素使用期間が長くなっていた。しかし、これらの報告における対象は、すでに併存疾患を抱える乳児が過剰に代表されているためだと考えられる。
ヘモフィルス菌(インフルエンザ菌、パラインフルエンザ菌)の存在は、年齢やRSウイルスの遺伝子型にかかわらず、RSウイルス感染症の重症化と有意に相関していました。インフルエンザ菌による重症化は、CD4+およびCD8+ T細胞シグネチャーの増加、Toll様受容体シグナル伝達の増強、粘膜ケモカイン(CXCL8)およびIL-17Aシグナル伝達(これらは、マクロファージおよび好中球の活性化および動員に寄与し、気管支肺胞好中球浸潤を誘導する)
と関連していました。
連鎖球菌(特に肺炎球菌)の存在と臨床転帰との間に関連性は認められなかった。しかし、他の研究では、連鎖球菌優勢の微生物叢が、RSウイルス感染症の乳児の入院リスク増加と、下気道炎発症リスク増加と関連していることが示されています。
最も多く検出された細菌であるにもかかわらず、モラクセラ属細菌は外来児や重症肺炎のない児で多く、軽症のRSウイルス感染症と関連していました。モラクセラが潜在的な保護効果、または病原性のない傍観者としての役割を果たしていることが示唆されています。
乳児は通常、呼吸器症状の有無にかかわらず、上気道に常在マイクロバイオームを保有しており、その中には病原性を持つ肺炎球菌やインフルエンザ菌などの細菌、エンテロウイルスやコロナウイルスなどのウイルスが含まれます。健康小児でも呼吸器感染症小児のいずれにおいても、複数のウイルスは頻繁に同時検出されますが、ウイルス間の相互作用はウイルス同士の関係によって相乗的になったり拮抗的になったりします。インフルエンザ A と RS ウイルスの同時感染は、ハイブリッドウイルス粒子が形成され、中和抗体を回避して受容体指向性が強化され、重症化する可能性が示唆されています。一方、ライノウイルスはインフルエンザウイルスに干渉し、両ウイルスの同時検出の可能性は低い。生後1年間を通して、呼吸器マイクロバイオームは多様性の増加とともに絶えず変化していき、モラクセラ属、ヘモフィルス属、またはレンサ球菌属の定着と肺炎球菌感染症は、ウイルス性呼吸器感染症と関連していることが示されています。
インフルエンザパンデミックにおけるウイルスと細菌の重複感染の歴史的背景から、一次ウイルス感染が二次細菌感染の発生を促進し、下気道感染症につながるという、とても偏向した見解が広まっています。しかしながら、臨床研究では一次感染と二次感染を区別し、重複感染の臨床的意義を明らかにすることは困難です。いくつかの実験モデル研究では、ウイルス感染の次に細菌感染が成立するという位置方向性の関係ではなく、ウイルス感染と細菌感染との間には双方向の相互作用メカニズムがあることが示唆されています。例えば、ウイルス感染による呼吸器上皮の破壊、あるいは細菌のクリアランスを低下させる、あるいは細菌の付着を増加させるといった、ウイルスによる二次細菌感染の促進に対する関与ばかりではなく、細菌感染自体が抗ウイルス免疫への干渉を引き起こしたり、類似の機能を持つ病原性因子による相乗作用や補完作用などを通じて、二次的なウイルス感染を促進する可能性があります。
1.ウイルスによる二次的な細菌感染の促進
細菌クリアランスの低下
感染に対する第一線の防御機構である呼吸器上皮は、粘液繊毛クリアランスと細胞間接合の維持を通じて細菌の付着を抑制し、細菌受容体へのアクセスを制限します。一次的なウイルス感染が呼吸器上皮を破壊し、細菌クリアランスの低下につながります。ライノウイルス(RV)、RSV、アデノウイルス、インフルエンザに感染した細胞は粘液繊毛機能障害を引き起こし、その結果 S. pneumoniaeやH. influenzaeなどの細菌の排除が減少する。
ウイルス感染後の自然免疫細胞の調節も、呼吸器における細菌のクリアランスを低下させます。宿主の自然免疫応答のうち、肺胞マクロファージは正常気道における主要な細胞集団であり、呼吸器病原体に対する第一線の防御を形成します。インフルエンザ感染後に肺胞マクロファージを介した貪食作用が欠損し、S. pneumoniaeのクリアランスが阻害されることが示されています。インフルエンザとS. pneumoniaeの同時感染も、マクロファージの寄り付きが阻害され、細菌のコロニー形成が増加することが示されている。インフルエンザ感染により、感染部位への自然免疫細胞の動員が減少し、結果として細菌負荷が劇的に増加することが示されている。
細菌付着の増加
呼吸器上皮細胞へのウイルス感染は、細菌の宿主細胞への付着を促進する。先行するRSウイルス感染によってS. pneumoniaeの上皮細胞への付着が促進されました。RSウイルスはS. pneumoniaeに直接結合できます。 RSウイルス、パラインフルエンザウイルス(HPIV)、インフルエンザウイルスは、インフルエンザ菌と肺炎球菌の生きた細胞株への接着を促進した。RSVビリオンは肺炎球菌とインフルエンザ菌に直接結合し、細菌と上皮細胞の間の直接的なカップリング粒子として作用することで、細菌による定着を増やし、細菌の侵襲性を高めることが示されている。RSV感染中、宿主細胞表面のウイルス糖タンパク質は細菌接着の追加的な受容体として機能します。呼吸器ウイルスは、細菌が結合できる宿主表面タンパク質の発現を増加させることもできる。インフルエンザウイルスおよび肺炎球菌の研究では、ウイルスのノイラミニダーゼ活性によって細菌付着のための宿主細胞受容体が露出される。RVが感染した鼻粘膜上皮細胞には S. aureus、S. pneumoniae、H. influenzaeの付着が有意に増加した。また、ウイルス媒介性上皮損傷が基底膜および細菌付着のための新たな受容体の露出につながる可能性もある。
2.細菌による二次ウイルス感染の促進
ウイルス感染が細菌の増殖を促進するという一方通行の見解は、小児にはそれほど当てはまらない。発展途上国では、肺炎球菌の保菌率は成人で約4%であるのに対し、小児では50%を超え、5歳未満の小児で最大80%に達する。ヒトメタニューモウイルス(hMPV)のセロコンバージョン率は、S. pneumoniaeの鼻咽頭保菌率に比例していた。気管支上皮細胞に S. pneumoniaeを感染させると、hMPV感染感受性が上昇した。肺炎球菌結合ワクチンの普及が、小児における呼吸器ウイルス肺炎の31%を予防したことが示されている。これらは、細菌感染が二次ウイルス感染を促進することを裏付けています。
実験モデルでは、S. pneumoniaeのような細菌曝露後のほうがインフルエンザウイルス感染時のウイルス量が多いことが示されている。別のマウスモデルによれば、肺炎球菌曝露後にインフルエンザウイルスを感染させると死亡率100%だったが、インフルエンザウイルスを先に感染させた後に細菌感染させると生存率が向上しました。細菌が宿主細胞へのウイルス付着を促進するさらなる証拠として、細菌リポペプチドの添加により上皮細胞へのRSウイルスおよびhMPVの感染が促進されたことが示されている。インフルエンザ菌もまた、気道上皮細胞へのライノウイルス(RV)の結合を増強したことが示されています。
さらに、ウイルスは微生物環境を利用して免疫クリアランスを逃れる能力がある可能性も示唆されており、ウイルス感染における常在微生物叢の重要性が強調されています。
Viral-Bacterial Interactions in Childhood Respiratory Tract Infections: Nature
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❶ 発疹の拡がり・分布域・対称性は診断に決定的な重要因子です。「木だけでなく森全体を」見ることが不可欠です。一つ一つの発疹の状態だけでなく、思わぬ部位にあった発疹や全体像が大切です。
❷ 聴診によって生きた身体から発せられる生の声をできる限り集めなければなりません。心臓からの音は主に前胸部の聴診によって、肺からの音は主に背部の聴診によって有意な異常と変化を検出していきます。衣服が邪魔になる部位が実はとても重要な聴診部位です。聴診と同時に得られる肌のつやや凸凹の様子は、その人の遺伝的体質、体内で起きている免疫反応、さらには余命を推測するためのきわめて重要な指標になります。
背中は腰の少し上が、特に咳や喘鳴がある場合は最も重要な聴診部位です。
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