OUR MISSION

私たちのミッションは、
世の中に元気を拡散させること。

そのために、皆様の病気を
治すお手伝いをすること。
元気がない時、
ここでの小さな出会いと
ふれあいが
回復への起点になること。
そして、前向きな気持ちと
充実した時間を
取り戻してもらうこと。

私たちはいつもと同じように
安心の拠り所で
あり続けたいと思います。

水痘と帯状疱疹の流行はしばらく続きそうです。   07/15/24

児童の間で水痘が流行しています。さらに家庭内での二次感染によって大人にも広がるケースがあります。

水痘ワクチンは本来、時間が経つと効果が薄れていくワクチンです。ワクチンを接種していても水痘にかかるブレイクスルー感染が起こります。ワクチン接種完了後1年経つと、年間で1000人中1.6人が、5年経つと1000人中9.0人が、8年経つと1000人中20.4人が、9年経過後には1000人中58.2人が、ワクチンを2回接種していても本物の水痘ウイルスに感染・発症することが知られています。
Loss of vaccine immunity to varicella

ヒトの免疫力は加齢に従い徐々に抑えられる方向に向かいます。色々な感染症の中でも特に水痘ウイルスに対する免疫力が加齢によって低下することはよく知られています。逆に、感染症に対する免疫は多くの感染源に頻繁に接触して刺激され続ける事によって賦活化されるものと考えられています。
Heterogeneity of memory T cells in aging

ほとんどの人々が、4年以上もの長い期間、水痘ウイルスを含めた多くのウイルスに接触する機会を失い、本物のウイルスによる免疫に対するブースター効果までもが失われた結果、水痘のブレイクスルー感染や帯状疱疹をきわめて発症しやすい状態になっています。特に児童・生徒がブレイクスルー感染発症する率は、上記の研究がなされた2007年よりもはるかに高まっているだろうと考えられます。

(現在、児童・生徒に対して水痘ワクチンの追加接種の必要性は推奨されていません。50歳以上の方には、シングリックス®︎の2回接種が推奨されています。)

ライノウイルス/エンテロウイルスという普通の風邪が今は一番多い様子。 06/22/24

2歳の男の子がひどい腹痛を訴えました。肺炎による呼吸不全とショック状態に陥りかけていたということがわかりました。集中治療室で人工呼吸器治療を受けることになったけれども、無事に退院できました。遺伝子検査から、ライノウイルスかエンテロウイルス(いずれも最もありふれた普通の風邪ウイルス)の単独または同時感染によるものであることがわかりました。

エンテロウイルス属と呼ばれるウイルスのグループの中には、ポリオ以外のエンテロウイルス(Non-Polio Enterovirus)としてよく知られた、エンテロウイルスD68(EV-D68)、エンテロウイルスA71(EV-A71)、コクサッキーウイルスA6(CV-A6)がある。これらは特に胃腸感染からウイルス血症を引き起こす。EV-D68 はさらに呼吸器疾患を引き起こす。EV-A71 と CV-A6 は手足口病の原因となる。160種類以上の型を持つライノウイルスもNon-Polio Enterovirusととても似通ったウイルスであり、同じエンテロウイルス属グループの一員として分類される。特にライノウイルスの中でもC型として分類されるものは、エンテロウイルスD68 ととても似た性質を持ち、ウイルス血症を引き起こす。ライノウイルスは通常秋と春に増えるが、基本的に1年中流行している。

ライノウイルスにかかると、大抵は鼻風邪程度で済むが、喘鳴・喘息の悪化、中耳炎、副鼻腔炎、細気管支炎、気管支炎、肺炎を引き起こすことがある。
今年は春以降、小児・大人問わず、喘息、中耳炎、副鼻腔炎、気管支炎、肺炎が増えているが、その原因はライノウイルスの流行によるものであることがわかる。Non-Polio Enterovirusにかかると、通常ウイルスは腸管に侵入するので、腹痛や嘔吐といった胃腸炎症状を引き起こしたり、さらに血液に乗って皮疹を引き起こすことになる (手足口病、ヘルパンギーナ)。同様に、ライノウイルスの一部であるライノウイルスC型も、肺炎を引き起こすばかりでなく、血液に乗って全身に散布され、ショック症状としての腹痛あるいは胃腸炎症状を引き起こしうる。

(注)ライノウイルス/エンテロウイルスの検査キットは一般の外来にはありません。

Rhinoviruses and Respiratory Enteroviruses: Not as Simple as ABC
CDC About Rhinoviruses
国立感染症研究所病原体別下気道炎由来ウイルス
FilmArray呼吸器パネルを用いた病原体サーベイランス
Evidence of the simultaneous replications of active viruses in specimens positive for multiple respiratory viruses

吸入デバイスの吸い方はとても大事です。  06/16/24

慢性咳嗽(8週間以上続く咳)では、問診とレントゲンによってある程度病気を絞り込みますが、それだけで最終診断に至ることはありえません。慢性咳嗽の約半分を占めるとされている咳喘息かどうかを確かめるためには、気管支拡張吸入薬が効くかどうかが重要な手がかりになります。アトピー咳嗽やCOPD(慢性閉塞性肺疾患)では、β2気管支拡張薬が効きません。がんばって吸入しても、薬が肺の奥の方まで届いていないために有効性が得られず、正しい診断に行きつくのに、かなり回り道をすることになります。こういった事態は実際には頻繁に起こっていて、一定の頻度で生じざるをえないものと想定しています。

アドエアなどの円盤上のディスカス製剤、レルベア、エンクラッセなどのエリプタ製剤、シムビコートなどのタービュヘイラー製剤では、強く「早く深く」吸入しないと薬剤が気管支の奥まで到達しにくく、ある程度以上の吸気力が必要ですが、一方吸気力が強すぎると薬剤が喉を直撃して肺の奥まで到達しにくくなり、時には嗄声につながることもあります。

フルティフォーム、アドエアエアゾールといった筒状でエアロゾルが噴霧される製剤では、吸気力の弱い人でも吸入できますが、薬剤噴霧と吸気の同調が難しいことがあります。急激に噴射せず、エアロゾル移動速度を吸気に合わせるようにやや遅く「ゆっくり深く」することが必要です。また、薬剤の噴射方向が必ずしもまっすぐになっていなかったり、吸気時に薬剤でむせ込むことがあります。

スピリーバレスピマット(ソフトミスト吸入器)は、エアロゾル化率の高い薬剤がゆっくりと噴射されるように作られています。吸気と薬剤噴射とを同調させるためには、いかにゆっくり深く吸い込むかが大切です。また、ちょっぴり力が要ります。「できるだけゆっくりと肺いっぱいに息を吸い込み、苦しくならない程度に息を止めるように」します。

中南米でのデング熱感染者急増を受け、米国と欧州がデング熱サーベイランスを強化。06/07/24

WHOによると、世界のデング熱感染者数は過去5年間で大幅に増加し、2024年にはこれまでに760万人以上の感染者が報告され、そのうち16,000人が重症化し、3,000人以上が死亡している。アメリカ地域が最も大きな影響を受けており、今年の感染者数はすでに700万人を超え、2023年に記録した430万人を大きく上回っている。WHOは、デング熱の流行国の多くは、監視・報告体制が十分でないと警告している。
世界的な追跡調査を強化するため、WHOは新しいダッシュボードを立ち上げた。現在のところ、103カ国のデータがある。今年、ヨーロッパを除くすべての地域で、現地で発症した症例が報告されている。
東南アジアでは、インドネシアで急増が報告され、バングラデシュ、ネパール、タイでは2023年の同時期よりも症例数が増加傾向にある。西太平洋ではマレーシアとベトナムが最も影響を受けている。アフリカでは13カ国で感染が続いており、東地中海地域では脆弱な紛争地域でデング熱の発生が報告され続けている。
デング熱の急増には、循環する血清型の変化や気候変動などいくつかの要因がある。WHOによると、都市化や人口移動も一役買っているという。「少なくとも5カ国(バングラデシュ、インド、ミャンマー、ネパール、タイ)では現在モンスーンの季節が始まっており、ヤブ蚊の繁殖と生存に適した条件が整っている」とWHOは指摘している。

CIDRAP

H5N6型鳥インフルエンザヒト感染致死例の報告   06/02/24

中国南東部、福建省に住む52歳の女性がH5N6型鳥インフルエンザに感染し死亡した。 H5N6ヒト感染例はこの10年で90例目。
(現在、米大陸で哺乳類感染や米国でヒト感染が拡大している亜型や、昨年国内で哺乳類から検出されている亜型はH5N1型)

香港の健康保護センターによると、この女性の症状は4月13日に始まり、4月20日に入院、4月30日に死亡した。調査の結果、彼女は病気になる前に裏庭の家禽に接触していたことが判明した。

女性は福建省最大の都市である泉州市の出身で、人口は800万人を超える。

高病原性H5N6は、中国や他のアジア諸国の家禽の間で循環していることが知られているが、今のところ、ヒトの症例が報告されているのは中国とラオスだけである。ヒトへの感染例はまれで、ほとんどが家禽や家禽の飼育環境と接触した人に起こる。感染症はしばしば重症化し、死に至ることもある。

中国では2014年に最初のヒト感染例が報告されて以来、現在90例のH5N6感染例が報告されている。同国では1月中旬に最後の症例が報告された。

CIDRAP

肺炎クラミジア  05/23/24

肺炎クラミジアは、クラミジア肺炎(他に、鳥から感染するオウム病クラミジアと、母体から新生児乳児に感染するトラコーマ・クラミジアがある)のうちの一つである。
ヒトに飛沫感染で伝播して主に急性呼吸器感染症を起こす。感染から症状発現までの潜伏期間は3〜4週間で、家庭内や施設内といった接触が密接な者の間で小規模に緩徐に広がる。

急性上気道炎、急性副鼻腔炎、急性気管支炎、慢性呼吸器疾患の感染増悪、および肺炎を引き起こす。
マイコプラズマ肺炎と異なり、小児のみならず、高齢者にも多い。他の細菌との重複感染も少なくない。感染既往を示すC. pneumoniae IgG 抗体保有率は小児期に急増し、成人で5〜6 割と高い。この抗体には感染防御の機能はなく、抗体保有者も何度でも感染し発症し得る。

主な症状は、乾いた咳嗽、長引く激しい咳であるが、無症候感染や喉の痛みや鼻汁のみの場合もある。特徴的な症状に乏しいが、咳嗽に嗄声(声が出ない、声がかすれる)を伴うときは肺炎クラミジアを想起したい。肺炎になると喀痰を伴うこともある。38 ℃以上の高熱を呈する症例はあまり多くない。発生動向調査によれば、女性より男性に多い。
診断に至らないことがとても多く、肺炎になっても確定診断されずに異型肺炎として治療されることが多い。検査は、血清中抗体価測定法がもっぱら利用される。
テトラサイクリン(妊娠中期〜後期は禁忌)が最も有効であるが、マクロライド、ニューキノロンも使用される。

4月以降、当院で複数例確認されている長引く咳の原因菌です。

百日咳   05/18/24

百日咳診断基準は、まずは「咳がある」こと。1歳以上では1週間以上の咳があること。0歳では嘔吐を伴うような強い咳があれば、以下の項目を伴っているかどうか、検討するに値します。
①息を吸い込む時に笛のようなヒュー音が聞こえる(whooping)
②咳き込み後の嘔吐(嘔吐するまで咳き込んでしまう)
③無呼吸になることが見られる(無呼吸発作)(息継ぎする間もないほど連続して咳をするため息をすることができず、顔が真っ赤になった挙句、黒くなってしまうことにも)
これらのうちどれか一つでもあれば、百日咳の臨床診断例ということになります。その次の段階は、診断確定のための鼻のスワブ検査になります。
ただし、咳が出始めてからすでに3週間以上経過している場合は、スワブ検査は役に立たない段階に入っているため、血液検査になります。

当院で今週、大人の診断例がありました。同様の症状の方も多く、現在、マイコプラズマと同時に、大人の百日咳の流行が始まっている可能性があります。(未就学児では四種混合ワクチン接種が行き渡っているため、今のところそれらしき例はありません。) 大人の場合は、子供のような呼吸困難を伴う咳発作は見られないので、遷延性咳嗽や慢性咳嗽の原因の一つである咳喘息と間違えやすい。しかし、発熱のない2週間以上続く大人の咳の場合で、嘔吐してしまうほどの強い咳が見られたり、とにかく出だすと止められない止まらないほどの咳がある場合は、百日咳の可能性もあります。

予防のためには、小学校入学前(年長児)以降(大人も含む)に三種混合ワクチンの追加接種1回が推奨されています。

遷延性咳嗽  05/17/24

3週間以上8週間未満続く咳を遷延性咳嗽、8週以上続く咳を慢性咳嗽といいます。
昼間や覚醒している時間帯よりも、むしろ夜間や就眠中に目立つ長引く咳の原因として、最も多いのは気管支喘息、咳喘息です。
ゼーゼー、ゼロゼロ、ヒューヒューといった呼吸音(喘鳴)がその度に繰り返されて経験されたり、皮膚が弱い、つまりアトピー体質がある場合には、喘息である可能性が高い。吸入薬をはじめとする喘息のお薬が明らかに有効ならば、ほぼ間違いない。
一方、聴診器で聞いても喘鳴がはっきり聞こえなかったり、喘息のお薬が今ひとつ効かない場合には、喘息ではなく、
「呼吸器感染症の後に続き、胸部レントゲン検査で肺炎などの異常所見を示さず、通常、時間はかかるが自然に良くなっていく咳」である「感染後咳嗽」です。
それを引き起こす原因微生物は、百日咳、肺炎マイコプラズマ、クラミドフィラ・ニューモニエ、ライノウイルス(風邪の中で最も多いもの)、RSウイルスが多いとされています。
ただし、遷延性咳嗽となった時点では、気道内の原因微生物は少なくなってしまっているので、綿棒や痰の検査によって、原因微生物を突き止めることは難しい。
そこで、診断は血液を使った抗体検査によって推測診断をすることになります。
感染後咳嗽には、実は特効薬はありません。抗生剤には、咳そのものを抑える効果は期待できません。

小児の副鼻腔炎   05/08/24

米国小児科学会の診断基準
① 上気道炎に引き続き10日を超えて鼻漏(鼻腔から鼻汁が垂れてもみえる。鼻汁が膿性か漿液性かは関係ない)、または、日中に目立つ(湿性)咳嗽(夜間に悪化することがあってもよいが、喘息では夜間に咳が目立つのと対照的である)を認め、経過中に改善傾向がみられない場合。(咳や鼻が続いていても、少しずつでも良くなってきている場合は、副鼻腔炎ではない。)
② 上気道炎が一旦軽快した後、発熱、日中の咳嗽、鼻漏が増悪した場合。
③ 39℃以上の発熱と膿性鼻漏が3日以上持続した場合。

ウイルス性上気道炎の6〜7%に合併する。副鼻腔の一部(上顎洞と篩骨洞)は1歳半〜2歳で作られるため、2歳まではほとんどみられないし、0歳で副鼻腔炎と診断することはできない。4〜7歳でみられることが多い。30%に頭痛を合併する。

小児喘息重症度判定テスト    05/06/24

Japanese Pediatric Asthma Control Program (JPAC)の質問票による喘息コントロール判定点数表というのがあります。
その質問項目は実際に、喘息の維持療法のため定期的に通院する子供たちの病状を把握・共有するための肝心な問診内容になっています。

1. この1ヶ月間に、ゼーゼー・ヒューヒューした日はどれくらいあった?(喘鳴の程度)
      0日      : 3点
     1回以上だけど毎週ではない: 2点
     週に1回以上だけど毎日ではない: 1点
     毎日続いた:  0点
2.  この1ヶ月間に、息が苦しくなる発作はどれくらいあった?(呼吸困難発作回数)
     0回        :3点
    時々あるけど続かなかった:  2点
    時々会ってしばらく続いた:   1点
    ほとんど毎日続いた:   0点
3. この1ヶ月間に、喘息症状で夜中に目を覚ましたことはどれくらいあった?(夜間覚醒の頻度)
     0回         :3点
    時々あるけど続かなかった:  2点
    週に1回以上だけど毎日ではない: 1点
    毎日続いた:    0点
4. 運動したり、はしゃいだ時、または大泣きした時に、咳が出たりゼーゼーして困ることはあるか?(運動時の喘息症状)
     全くない:    3点
     たまにあるけど困らない: 2点
     たびたびあって困る:      1点
     毎日会って困っている:   0点
5.  この1ヶ月間に発作止めの吸入薬や貼り薬をどれくらい使ったか?(β2刺激薬使用頻度)
      0回                :3点
      1週間に1回以下: 2点
      1週間に何回かあったけど毎日ではない:1点
      毎日使った:         0点

生後6ヶ月〜3歳まででは、さらに、
6. この1ヶ月間で、熱がないのに、夜寝る頃や朝方に咳が気になることがどれくらいあった?(朝・夜の咳)
     全くない:           3点
     時にあるが、持続しない:  2点
     週に1回以上、毎日ではない:1点
     毎日持続:          0点

以上の合計点数が、
4〜15歳では、 15点:完全コントロール(とても良い状態)
       14〜12点:良好コントロール(まあまあの状態)
       11点以下:コントロール不良(よくない状態)
6ヶ月〜3歳では、 18点:完全コントロール(とても良い状態)
       17〜13点:良好コントロール(まあまあの状態)
       12点以下:コントロール不良(よくない状態)

カシューナッツアレルギーではグミ(ペクチン)に気をつけて   03/28/24

カシューナッツ・アレルギーは近年増加傾向と報告されています。よく用いられる食品添加物であるペクチンは、カシューナッツと交差反応(感作)するため、カシューナッツにアレルギーがあることが判明している場合には、注意すべきです。フルーツグミには、水飴、砂糖、数種類の果実エキスに加えて、ペクチンが含有されています。
グミを食べることで、アナフィラキシーを起こすことがあります。                                                             (日本小児アレルギー学会誌第38巻1号より)

花粉症に効く健康茶には実はステロイドが含有されていたという話  03/27/24

成長ホルモン補充療法中の13歳女子がDHEA-S(体の中で作られる副腎アンドロゲン・ホルモンで、思春期開始の目安になる)の低下がきっかけで、副腎皮質機能低下であると気づかれた。同時期に飲用中だった花粉症に効くという健康茶を中止したところ、副腎皮質機能の回復を認めた。健康茶に糖質コルチコイド作用物質(ステロイド)が含まれている可能性が考えられた。成分解析の結果、デキサメタゾンというステロイドが検出された。幸い、健康茶の飲用中止後も副腎皮質機能は何事もなく回復したが、突然の中止による副腎不全の危険性もあった。            ( 日本小児科学会雑誌第128巻第3号から )

麻疹の臨床経過    03/11/24

1) 麻疹の臨床症状
  麻疹の潜伏期間(ウイルス曝露から症状発現)は通常10日前後であり、発熱、カタル症状、結膜充血が数日間持続した後、頬粘膜における特徴的なコプリック斑が現れる。その1-2日後から顔面に発疹が出現し始め、その後全身性の特徴的な発疹が出現し、高熱が数日間持続する。重症化しなければ症状発現7~10日後に回復していく。

2)麻疹の臨床経過
 i)前駆期〈カタル期〉:(2~4日間)
  通常麻疹感受性者が麻疹ウイルスに感染すると、10日前後(8~12日)の潜伏期間を経て前駆期(カタル期)として発症する。この時期には38~39℃の発熱が続き、倦怠感、上気道炎症状、結膜炎症状が出現し、次第に増強する。乳幼児では下痢、腹痛等の腹部症状を伴うことが多い。発疹が出現する2日前頃には頬粘膜に、やや隆起し紅暈に囲まれた約1mm径の白色小斑点(コプリック班)が出現する。コプリック斑は麻疹に特異的であり、診断的価値が高いが、発疹出現の2日前頃に出現し、発疹出現後2日以内に急速に消退する。また口腔粘膜は発赤し、口蓋部には粘膜疹がみられ、しばしば溢血斑を伴うことがある。カタル期に次いで、発疹期となる。(写真は、Online Wileyによる)

 ii)発疹期:(3~5日間)
  カタル期の発熱が一旦下降(1℃程度)したあと、半日位後に再び高熱(多くは39.5℃以上)を発すると共に、疾患特異的な発疹が耳介後部、頚部、前額部より出現し、翌日には顔面、体幹部、上腕に広がり、2日後には四肢末端にまでおよぶ。ウイルス曝露から発疹出現までおよそ2週間である。発疹が全身に広がるまでの3~4日間は39.5℃以上の高熱が続く。発疹は当初は鮮紅色扁平であるが、まもなく皮膚面より隆起し、不整形の斑状丘疹となる。指圧により退色することも特徴の一つではあるが、次第に融合していき、次いで暗赤色となり、出現したときと同じ順序で退色していく。発疹期には上気道炎症状、結膜炎症状等のいわゆるカタル症状はより強くなる。麻疹の臨床経過での特徴はこのように前駆期(カタル期)と発疹期が比較的はっきりと分かれており、発熱もカタル期の終わりに一旦下降した後、より高熱を呈する(二峰性発熱)。

 iii)回復期:
  回復期に入ると発疹は退色し、発熱もなくなり、カタル症状も軽快していく。発疹は色素沈着がしばらくは残存する。麻疹は通常このような経過をたどり、合併症がなければ回復していく。

3)麻疹の合併症
  麻疹に伴って引き起こされる合併症は30%にも達し、その約半数が肺炎であり、以下腸炎、中耳炎、クループ等がある。また、頻度は低いものの、脳炎合併例もあり、肺炎と並んで麻疹による2大死因といわれており、要注意である。
 i)肺炎:
  麻疹に合併する肺炎には、大きくわけて細菌の二次感染による細菌性肺炎とウイルス性肺炎等があるが、最近の死亡例や呼吸管理を要する重症例には、間質性肺炎が多くみられている。

 ii)脳炎:
  1000例に0.5~1例の割合で発生する。麻疹の重症度に関係なく、発疹出現後2~6日頃に発症することが多い。半数以上は完全に回復するが、精神運動発達遅滞や麻痺などの後遺症を残す場合があり、10~15%は死亡するといわれている。特異的治療法はない。

 iii)亜急性硬化性全脳炎(SSPE):
  麻疹罹患後平均7~10年で発症し、知能障害や運動障害が徐々に進行し、ミオクロニーなどの錐体・錐体外路症状を示す。徐々に進行し、発症から平均6~9か月で死の転帰をとる進行性の予後不良疾患である。麻疹ウイルスの中枢神経系細胞における持続感染により生じるが、本態は不明である。麻疹初感染時の症状はほとんどが軽症で、その後もウイルスの一部の蛋白の発現に欠損が認められる欠損ウイルス粒子として存在し続けると言われている。

4)非典型的な経過をとる麻疹
 i)修飾麻疹(Modified measles):
  麻疹に対して不完全な免疫を持つ個体が麻疹ウイルスに感染した場合、軽症で非典型的な麻疹を発症することがある。その場合潜伏期は14~20日に延長し、カタル期症状は軽度か欠落し、コプリック斑も出現しないことが多い。発疹は急速に出現するが、融合はしない。通常合併症はなく、経過も短いことから、風疹と誤診されることもある。以前は母体由来の移行抗体が残存している乳児や、ヒトγ-グロブリンを投与された後にみられていたが、最近では麻しんワクチン接種者がその後麻疹ウイルスに暴露せず、ブースター効果が得られないままに体内での麻疹抗体価が減衰し、麻疹に罹患する場合(Secondary vaccine failure)もみられるようになった。

 ii)異型麻疹(Atypical measles)
 現行の弱毒生麻しんワクチン接種以前に、生ワクチンの発熱率が高く、不活化ワクチンと併用されていた時期があった。不活化ワクチン接種2~4年後に自然麻疹に罹患した際にこの病態(異型麻疹)がみられることがある。4~7日続く39~40℃台の発熱、肺炎、肺浸潤と胸水貯溜、発熱2~3日後に出現する特徴的な非定形発疹(蕁麻疹様、斑丘疹、紫斑、小水疱など、四肢に好発し、ときに四肢末端に浮腫をみる)が主症状で、Koplik斑を認めることは少ない。全身症状は1週間くらいのうちに好転し、発疹は1~3週で消退する。回復期の麻疹HI抗体価は通常の麻疹に比して著明高値をとる。発症機序はホルマリンで不活化された麻しんワクチンが細胞から細胞への感染を予防するF(fusion) 蛋白に対する抗体を誘導することができなかったことあるいは不活化ワクチン由来のアレルギーによると推論されている。異型麻疹と修飾麻疹とは全く別の病態であり、現在わが国では異型麻疹の発生はない。 

以上、国立感染症研究所 感染症情報センターによる。

麻疹が世界で大流行中、もうじき日本にも流入してくるでしょう。  02/26/24

麻疹(はしか)の世界的な大流行は、きわめて深刻な合併症や死亡のリスクを高めている。
米国、英国、EU諸国で、感染拡大が止まりません。米国では、カリフォルニア州、ジョージア州、ミズーリ州、ニュージャージー州、ペンシルバニア州、ワシントン州、オハイオ州、メリーランド州、ミネソタ州、フロリダ州で麻疹患者が報告されている。海外からの渡航者からの流入だとされている。

麻疹は非常に感染力が強いので、1人の患者でもアウトブレイクとみなされる。一人の麻疹患者は、ワクチンや自然感染による免疫を持たない人12人から18人に感染させる。それに対して、コロナでは約2人である。麻疹ワクチンは2回の接種で97%の小児を予防するが、ウイルスは空気感染(エアロゾル感染)で急速に広がるため、感染拡大を食い止めるためには、集団の95%以上が2回のワクチン接種を完了している必要がある。

米国の小児では、2022-23年は93%の接種率に留まり、日本でも、第1期が、2021年度93%、2022年度95%、第2期が、2021年度93%、2022年度92% にすぎない。

麻疹にかかった人は、皮疹ができる4日前から4日後までの9日間ウイルスを撒き散らす可能性がある。感染者が部屋を出てから2時間後まで感染する可能性がある。

10,000人の子供が麻疹に感染すると、2,000人(20%)が入院し、1,000人(10%)が永続的な難聴の可能性のある耳の感染症を発症し、500人(5%)が肺炎を発症し、10~30人(0.1~0.3%)が死亡する。 麻疹患者は、肺炎などの二次的な細菌感染症にかかりやすく、麻疹患者の最も一般的な死因の1つである。

麻疹の壊滅的な長期合併症である亜急性硬化性全脳炎は、記憶喪失、過敏性、運動障害、痙攣、失明などを引き起こすが、これらは麻疹から回復して6〜8年後に発症することがある。抗てんかん薬で症状が和らぐこともあるが、病気を治すことはできない。最近の研究によると、この合併症は以前考えられていたよりも一般的であり、麻疹にかかった幼児の約600人に1人(0.16%)が発症している。

日本でも、パンデミック時のワクチン接種率の低下とインバウンドの増加という条件は同じであり、もうじき国内でも流行し始めることが予測されます。未接種のお子さんには、できるだけ早い接種が求められます。

こらえきれない慢性咳嗽では咳の神経回路が異常になっている。 02/25/24

特にコロナウイルス感染後には、イガイガして我慢できない咳が長く続くことがあります。小児のクループでも止まらない咳が続きますが、まるで咳で痙攣しているかのようです。

皮膚の表面に傷や湿疹があると、痛みや痒みという感覚が感じられますが、特に痒みが強くなると、そこの痒みを払い除けたくなる切迫感が重なり、我慢できずに引っ掻いてしまわざるをえなくなります。引っ掻くのを我慢するためには我慢するぞという意思が必要です。特に乳児には我慢というものはないので、アトピー性皮膚炎の小さい子たちは、痒みの条件反射を抑えきれずに、自分を血だらけにしてでも痒みから解放されようとします。
皮膚の痒みの場合、局所に痒みを起こす炎症メディエーター物質が作り出されて、皮膚表面に張り巡らされている末梢神経末端がそれによって刺激され、そしてその刺激が末梢神経から脊髄を通って脳のてっぺんの中枢まで上っていく神経回路が関わっています。

咳も痒みと同じような作りです。ウイルスや細菌が炎症を引き起こしたり、花粉によるアレルギーによる炎症だったり、時には単に冷たい部屋の空気だったり、誘因は様々ですが、これらによって気管支の壁に張り巡らされている末梢神経(迷走神経)の末端が刺激されると、その刺激は脳幹まで行って帰ってくる神経回路を瞬時に上っていきます。さらにそこから脳のてっぺんにある認知脳、中枢神経まで上ります。意思を働かせる中枢脳は神経回路経由で咳を我慢させたり抑えようとします。

喋ると止まらなくなる咳、こらえきれないでタテ続きに出る咳、痙攣しているかのような咳では、末梢神経と脳幹からなる神経回路の過敏性が高まっているので、些細な刺激だけでも咳反射を引き起こすようになっています。あるいは、中枢神経と脳幹との神経回路も過敏性が高まっていたりします。

こらえきれない咳、特に長期間経過して癖になってしまっているかのような慢性の咳の場合には、こうした神経回路の過敏性を抑える薬が必要になります。しかし、現在薬不足が深刻なため、こうした薬のうち今入手可能なものは、選択的P2X3受容体拮抗薬だけになっています。

参照:Peripheral and central mechanisms of cough hypersensitivity

海外で評価されている学術研究

- Detailed Analysis of Immune Tolerance Mechanisms to SARS-CoV-2 in Children Is Needed (2021)『小児コロナ免疫についての論文』

- Early activation does not translate into effector differentiation of peripheral CD8T cells during the acute phase of Kawasaki disease (2010)『川崎病における免疫反応についての論文』

- Tenderness over the hyoid bone can indicate epiglottitis in adults (2006)『急性喉頭蓋炎を見つけるコツを発見した論文』

コンプライアンス

・一般名処方
当院では、薬剤の一般名処方を記載する処方箋を交付しています。

・明細書発行体制等加算施設基準
当院では、初診時、再診時に、診療内容明細書を無償で交付しています。

・医療DX推進体制整備加算施設基準
当院は、電子資格確認・電子処方箋・電子カルテ情報共有サービスの導入に努め、質の高い医療を提供するための医療DXに対応する体制を整える施設基準申請済みの施設です。

・医療情報取得加算施設基準
当院は、オンライン資格確認体制を有し、診療に必要な情報を取得・活用して診療を行う施設です。