- 咳は悪いものが肺の中に入らないようにする反射です。 03/08/25
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咳はアキレス腱反射と同じように、決して意思で現れるものではありません。呼吸器にとって悪いものが入っていかないようにしたり、それらを吐き出して体を守るという大切な働きをしています。咳反射と呼ばれます。
咳反射は、以下の経路で制御されています。
1.末梢の咳レセプター(感覚受容体)が、気道(気管・気管支・喉頭など)に分布し、機械的・化学的刺激を感知。主にC線維(ポリモーダル受容器)やRAP(Rapidly Adapting Receptors:急速順応性受容器)が関与している。
2.求心性神経は、咳レセプターから迷走神経を通じて延髄の咳中枢に情報を伝達する。
3.延髄の咳中枢は、咳反射を統合・調整し、運動指令を出す。
4.遠心性神経は、横隔神経や迷走神経という経路を介して呼吸筋・喉頭筋に指令を送り、咳を発生させる。のど、気管、気管支にある末梢の咳レセプター(咳受容体)は、主に以下の炎症物質によって刺激を受け、咳反射を引き起こします。これらの物質は、ウイルス感染、細菌感染、アレルギー反応、喫煙、大気汚染などの刺激によって放出されます。
1. ヒスタミン(Histamine)
肥満細胞や好塩基球から放出され、H1受容体を介して気道平滑筋の収縮や血管透過性の亢進を引き起こす。
気道粘膜の浮腫を促進し、気道の知覚神経を刺激して咳を誘発。
2. プロスタグランジン(PGs)
プロスタグランジンE2(PGE2)、プロスタグランジンF2α(PGF2α) などが気道のC線維を直接刺激し、咳受容体の感受性を増加。
気道平滑筋の収縮や気道の炎症促進にも関与。
3. ロイコトリエン(LTs)
ロイコトリエンC4(LTC4)、D4(LTD4)、E4(LTE4) は強力な気道収縮作用を持ち、咳レセプターの過敏性を増加。
喘息患者では特に重要な役割を果たす。
4. ブラジキニン(Bradykinin)
血管拡張作用を持つペプチドで、気道C線維受容体(TRPV1受容体)を刺激。
咳受容体を直接活性化し、咳反射を促進。
5. タキキニン(Tachykinins:サブスタンスP、ニューロキニンA/B)
求心性神経終末から放出される神経ペプチド。
ニューロキニン1(NK1)受容体を介して咳受容体を活性化し、咳を引き起こす。
6. トリップV1受容体(TRPV1)アゴニスト(カプサイシンなど)
TRPV1(Transient Receptor Potential Vanilloid 1)は咳レセプターの一部であり、カプサイシン(唐辛子成分)や高温、酸性刺激によって活性化。炎症時に感受性が増大し、咳の閾値が低下する。
7. ATP(アデノシン三リン酸)
P2X3受容体を介して咳受容体を刺激。慢性咳嗽(特に難治性の咳)に関与し、P2X3受容体拮抗薬が新たな治療ターゲットとして研究されている。以上のように、
咳受容体は、ヒスタミン、プロスタグランジン、ロイコトリエン、ブラジキニン、タキキニン、ATPなどの炎症メディエーターによって刺激を受け、咳反射を引き起こす。これらの物質は、ウイルス感染や喘息などの疾患で増加し、慢性的な咳の原因となることがある。Airway Sensory Nerve Density Is Increased in Chronic Cough; ATS Journal
- ダニ媒介脳炎(Tick-Borne Encephalitis; TBE)とは 03/03/25
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ダニ媒介脳炎は中枢神経系に影響するウイルス感染症であり、軽症例から、より重篤で生命を脅かす病態まで、広い範囲での症状を引き起こします。東ヨーロッパからロシアに至るユーラシア大陸中央部、極東地域、中国北部までの広い地域で、およそ年間1万~1万5千例の感染があると推計されています。国内でも過去に北海道で5例の感染者が報告されています。
ダニ媒介脳炎ウイルスは、野生の齧歯類(げっしるい:ネズミなど)が保菌し、ネズミから脱落した”マダニ”に咬まれることにより、人も感染します。このウイルスに感染した動物(ヤギ等)から生産された乳製品からうつることもあります。人から人へは滅多にうつりませんが、まれに輸血や母乳からうつることがあります。
感染してしまった2/3くらいの人には何の症状もおこりませんが、1/3の人は4~28日間の症状のない期間があった後、頭痛、筋肉痛、倦怠感や発熱が起こります。そのまま治る場合もありますが、悪化すると、脳に障害が出るようになり、呼吸ができなくなることがあります。重症型の場合には死亡することがあります。ダニ脳炎ウイルスに対応する抗ウイルス薬はありません。解熱剤で熱を下げたり、抗痙攣薬で対症的に対応するしかありません。
ヨーロッパ(特に東ヨーロッパ長期滞在)・ロシアでのアウトドア活動(トレッキング・登山)は、ダニ咬傷によるダニ媒介脳炎のリスクがありますので、渡航前の予防接種が推奨されます。
ダニに咬まれないよう、虫刺され対策を行い、殺菌されていない乳製品(ヤギ等)の摂取は避けましょう。
ワクチンの基本接種3回を完了すれば3年間は十分な免疫が維持され、その後は3年後に追加接種1回を行います。それ以降は5年毎に追加接種をします。12歳未満の接種者は、より有効性が高く、一方60歳以上では抗体陽性率がやや低下します。
- 若年層の時期に喘息が消えるのは男性ホルモンのせい 02/19/25
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小児期に発症した喘息が完全に消えて無くなることはなく、一般に10歳代から20歳代にかけて症状が鎮静化して一見完治したかのように見えますが、その後どこかで、長引く咳・長引く喉のイガイガ感・長引く喘鳴や喀痰という形で再燃するのが普通です。したがって、親子で同じ時期に長引く咳が生じ、家庭内で風邪が蔓延しているように見えることもしばしばです。
思春期から若年層の時期に喘息が消えるのは、アンドロゲン(男性ホルモン)の分泌が男女ともに最も多くなる時期だからです。アンドロゲンの分泌は20歳前後がピークで30歳以降は徐々に低下していきます。アンドロゲンは、ニキビ・体毛の成長・筋肉の発達を引き起こすばかりでなく、気道アンドロゲン受容体(AR)に作用して、喘息の炎症を抑制することがわかっています。実際に、デヒドロエピアンドロステロン(DHEA)という男性ホルモンの気道吸入は喘息を抑えるのに有効でした。
喘息は思春期以降、男性よりも(アンドロゲンの少ない)女性に多くみられることになります。そもそも喘息患者の気道AR発現は男女問わず健常者よりも低いことが報告されています。一方、喘息と気道AR発現との関連性は、閉経後女性においては認められず、またアンドロゲンが少なくなっている閉経女性に対するステロイド投与はアンドロゲン分泌をさらに抑制することになり、これらが相まって閉経後女性の喘息に対して吸入ステロイドの有効性が下がる原因になっているのではないかと考えられています。思春期前の小児においても、喘息と気道AR発現との関連性はなく、女児よりも男児に喘息が多く認めらますが、これは気道の発育障害の違いによるものと説明されています。
Androgens Alleviate Allergic Airway Inflammation by Suppressing Cytokine Production in Th2 Cells; The Journal of Immunology
Association Between Asthma and Reduced Androgen Receptor Expression in Airways; Journal of the Endocrine Societye - 中年女性の喘息は湿性咳嗽が多く、吸入ステロイドが効きにくい。 02/14/25
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閉経後の女性は慢性的な咳に悩まされることが多い。香水、漂白剤、冷気などの環境刺激物を吸い込むと、皮膚にくすぐったいような刺激感を感じたり、のどが痛くなったり、咳が出たりするような、顕著な過敏性を訴えることが多い。咳を媒介する神経経路の感受性の亢進を示す長引く咳嗽を訴える患者の3分の2が女性であり、50~60歳代の有病率が最も高いという疫学的特徴がある。
喘息には明らかな性差がある。13歳未満の小児では、男児に喘息が多い一方(有病率65%)、成人では、女性の方が男性より明らかに多い(有病率65%)。生涯を通じて、女性は男性よりも喘息を発症しやすく、重症化する可能性が高い。そして、女性の喘息においては、アトピー型が少なく、ステロイドによる治療効果が低い人が多く、ステロイド不応性喘息の肥満患者では女性が圧倒的に多い。
喘息を持つ女性の20~40%が、月経前の黄体期または月経前後に症状が出て、呼吸機能が低下することが多い。閉経後の喘息女性(少なくとも6ヵ月間無月経)は、閉経前よりも肺機能が低下し、喘息症状が悪化していました。ホルモン避妊薬は喘息の発症率を低下させ、一方男性ホルモン薬は、喘息の発症率を低下させ、喘息の症状を軽減する可能性がある。
閉経後のホルモン変化は、肺機能や気道粘膜に影響を及ぼし、咳反射の過敏性を引き起こし、咳嗽を起こしやすくしている可能性があります。
エストロゲンが不足することによる皮膚、結合組織、粘膜の変化は、呼吸器粘膜などの細胞にも起きている可能性がある。エストロゲンの欠乏は、膣上皮の萎縮を引き起こすのと同様に、気道粘液や繊毛の減少や変化、呼吸器組織の感受性の変化を引き起こし、肺機能の低下や慢性咳嗽を引き起こす可能性がある。喘息発症に関わる免疫経路におけるいくつかの性による違いがある。ステロイド治療が有効であるT2炎症型は、女性では男性よりも少ない。とりわけ中年女性、更年期以降の女性の場合は、非T2炎症型が比較的多く、結果的に好中球浸潤、粘液産生を多く生じるため、喀痰の多い湿性喘息が多く、ステロイド吸入の効果が男性に比べると劣る。一方、長時間作用性ムスカリン拮抗薬であるチオトロピウムの効果は、男女間で違いはなかった。抗ロイコトリエン薬は男性に比べて女性での方が有効性が高い。
Sex and gender in asthma;Eur Respir Rev.
Chronic cough in postmenopausal women and its associations to climacteric symptoms;BMC Womens Health - よく風邪ひく子供は、親子ともに喘息の遺伝子を持っている 01/24/25
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CDHR3、GSDMA、GSDMBという喘息リスク対立遺伝子は風邪の発症率の上昇と関連し、CDHR3遺伝子のリスク対立遺伝子はライノウイルス感染と関連していた。GSDMA、GSDMB、IKZF3、ZPBP2、ORMDL3遺伝子の喘息リスク対立遺伝子は、幼児期の喘鳴疾患(喘息様気管支炎という曖昧な病名で呼ばれる病態)と関連し、特にライノウイルス陽性の喘鳴疾患と関連していた。
このように、喘息リスク対立遺伝子は、乳幼児期における風邪の発症率の増加と関連し、ウイルス性疾患、特に最も頻度の高い風邪ウイルスであるライノウイルス誘発性喘鳴疾患のリスク増加と関連していた。このことは、乳幼児期に風邪に頻繁にかかりやすいことは、喘鳴疾患や喘息と遺伝的危険因子を共有している可能性を示唆している。実際には、よく鼻風邪(そのほとんどはライノウイルスか、時にRSウイルスである)をひき、その度に聴診器で喘鳴が聞こえる子供の場合、その子は喘息である可能性が極めて高い。さらに、喘息リスク対立遺伝子の一部は、湿疹のそれと重なっているため、ツルツルお肌とは言えそうにない皮膚の場合には、喘息である可能性はより高まります。実際には、喘息、喘鳴が聞こえる時には、皮膚の状態が悪いことも多く、目の前に見えている皮膚の状態が気管支の内面の状態を物語っているものです。
乳幼児の喘息診断は慎重にとはいうものの、遺伝子解析の知識背景を元にすれば、1〜2度の診察で喘息診断が下せることは、乳幼児喘息に限れば、不思議でも何でもありません。(大人で発症する喘息は、幼児の喘息とは喘息リスク対立遺伝子が異なっており、さらに遺伝子以外の寄与が大きいため、喘息診断はさほど容易ではありません。)
Genetic Architectures of Childhood- and Adult-Onset Asthma Are Partly Distinct
- 身に覚えのない喘息症状の時には、熱がなくても、肺炎マイコプラズマ・肺炎クラミジアにかかっているかもしれない 12/20/24
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気管支喘息は、乳幼児〜小学生までの早期発症タイプと12歳〜成人の遅発性発症タイプに分けられます。どちらの発症タイプにおいても、マイコプラズマにかかることによって喘息を発症していることが強く示唆されています。アトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎といったアトピー素因を元々持っているかどうかに関係なく、マイコプラズマ肺炎菌感染によって、子供でも大人でも急に偶発的に気管支喘息を発症することが報告されています。それまで喘息らしい症状を全く経験したことのない50歳ぐらいの人が、急に発熱のない喘鳴や持続する咳を発症した場合、実はそれはマイコプラズマによる気管支炎や肺炎の症状であるかもしれないということです。
同様に、遅発性発症タイプの大人の気管支喘息において、肺炎クラミジア菌にかかった後には喘息を発症することが有意に多く、肺炎クラミジア菌暴露と喘息性気管支炎の有病率との間に用量反応関係があることが明らかにされています。Incident asthma and Mycoplasma pneumoniae: A nationwide cohort study
Chlamydophila pneumoniae and Mycoplasma pneumoniae A Role in Asthma Pathogenesis?
- 大人の遷延性細菌性気管支炎(Protracted Bacterial Bronchtis in Adult)(PBB) 12/05/24
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気管支や肺の中は、完全無菌状態でないのが普通であることがわかってきています。腸内細菌が住んでいる腸のように、気管支肺の中にも細菌の集落(細菌叢)がバイオフィルムを作って、気管支の繊毛細胞や免疫細胞群との間で、通常は均衡の取れた状態を保っているのではないかと考えられています。しかし、生まれつき免疫力が弱かったり、気管支壁の細胞の繊毛の働きが悪かったり、風邪をこじらせて気管支壁細胞の回復が遅れてしまったりすると、細菌叢との力関係が悪くなり、炎症が慢性化してしまう状態に陥る可能性があります。
成人のPBBは、先行する呼吸器ウイルス感染に罹患することで持続性の咳を発症する。咳の罹病期間は1.4〜8.5ヶ月(中央値3ヶ月)であり、多くは8週間以上持続していました。痰のとても多い咳嗽、(多くの場合、特に病原体を検出できないにも関わらず)黄色の痰(好中球性の気道炎症による結果であり、また喀痰リンパ球は増加する)、喉に痰が引っかかってなかなか取れない感覚が特徴的な症状である。これらの症状は臨床的診断に有用であるとされている。
一方、喘息とは異なり、ほとんど喘鳴を認めず、季節性もない。胸部レントゲン、CT上、気管支拡張症を認めない。もちろん、喘息、COPD、喫煙といった他の慢性咳嗽の原因が認められないことによって定義される。成人PBB患者の大半は女性であり(気管支拡張症や慢性咳嗽と同様に、咳嗽反射感受性の性差があることと関連している)、中年優位(40代後半〜60代後半)であった。
成人PBBのうち28%はその後、放射線学的な気管支拡張症を認めたとする報告もあり、PBBと気管支拡張症は、気管支内感染と炎症という同じ基礎過程の異なる部分を表しているのかもしれないと考えられている。
Clinical characteristics of protracted bacterial bronchitis in adults
Persistent bacterial bronchitis in adults – a precursor to bronchiectasis?
- クラミジア肺炎の胸部レントゲン像 10/23/24
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現在、マイコプラズマ肺炎1000件に対してクラミジア肺炎3件の割合で検出されています。クラミジア肺炎の検査が行われることは現場ではかなり少ないので、実際にはもっと多いはずです。特に胸部X線像で、気管支肺炎パターンまたは網状影が認められた場合で、かつ、比較的たくさん行われているマイコプラズマの検査が陰性の場合には、その可能性が高まります。
肺炎クラミジアによる疾患としては、急性上気道炎、急性副鼻腔炎、急性気管支炎、また慢性閉塞性肺疾患(COPD)を主とする慢性呼吸器疾患の感染増悪、および肺炎である。特に副鼻腔炎はライノウイルスの流行だけでは説明がつかないほど最近非常に多く見られています。(副鼻腔炎に対して一々抗体検査をするわけにはいかないので原因は不明ですが)
肺炎クラミジアは 市中肺炎の約1 割に関与するが、発症年齢がマイコプラズマ肺炎と異なり、小児のみならず、高齢者にも多い。他の細菌との重複感染も少なくない。家族内感染や集団内流行もしばしば見られ、集団発生は小児のみならず高齢者施設でも報告されている。感染既往を示すIgG 抗体保有率は小児期に急増し、成人で5〜6 割と高い。この抗体には感染防御の機能はなく、抗体保有者も何度でも感染し発症し得る。感染から症状発現までの潜伏期間は3〜4 週間で、接触が密接な者の間で小規模に緩徐に広がる。肺炎発症の機序としては、上気道に初感染し下降して肺炎に至るものが主とされる。
胸部X線陰影の分布は主として中下肺野に多く、複数の部位に認めることもある。小葉中心性粒状影や細葉性のすりガラス影などの気管支肺炎パターンが基本形であり、他の病原体に比し網状影や気管支拡張の頻度が高いことが特徴的であるとされるが、実際には非特異的であり、間質性、網状結節性、気管支血管束肥厚、無気肺など、さまざまなX線像パターンを伴う両側性の過膨張およびびまん性浸潤が認められる。進行すると非区域性の気腔性肺炎パターンもとりうる。胸水貯留および肺葉浸潤は認めにくい。
国立感染症研究所
国立感染症研究所IDWR
American Journal of Roentgenology
日本内科学会誌 - マイコプラズマの胸部レントゲン像 10/19/24
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肺炎マイコプラズマは、線毛を有する気道上皮の粘膜に親和性が高く、気道表面を遊走し増殖する。このため,比較的中枢気道から末梢気道まで連続的に炎症を起こし、気管支に直交する側枝にも炎症が波及する。気道上皮傷害が強く、咳受容体の刺激による強固な咳が特徴的な症状となる。
したがって、レントゲン所見は気管支肺炎パターンであり、比較的中枢側から末梢にかけて連続性、区域性の分布を示す。CTでは連続性の気管支壁肥厚、小葉中心性の淡い粒状影や分岐状影(Tree-in-bud sign および GGO(ground-glass opacity))(したがって、胸膜直下の末梢気道,肺野は比較的保たれる)を示し、気管支透過像を有しない頻度が高いが、気腔性肺炎パターンを思わせる末梢肺へおよぶ広範囲の浸潤影やすりガラス影を認めることもある。したがって、胸部レントゲンでは、網状粒状すりガラス状混濁や気管支血管束の肥厚や気管支周囲カッフィング、肺門周囲特にS6、S3領域に区域性に分布する融合性結節影や気管支血管束に沿った浸潤影を認めることもある。実際の胸部レントゲンの読影においては、肺門部の浸潤影や網状影・すりガラス影の有無は、心・横隔膜・縦隔中央陰影のシルエットサインの有無を確かめつつ慎重に評価する必要がある。呼吸器感染症の画像診断:日本内科学会誌
Diagnostic significance of HRCT imaging features in adult mycoplasma pneumonia: a retrospective study:Nature
Correlation between Radiological and Pathological Findings in Patients with Mycoplasma pneumoniae Pneumonia:Frontiers in microbiology
Chest imaging classification in Mycoplasma pneumoniae pneumonia is associated with its clinical features and outcomes:Respiratory Medicine - 4歳以下に、マイコプラズマは、ほぼいませんから 10/16/24
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家族、兄弟がマイコプラズマにかかった(しかも検査もせずにの場合もあるが)からと言って、1歳の子がマイコプラズマの検査をしてくださいと頼まれることがありますが、おそらく乳幼児の特殊な免疫バランス環境のために、1歳から4歳までは、大流行時であっても、マイコプラズマにかかる子は極めて稀で、特に1歳でマイコプラズマが検出されることは実際にはまずありません。マイコプラズマが発症するのに適した免疫バランス環境が必要であり、5歳以上中学生までぐらいがマイコプラズマに最も親和性が高いのです。(コロナウイルスが体内に侵入しても、やはり乳幼児では、発症しないかまたはかかったかどうかわからないほどの軽症で済んだ一方で、小学生以上になると明らかにコロナの様々な症状を引き起こし、時に重症の免疫過剰反応状態に陥ることもありました。その理由として、おそらく免疫寛容と呼ばれる抑制系免疫が乳幼児ではまだ強く働いているせいか、または強力な自然免疫系が作用してウイルスを駆除してしまうからと想定されたのですが、マイコプラズマでも同様の現象が起きている可能性があると考えられます。)
Persistent elevation in incidence of pneumonia in children in England, 2023/24:Eurosurveillance
Immune response plays a role in Mycoplasma pneumoniae pneumonia:Frontiers in Immunology - 喘息に見えるマイコプラズマは多い 10/16/24
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パンデミック明け2023年から、中国そしてヨーロッパでいち早く拡がったマイコプラズマは現在本邦でも大流行しています。
マイコプラズマ菌が鼻や喉に入っても、必ずしも全員が気管支炎や肺炎になるわけではありません。よく知られた事実ですが、コロナと同じように、無症候感染者として単なる菌の運び屋(キャリアー)で終わることもしばしばあります。また、発熱することもなく、単に一過性の喘息症状で終わることも多い。診断と治療の両面において悩まされることですが、元々喘息体質のある子に限ってマイコプラズマによる気管支炎や肺炎を引き起こしやすいという性質があります。喘息体質つまり元々気管支が弱い人では、そうでない人に比べてマイコプラズマに対する免疫が弱く、罹患しやすいのです。その結果、マイコプラズマにかかると同時に、気道炎症の増悪により落ち着いていた喘息そのものが発症することにもなります。こうした理由で、マイコプラズマによる気管支炎/肺炎と同時または相前後して喘息も引き起こしているケースが極めて多いことになります。マイコプラズマがかなり拡がっている今、喘鳴を訴える5〜14歳の子に対しては、マイコプラズマに対する抗生剤だけで、または喘息治療薬だけで、どちらで治療開始しても正解で、どっちでもある程度は効く可能性が見込めます。A Role in Asthma Pathogenesis?:American Journal of Respiratory and Critical Care Medicine
Deficient immune response to Mycoplasma pneumoniae in childhood asthma:Allergy and Asthma Proceedings - 遷延性細菌性気管支炎 Protracted Bacterial Bronchitis (PBB) 10/14/24
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小児において、慢性咳嗽とは、4週間以上続く日常的な咳嗽と定義される。
遷延性細菌性気管支炎(PBB)は、他の特異的な原因による症状や徴候のない、主に0~6歳まで(中央値1.8〜4.8歳)の就学前の小児における慢性湿性咳嗽の一般的な原因であり、通常、適切な抗生物質の2週間の経口投与により治癒する。気管支拡張症の初期段階、またはPBBから気管支拡張症に至るスペクトラムの一部と考えられている病態である。診断は主に臨床的なものであり、通常、特別な検査は必要ない。
臨床的診断基準
1) 慢性(持続期間 4 週以上)の湿性または喀痰を多く伴う咳嗽が持続する。または、そういう既往歴
2) 湿性または喀痰の多い咳嗽の他の原因を示唆する症状または徴候がない。
3) 適切な経口抗生物質(アモキシシリン・クラブラン酸塩)を2週間服用後、咳嗽が消失した。PBBは、普通の風邪ウイルス感染後遷延性咳嗽や気管支喘息と間違われやすいし、喘息と併存していることもある。
診断のきっかけの一つは、聴診による“ラトゥリング・チェスト(rattling chest)” と呼ばれる、喘息で聴かれる喘鳴音ではない”crackles”である。また、単純な喘息の場合はあまり痰が多くなく、かつ/同時に夜間増悪する傾向が顕著である一方、PBBでは湿性で痰が多い咳である点が、喘息との鑑別診断に役立つ。そして抗生剤に対する良好な反応という治療的鑑別診断が重要である。
喘息が一旦疑われたのにも関わらず、喘息の治療があまり効かなかった場合で、湿性咳嗽であった場合は、そもそもPBBを考慮すべきで、抗生剤投与を試してみるべきである。PBB患者の気管支肺胞洗浄液(BAL)から検出される最も一般的な細菌は、インフルエンザ菌(47–81%)、肺炎球菌 (24–39%)、モラクセラ・カタラリス(19-43%) であるが、複数の細菌が関与している(30-50%)場合も多い。PBBの小児のBALからさまざまな種類のウイルスが検出されているが、PBBの病因にウイルスが関与しているという確かな証拠はない。気道軟化症はPBB小児によくみられるが、逆に免疫不全との相関はみられない。
アモキシシリン・クラブラン酸が最も一般的に使用される抗生物質であり、第一選択薬として、咳嗽の消失に長期療法(最低2週間以上4〜6週間)が必要となることがある。60%に効果があり、40%は複数回同じエピソードを繰り返すとされる(年間3回以上は、再発性PBBとされる)。
長期の抗生剤治療にもかかわらず湿性咳嗽が改善しない場合は、基礎疾患を考慮する必要がある。
さらに、PBBと気管支拡張症との関連についてはいくつかの仮説がある。最近のエビデンスによると、PBBの再発(3回/年以上)と下気道におけるインフルエンザ菌感染の存在は、気管支拡張症発症の重要なリスク因子であるようである。ERS guidelines on the diagnosis and treatment of chronic cough in adults and children
Frontiers in Pediatrics
American Thoracic Society - 上気道咳嗽症候群(Upper Airway Cough Syndrome) 10/13/24
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上気道咳嗽症候群(Upper Airway Cough Syndrome;UACS) は、鼻の奥から喉にかけての上気道の症状を伴う慢性咳嗽を呈する一群のことであり、咽頭から生じる異常感覚、特に最も多いのは、後鼻漏がある感覚を伴った慢性咳嗽の状態である。
成人の8週間以上続く慢性咳嗽においてとても多く認められる状態である。咽頭に何かが詰まっている感覚、とりわけ咽頭に粘液が存在する感覚を伴い、少なくとも8週間持続する持続性の乾性(痰のあまり出ない)咳を、UACSとみなす。
UACSは、以前は後鼻漏症候群として知られていた。しかし、咳嗽の機序が、鼻または副鼻腔から咽頭への分泌物の排出によるものなのか、上気道の咳受容体の直接的な炎症/刺激によるものなのか不明である。また、後鼻漏と呼ばれている感覚は、実際には感覚神経障害プロセスの発現であり、鼻汁の速度や量に関係しないことがある。専門家の意見では、「UACSの特徴の多くは、一般的な「咳嗽過敏症候群」の一部である」とする方向に向かっており、さらにUACSという疾患カテゴリー自体が一つの臨床的実体として存在することに異議を唱える研究者もいる。こうした理由で、慢性咳嗽に伴う後鼻漏症状は、現在ではUACSという状態であるという捉え方が一般的になっていて、鼻水が垂れるから咳が出るという作り話は過去のものになっている。
抗ヒスタミン薬と充血除去薬による経験的治療を試みることは、治療面で無駄ではないものの、下気道からの咳嗽に対する治療だけでも上気道症状の軽減に一部役立つことになる。
- 喘息だと思っていたら肺炎だったケースは結構多い 09/22/24
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咳、ゼイゼイヒューヒューする喘鳴、痰、息苦しさ、胸痛は、気管支喘息を疑わせる症状です。
その上で、経験に裏付けられた注意深い聴診によって聞き分けられた混じり気のない喘鳴音は、気管支喘息の診断確率を高めます。
この場合には、吸入ステロイド剤がよく効いて、気管支喘息の診断と治療が一遍にできることが多い。
一方、よく聴いていると典型的な喘鳴音とは違う音が聴こえたり、ちゃんとした呼吸音が聴こえなかったりすることがあります。そんな場合は大抵、気管支喘息ではない病気が見つかります。ドキドキしながらレントゲンの結果を見ると、発熱のない肺炎が見つかることもあるし、その他の様々な肺の病気が見つかります。時には心臓の病気が原因だったりすることもあります。
逆に、咳喘息だと思って吸入ステロイドを使っていても治らない場合は、必ず他の病気を考えなければなりません。
ただし、8週間以上続く慢性咳嗽のうち5〜15%は、いまだに「原因不明かつ治療抵抗性慢性咳嗽」と報告されています。精密検査をしても咳の原因がはっきり判明しないことは実際には結構多く、よくわかってないことも多いです。Cough hypersensitivity and chronic cough; nature reviews disease primers
- 熱の出ない肺炎の原因はマイコプラズマだけではありません 09/22/24
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この1年間でとても印象的なことのひとつは、大人でも小児でも熱の出ない肺炎がとても多いことです。
最近は、マイコプラズマがスマホでも学校のクラスでも流行っているという噂話だけで、マイコプラズマ肺炎に違いないと来院する方が増えています。
確かにマイコプラズマでは元々発熱を伴わないケースが多いのも事実ですが、以下に挙げたそれ以外の原因菌や原因ウイルスが発熱を伴わずに肺炎を引き起こしている例が、高齢者や乳幼児以外の世代でも非常に多いことに驚かされています。実際には、肺炎を起こす原因は多岐に渡ります。外来で見られる肺炎を引き起こす原因としては、
代表的な細菌:肺炎球菌(最も一般的な原因菌、だから肺炎球菌ワクチンの接種が勧められている)、インフルエンザ菌、モラクセラ・カタラリス、黄色ブドウ球菌、A群連鎖球菌、好気性グラム陰性菌(例えば、クレブシエラ属や大腸菌などの腸内細菌科)、微好気性細菌および嫌気性菌(誤嚥に伴うもの)
非定型菌(「非定型 」とは、これらの菌がβ-ラクタム系抗生剤に対して本質的に耐性であり、グラム染色で可視化できなかったり、従来の技術で培養できなかったりすることを指す):レジオネラ属、肺炎マイコプラズマ、肺炎クラミジア、オウム病クラミジア、コクシエラ・ブルネティ
呼吸器ウイルス:A型・B型インフルエンザウイルス、SARS-CoV-2、その他のコロナウイルス(CoV-229E、CoV-NL63、CoV-OC43、CoV-HKU1など)、ライノウイルス(呼吸器エンテロウイルス)、パラインフルエンザウイルス、アデノウイルス、RSウイルス、ヒトメタニューモウイルス、ヒトボカウイルス
があげられます。
肺炎のうち半分以上は、分子生物学的検査を行なっても最終的に原因菌が特定できないのが実情です。大人の肺炎の1/3以上はウイルスが原因の肺炎です。また、実は肺の中には腸内細菌叢と同じように常在細菌叢があることがわかってきたため、痰の検査で検出されたどの細菌が本当に悪さをしているのか疑わしいのが実情です。ウイルス性肺炎と細菌性肺炎が果たしてどの程度合併しているかも確実に知る術はありません。