- 身に覚えのない喘息症状の時には、熱がなくても、肺炎マイコプラズマ・肺炎クラミジアにかかっているかもしれない 12/20/24
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気管支喘息は、乳幼児〜小学生までの早期発症タイプと12歳〜成人の遅発性発症タイプに分けられます。どちらの発症タイプにおいても、マイコプラズマにかかることによって喘息を発症していることが強く示唆されています。アトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎といったアトピー素因を元々持っているかどうかに関係なく、マイコプラズマ肺炎菌感染によって、子供でも大人でも急に偶発的に気管支喘息を発症することが報告されています。それまで喘息らしい症状を全く経験したことのない50歳ぐらいの人が、急に発熱のない喘鳴や持続する咳を発症した場合、実はそれはマイコプラズマによる気管支炎や肺炎の症状であるかもしれないということです。
同様に、遅発性発症タイプの大人の気管支喘息において、肺炎クラミジア菌にかかった後には喘息を発症することが有意に多く、肺炎クラミジア菌暴露と喘息性気管支炎の有病率との間に用量反応関係があることが明らかにされています。Incident asthma and Mycoplasma pneumoniae: A nationwide cohort study
Chlamydophila pneumoniae and Mycoplasma pneumoniae A Role in Asthma Pathogenesis?
- 大人の遷延性細菌性気管支炎(Protracted Bacterial Bronchtis in Adult)(PBB) 12/05/24
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気管支や肺の中は、完全無菌状態でないのが普通であることがわかってきています。腸内細菌が住んでいる腸のように、気管支肺の中にも細菌の集落(細菌叢)がバイオフィルムを作って、気管支の繊毛細胞や免疫細胞群との間で、通常は均衡の取れた状態を保っているのではないかと考えられています。しかし、生まれつき免疫力が弱かったり、気管支壁の細胞の繊毛の働きが悪かったり、風邪をこじらせて気管支壁細胞の回復が遅れてしまったりすると、細菌叢との力関係が悪くなり、炎症が慢性化してしまう状態に陥る可能性があります。
成人のPBBは、先行する呼吸器ウイルス感染に罹患することで持続性の咳を発症する。咳の罹病期間は1.4〜8.5ヶ月(中央値3ヶ月)であり、多くは8週間以上持続していました。痰のとても多い咳嗽、(多くの場合、特に病原体を検出できないにも関わらず)黄色の痰(好中球性の気道炎症による結果であり、また喀痰リンパ球は増加する)、喉に痰が引っかかってなかなか取れない感覚が特徴的な症状である。これらの症状は臨床的診断に有用であるとされている。
一方、喘息とは異なり、ほとんど喘鳴を認めず、季節性もない。胸部レントゲン、CT上、気管支拡張症を認めない。もちろん、喘息、COPD、喫煙といった他の慢性咳嗽の原因が認められないことによって定義される。成人PBB患者の大半は女性であり(気管支拡張症や慢性咳嗽と同様に、咳嗽反射感受性の性差があることと関連している)、中年優位(40代後半〜60代後半)であった。
成人PBBのうち28%はその後、放射線学的な気管支拡張症を認めたとする報告もあり、PBBと気管支拡張症は、気管支内感染と炎症という同じ基礎過程の異なる部分を表しているのかもしれないと考えられている。
Clinical characteristics of protracted bacterial bronchitis in adults
Persistent bacterial bronchitis in adults – a precursor to bronchiectasis?
- クラミジア肺炎の胸部レントゲン像 10/23/24
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現在、マイコプラズマ肺炎1000件に対してクラミジア肺炎3件の割合で検出されています。クラミジア肺炎の検査が行われることは現場ではかなり少ないので、実際にはもっと多いはずです。特に胸部X線像で、気管支肺炎パターンまたは網状影が認められた場合で、かつ、比較的たくさん行われているマイコプラズマの検査が陰性の場合には、その可能性が高まります。
肺炎クラミジアによる疾患としては、急性上気道炎、急性副鼻腔炎、急性気管支炎、また慢性閉塞性肺疾患(COPD)を主とする慢性呼吸器疾患の感染増悪、および肺炎である。特に副鼻腔炎はライノウイルスの流行だけでは説明がつかないほど最近非常に多く見られています。(副鼻腔炎に対して一々抗体検査をするわけにはいかないので原因は不明ですが)
肺炎クラミジアは 市中肺炎の約1 割に関与するが、発症年齢がマイコプラズマ肺炎と異なり、小児のみならず、高齢者にも多い。他の細菌との重複感染も少なくない。家族内感染や集団内流行もしばしば見られ、集団発生は小児のみならず高齢者施設でも報告されている。感染既往を示すIgG 抗体保有率は小児期に急増し、成人で5〜6 割と高い。この抗体には感染防御の機能はなく、抗体保有者も何度でも感染し発症し得る。感染から症状発現までの潜伏期間は3〜4 週間で、接触が密接な者の間で小規模に緩徐に広がる。肺炎発症の機序としては、上気道に初感染し下降して肺炎に至るものが主とされる。
胸部X線陰影の分布は主として中下肺野に多く、複数の部位に認めることもある。小葉中心性粒状影や細葉性のすりガラス影などの気管支肺炎パターンが基本形であり、他の病原体に比し網状影や気管支拡張の頻度が高いことが特徴的であるとされるが、実際には非特異的であり、間質性、網状結節性、気管支血管束肥厚、無気肺など、さまざまなX線像パターンを伴う両側性の過膨張およびびまん性浸潤が認められる。進行すると非区域性の気腔性肺炎パターンもとりうる。胸水貯留および肺葉浸潤は認めにくい。
国立感染症研究所
国立感染症研究所IDWR
American Journal of Roentgenology
日本内科学会誌 - マイコプラズマの胸部レントゲン像 10/19/24
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肺炎マイコプラズマは、線毛を有する気道上皮の粘膜に親和性が高く、気道表面を遊走し増殖する。このため,比較的中枢気道から末梢気道まで連続的に炎症を起こし、気管支に直交する側枝にも炎症が波及する。気道上皮傷害が強く、咳受容体の刺激による強固な咳が特徴的な症状となる。
したがって、レントゲン所見は気管支肺炎パターンであり、比較的中枢側から末梢にかけて連続性、区域性の分布を示す。CTでは連続性の気管支壁肥厚、小葉中心性の淡い粒状影や分岐状影(Tree-in-bud sign および GGO(ground-glass opacity))(したがって、胸膜直下の末梢気道,肺野は比較的保たれる)を示し、気管支透過像を有しない頻度が高いが、気腔性肺炎パターンを思わせる末梢肺へおよぶ広範囲の浸潤影やすりガラス影を認めることもある。したがって、胸部レントゲンでは、網状粒状すりガラス状混濁や気管支血管束の肥厚や気管支周囲カッフィング、肺門周囲特にS6、S3領域に区域性に分布する融合性結節影や気管支血管束に沿った浸潤影を認めることもある。実際の胸部レントゲンの読影においては、肺門部の浸潤影や網状影・すりガラス影の有無は、心・横隔膜・縦隔中央陰影のシルエットサインの有無を確かめつつ慎重に評価する必要がある。呼吸器感染症の画像診断:日本内科学会誌
Diagnostic significance of HRCT imaging features in adult mycoplasma pneumonia: a retrospective study:Nature
Correlation between Radiological and Pathological Findings in Patients with Mycoplasma pneumoniae Pneumonia:Frontiers in microbiology
Chest imaging classification in Mycoplasma pneumoniae pneumonia is associated with its clinical features and outcomes:Respiratory Medicine - 4歳以下に、マイコプラズマは、ほぼいませんから 10/16/24
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家族、兄弟がマイコプラズマにかかった(しかも検査もせずにの場合もあるが)からと言って、1歳の子がマイコプラズマの検査をしてくださいと頼まれることがありますが、おそらく乳幼児の特殊な免疫バランス環境のために、1歳から4歳までは、大流行時であっても、マイコプラズマにかかる子は極めて稀で、特に1歳でマイコプラズマが検出されることは実際にはまずありません。マイコプラズマが発症するのに適した免疫バランス環境が必要であり、5歳以上中学生までぐらいがマイコプラズマに最も親和性が高いのです。(コロナウイルスが体内に侵入しても、やはり乳幼児では、発症しないかまたはかかったかどうかわからないほどの軽症で済んだ一方で、小学生以上になると明らかにコロナの様々な症状を引き起こし、時に重症の免疫過剰反応状態に陥ることもありました。その理由として、おそらく免疫寛容と呼ばれる抑制系免疫が乳幼児ではまだ強く働いているせいか、または強力な自然免疫系が作用してウイルスを駆除してしまうからと想定されたのですが、マイコプラズマでも同様の現象が起きている可能性があると考えられます。)
Persistent elevation in incidence of pneumonia in children in England, 2023/24:Eurosurveillance
Immune response plays a role in Mycoplasma pneumoniae pneumonia:Frontiers in Immunology - 喘息に見えるマイコプラズマは多い 10/16/24
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パンデミック明け2023年から、中国そしてヨーロッパでいち早く拡がったマイコプラズマは現在本邦でも大流行しています。
マイコプラズマ菌が鼻や喉に入っても、必ずしも全員が気管支炎や肺炎になるわけではありません。よく知られた事実ですが、コロナと同じように、無症候感染者として単なる菌の運び屋(キャリアー)で終わることもしばしばあります。また、発熱することもなく、単に一過性の喘息症状で終わることも多い。診断と治療の両面において悩まされることですが、元々喘息体質のある子に限ってマイコプラズマによる気管支炎や肺炎を引き起こしやすいという性質があります。喘息体質つまり元々気管支が弱い人では、そうでない人に比べてマイコプラズマに対する免疫が弱く、罹患しやすいのです。その結果、マイコプラズマにかかると同時に、気道炎症の増悪により落ち着いていた喘息そのものが発症することにもなります。こうした理由で、マイコプラズマによる気管支炎/肺炎と同時または相前後して喘息も引き起こしているケースが極めて多いことになります。マイコプラズマがかなり拡がっている今、喘鳴を訴える5〜14歳の子に対しては、マイコプラズマに対する抗生剤だけで、または喘息治療薬だけで、どちらで治療開始しても正解で、どっちでもある程度は効く可能性が見込めます。A Role in Asthma Pathogenesis?:American Journal of Respiratory and Critical Care Medicine
Deficient immune response to Mycoplasma pneumoniae in childhood asthma:Allergy and Asthma Proceedings - 遷延性細菌性気管支炎 Protracted Bacterial Bronchitis (PBB) 10/14/24
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小児において、慢性咳嗽とは、4週間以上続く日常的な咳嗽と定義される。
遷延性細菌性気管支炎(PBB)は、他の特異的な原因による症状や徴候のない、主に0~6歳まで(中央値1.8〜4.8歳)の就学前の小児における慢性湿性咳嗽の一般的な原因であり、通常、適切な抗生物質の2週間の経口投与により治癒する。気管支拡張症の初期段階、またはPBBから気管支拡張症に至るスペクトラムの一部と考えられている病態である。診断は主に臨床的なものであり、通常、特別な検査は必要ない。
臨床的診断基準
1) 慢性(持続期間 4 週以上)の湿性または喀痰を多く伴う咳嗽が持続する。または、そういう既往歴
2) 湿性または喀痰の多い咳嗽の他の原因を示唆する症状または徴候がない。
3) 適切な経口抗生物質(アモキシシリン・クラブラン酸塩)を2週間服用後、咳嗽が消失した。PBBは、普通の風邪ウイルス感染後遷延性咳嗽や気管支喘息と間違われやすいし、喘息と併存していることもある。
診断のきっかけの一つは、聴診による“ラトゥリング・チェスト(rattling chest)” と呼ばれる、喘息で聴かれる喘鳴音ではない”crackles”である。また、単純な喘息の場合はあまり痰が多くなく、かつ/同時に夜間増悪する傾向が顕著である一方、PBBでは湿性で痰が多い咳である点が、喘息との鑑別診断に役立つ。そして抗生剤に対する良好な反応という治療的鑑別診断が重要である。
喘息が一旦疑われたのにも関わらず、喘息の治療があまり効かなかった場合で、湿性咳嗽であった場合は、そもそもPBBを考慮すべきで、抗生剤投与を試してみるべきである。PBB患者の気管支肺胞洗浄液(BAL)から検出される最も一般的な細菌は、インフルエンザ菌(47–81%)、肺炎球菌 (24–39%)、モラクセラ・カタラリス(19-43%) であるが、複数の細菌が関与している(30-50%)場合も多い。PBBの小児のBALからさまざまな種類のウイルスが検出されているが、PBBの病因にウイルスが関与しているという確かな証拠はない。気道軟化症はPBB小児によくみられるが、逆に免疫不全との相関はみられない。
アモキシシリン・クラブラン酸が最も一般的に使用される抗生物質であり、第一選択薬として、咳嗽の消失に長期療法(最低2週間以上4〜6週間)が必要となることがある。60%に効果があり、40%は複数回同じエピソードを繰り返すとされる(年間3回以上は、再発性PBBとされる)。
長期の抗生剤治療にもかかわらず湿性咳嗽が改善しない場合は、基礎疾患を考慮する必要がある。
さらに、PBBと気管支拡張症との関連についてはいくつかの仮説がある。最近のエビデンスによると、PBBの再発(3回/年以上)と下気道におけるインフルエンザ菌感染の存在は、気管支拡張症発症の重要なリスク因子であるようである。ERS guidelines on the diagnosis and treatment of chronic cough in adults and children
Frontiers in Pediatrics
American Thoracic Society - 上気道咳嗽症候群(Upper Airway Cough Syndrome) 10/13/24
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上気道咳嗽症候群(Upper Airway Cough Syndrome;UACS) は、鼻の奥から喉にかけての上気道の症状を伴う慢性咳嗽を呈する一群のことであり、咽頭から生じる異常感覚、特に最も多いのは、後鼻漏がある感覚を伴った慢性咳嗽の状態である。
成人の8週間以上続く慢性咳嗽においてとても多く認められる状態である。咽頭に何かが詰まっている感覚、とりわけ咽頭に粘液が存在する感覚を伴い、少なくとも8週間持続する持続性の乾性(痰のあまり出ない)咳を、UACSとみなす。
UACSは、以前は後鼻漏症候群として知られていた。しかし、咳嗽の機序が、鼻または副鼻腔から咽頭への分泌物の排出によるものなのか、上気道の咳受容体の直接的な炎症/刺激によるものなのか不明である。また、後鼻漏と呼ばれている感覚は、実際には感覚神経障害プロセスの発現であり、鼻汁の速度や量に関係しないことがある。専門家の意見では、「UACSの特徴の多くは、一般的な「咳嗽過敏症候群」の一部である」とする方向に向かっており、さらにUACSという疾患カテゴリー自体が一つの臨床的実体として存在することに異議を唱える研究者もいる。こうした理由で、慢性咳嗽に伴う後鼻漏症状は、現在ではUACSという状態であるという捉え方が一般的になっていて、鼻水が垂れるから咳が出るという作り話は過去のものになっている。
抗ヒスタミン薬と充血除去薬による経験的治療を試みることは、治療面で無駄ではないものの、下気道からの咳嗽に対する治療だけでも上気道症状の軽減に一部役立つことになる。
- 喘息だと思っていたら肺炎だったケースは結構多い 09/22/24
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咳、ゼイゼイヒューヒューする喘鳴、痰、息苦しさ、胸痛は、気管支喘息を疑わせる症状です。
その上で、経験に裏付けられた注意深い聴診によって聞き分けられた混じり気のない喘鳴音は、気管支喘息の診断確率を高めます。
この場合には、吸入ステロイド剤がよく効いて、気管支喘息の診断と治療が一遍にできることが多い。
一方、よく聴いていると典型的な喘鳴音とは違う音が聴こえたり、ちゃんとした呼吸音が聴こえなかったりすることがあります。そんな場合は大抵、気管支喘息ではない病気が見つかります。ドキドキしながらレントゲンの結果を見ると、発熱のない肺炎が見つかることもあるし、その他の様々な肺の病気が見つかります。時には心臓の病気が原因だったりすることもあります。
逆に、咳喘息だと思って吸入ステロイドを使っていても治らない場合は、必ず他の病気を考えなければなりません。
ただし、8週間以上続く慢性咳嗽のうち5〜15%は、いまだに「原因不明かつ治療抵抗性慢性咳嗽」と報告されています。精密検査をしても咳の原因がはっきり判明しないことは実際には結構多く、よくわかってないことも多いです。Cough hypersensitivity and chronic cough; nature reviews disease primers
- 熱の出ない肺炎の原因はマイコプラズマだけではありません 09/22/24
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この1年間でとても印象的なことのひとつは、大人でも小児でも熱の出ない肺炎がとても多いことです。
最近は、マイコプラズマがスマホでも学校のクラスでも流行っているという噂話だけで、マイコプラズマ肺炎に違いないと来院する方が増えています。
確かにマイコプラズマでは元々発熱を伴わないケースが多いのも事実ですが、以下に挙げたそれ以外の原因菌や原因ウイルスが発熱を伴わずに肺炎を引き起こしている例が、高齢者や乳幼児以外の世代でも非常に多いことに驚かされています。実際には、肺炎を起こす原因は多岐に渡ります。外来で見られる肺炎を引き起こす原因としては、
代表的な細菌:肺炎球菌(最も一般的な原因菌、だから肺炎球菌ワクチンの接種が勧められている)、インフルエンザ菌、モラクセラ・カタラリス、黄色ブドウ球菌、A群連鎖球菌、好気性グラム陰性菌(例えば、クレブシエラ属や大腸菌などの腸内細菌科)、微好気性細菌および嫌気性菌(誤嚥に伴うもの)
非定型菌(「非定型 」とは、これらの菌がβ-ラクタム系抗生剤に対して本質的に耐性であり、グラム染色で可視化できなかったり、従来の技術で培養できなかったりすることを指す):レジオネラ属、肺炎マイコプラズマ、肺炎クラミジア、オウム病クラミジア、コクシエラ・ブルネティ
呼吸器ウイルス:A型・B型インフルエンザウイルス、SARS-CoV-2、その他のコロナウイルス(CoV-229E、CoV-NL63、CoV-OC43、CoV-HKU1など)、ライノウイルス(呼吸器エンテロウイルス)、パラインフルエンザウイルス、アデノウイルス、RSウイルス、ヒトメタニューモウイルス、ヒトボカウイルス
があげられます。
肺炎のうち半分以上は、分子生物学的検査を行なっても最終的に原因菌が特定できないのが実情です。大人の肺炎の1/3以上はウイルスが原因の肺炎です。また、実は肺の中には腸内細菌叢と同じように常在細菌叢があることがわかってきたため、痰の検査で検出されたどの細菌が本当に悪さをしているのか疑わしいのが実情です。ウイルス性肺炎と細菌性肺炎が果たしてどの程度合併しているかも確実に知る術はありません。 - サル痘(Mpox)とは? 08/17/24
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WHOは、アフリカの十数カ国に広がっている集団感染に対し、世界的緊急事態を宣言した。感染者は現在13カ国で確認されている。現在の流行はコンゴ民主共和国で最も深刻であり、15,600人の患者と537人の死者(世界中の死者の96%を占める)が報告されている。コンゴ民主共和国での流行は、前回緊急事態が出された2022年の流行よりも致死率が高いことが判明している。コンゴでの死亡率は3%で、2022年の流行時の死亡率0.2%よりはるかに高い。
サル痘ウイルスは中央アフリカと西アフリカの風土病である。この病気は1958年に発見され、研究用のサルで集団発生した。ヒトへの最初の感染は1970年にコンゴで確認された。天然痘に似ているが感染力は弱く、ウイルスは主に感染した動物や感染者との密接な接触(感染者の皮膚や体液に直接触れたり、汚染されたベッドリネンやその他の物品に触れたりする)、汚染された肉の摂取によって広がる。性的接触によっても感染し、胎児に感染する危険性もある。2022年の流行では、主にゲイとバイセクシュアル男性の間で世界的に広がった。無症状の感染者から広がる可能性もある。実際の主な感染経路は、おそらくセックスが第一の要因で、第二の要因は密接な接触と家庭内感染だろうと考えられている。
主に2つのタイプがある: 現在コンゴで優勢なクレードIと、2022年の世界的大流行を引き起こしたクレードIIである。(クレードとは、遺伝的にも臨床的にも異なるウイルス群のこと)。一般にクレードI型の方が重症化しやすく、死亡率も高い。世界の他の多くの国々では、2022年に大流行したクレードIIb型の患者が出続けている。米国では今年約740人の患者が発生しており、昨年のこの時期の2倍以上である。ヨーロッパでは、重症のクレードIの感染者が今週スウェーデンで1例報告された。北米やヨーロッパで感染が広がり始めるのは時間の問題だと考えられている。
発熱、頭痛、筋肉痛といった普通の風邪症状から始まり、その後、口、手、足、性器に盛り上がった発疹ができる。膿疱に進行し最終的にはかさぶたになる水疱性発疹がこの病気の徴候である。特に幼児の場合、発疹は麻疹や水痘などの他の病気と間違われることがある。症状は2週間から4週間続くことがある。SIGA Technologies社が製造しているテコビリマットという治療薬はあるものの(日本にはない)、多くの場合、治療は支持療法と症状の緩和が中心となる。他の多くの感染症と同様、健康な免疫システムを持つほとんどの人は重症化する可能性は低いが、幼児、免疫不全者、H.I.V.のような合併症を持つ人では致死率が高い。高齢者は、1972年に終了した小児期の天然痘ワクチン接種によって、少なくともいくらかは守られている可能性がある。
病気の進行を遅らせるための包括的な解決策ではないが、社会的距離を置くことは、その広がりを抑えるのに役立つ。
2022年の流行時にはワクチンが使用された。アメリカでは2022年、人々が予防接種を受け、行動を改めた結果、感染者数は30,000人以上から昨年は約1,700人に減少した。WHOは2022年7月、サル痘の流行を世界的な保健上の緊急事態と宣言し、それまで報告がなかった70カ国以上で感染が確認された。それ以来、116カ国で10万人近くが罹患している。 - 水痘と帯状疱疹の流行はしばらく続きそうです。 07/15/24
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児童の間で水痘が流行しています。さらに家庭内での二次感染によって大人にも広がるケースがあります。
水痘ワクチンは本来、時間が経つと効果が薄れていくワクチンです。ワクチンを接種していても水痘にかかるブレイクスルー感染が起こります。ワクチン接種完了後1年経つと、年間で1000人中1.6人が、5年経つと1000人中9.0人が、8年経つと1000人中20.4人が、9年経過後には1000人中58.2人が、ワクチンを2回接種していても本物の水痘ウイルスに感染・発症することが知られています。
Loss of vaccine immunity to varicellaヒトの免疫力は加齢に従い徐々に抑えられる方向に向かいます。色々な感染症の中でも特に水痘ウイルスに対する免疫力が加齢によって低下することはよく知られています。逆に、感染症に対する免疫は多くの感染源に頻繁に接触して刺激され続ける事によって賦活化されるものと考えられています。
Heterogeneity of memory T cells in agingほとんどの人々が、4年以上もの長い期間、水痘ウイルスを含めた多くのウイルスに接触する機会を失い、本物のウイルスによる免疫に対するブースター効果までもが失われた結果、水痘のブレイクスルー感染や帯状疱疹をきわめて発症しやすい状態になっています。特に児童・生徒がブレイクスルー感染発症する率は、上記の研究がなされた2007年よりもはるかに高まっているだろうと考えられます。
(現在、児童・生徒に対して水痘ワクチンの追加接種の必要性は推奨されていません。50歳以上の方には、シングリックス®︎の2回接種が推奨されています。)
- ライノウイルス/エンテロウイルスという普通の風邪が今は一番多い様子。 06/22/24
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2歳の男の子がひどい腹痛を訴えました。肺炎による呼吸不全とショック状態に陥りかけていたということがわかりました。集中治療室で人工呼吸器治療を受けることになったけれども、無事に退院できました。遺伝子検査から、ライノウイルスかエンテロウイルス(いずれも最もありふれた普通の風邪ウイルス)の単独または同時感染によるものであることがわかりました。
エンテロウイルス属と呼ばれるウイルスのグループの中には、ポリオ以外のエンテロウイルス(Non-Polio Enterovirus)としてよく知られた、エンテロウイルスD68(EV-D68)、エンテロウイルスA71(EV-A71)、コクサッキーウイルスA6(CV-A6)がある。これらは特に胃腸感染からウイルス血症を引き起こす。EV-D68 はさらに呼吸器疾患を引き起こす。EV-A71 と CV-A6 は手足口病の原因となる。160種類以上の型を持つライノウイルスもNon-Polio Enterovirusととても似通ったウイルスであり、同じエンテロウイルス属グループの一員として分類される。特にライノウイルスの中でもC型として分類されるものは、エンテロウイルスD68 ととても似た性質を持ち、ウイルス血症を引き起こす。ライノウイルスは通常秋と春に増えるが、基本的に1年中流行している。
ライノウイルスにかかると、大抵は鼻風邪程度で済むが、喘鳴・喘息の悪化、中耳炎、副鼻腔炎、細気管支炎、気管支炎、肺炎を引き起こすことがある。
今年は春以降、小児・大人問わず、喘息、中耳炎、副鼻腔炎、気管支炎、肺炎が増えているが、その原因はライノウイルスの流行によるものであることがわかる。Non-Polio Enterovirusにかかると、通常ウイルスは腸管に侵入するので、腹痛や嘔吐といった胃腸炎症状を引き起こしたり、さらに血液に乗って皮疹を引き起こすことになる (手足口病、ヘルパンギーナ)。同様に、ライノウイルスの一部であるライノウイルスC型も、肺炎を引き起こすばかりでなく、血液に乗って全身に散布され、ショック症状としての腹痛あるいは胃腸炎症状を引き起こしうる。(注)ライノウイルス/エンテロウイルスの検査キットは一般の外来にはありません。
Rhinoviruses and Respiratory Enteroviruses: Not as Simple as ABC
CDC About Rhinoviruses
国立感染症研究所病原体別下気道炎由来ウイルス
FilmArray呼吸器パネルを用いた病原体サーベイランス
Evidence of the simultaneous replications of active viruses in specimens positive for multiple respiratory viruses - 吸入デバイスの吸い方はとても大事です。 06/16/24
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慢性咳嗽(8週間以上続く咳)では、問診とレントゲンによってある程度病気を絞り込みますが、それだけで最終診断に至ることはありえません。慢性咳嗽の約半分を占めるとされている咳喘息かどうかを確かめるためには、気管支拡張吸入薬が効くかどうかが重要な手がかりになります。アトピー咳嗽やCOPD(慢性閉塞性肺疾患)では、β2気管支拡張薬が効きません。がんばって吸入しても、薬が肺の奥の方まで届いていないために有効性が得られず、正しい診断に行きつくのに、かなり回り道をすることになります。こういった事態は実際には頻繁に起こっていて、一定の頻度で生じざるをえないものと想定しています。
アドエアなどの円盤上のディスカス製剤、レルベア、エンクラッセなどのエリプタ製剤、シムビコートなどのタービュヘイラー製剤では、強く「早く深く」吸入しないと薬剤が気管支の奥まで到達しにくく、ある程度以上の吸気力が必要ですが、一方吸気力が強すぎると薬剤が喉を直撃して肺の奥まで到達しにくくなり、時には嗄声につながることもあります。
フルティフォーム、アドエアエアゾールといった筒状でエアロゾルが噴霧される製剤では、吸気力の弱い人でも吸入できますが、薬剤噴霧と吸気の同調が難しいことがあります。急激に噴射せず、エアロゾル移動速度を吸気に合わせるようにやや遅く「ゆっくり深く」することが必要です。また、薬剤の噴射方向が必ずしもまっすぐになっていなかったり、吸気時に薬剤でむせ込むことがあります。
スピリーバレスピマット(ソフトミスト吸入器)は、エアロゾル化率の高い薬剤がゆっくりと噴射されるように作られています。吸気と薬剤噴射とを同調させるためには、いかにゆっくり深く吸い込むかが大切です。また、ちょっぴり力が要ります。「できるだけゆっくりと肺いっぱいに息を吸い込み、苦しくならない程度に息を止めるように」します。
- 中南米でのデング熱感染者急増を受け、米国と欧州がデング熱サーベイランスを強化。06/07/24
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WHOによると、世界のデング熱感染者数は過去5年間で大幅に増加し、2024年にはこれまでに760万人以上の感染者が報告され、そのうち16,000人が重症化し、3,000人以上が死亡している。アメリカ地域が最も大きな影響を受けており、今年の感染者数はすでに700万人を超え、2023年に記録した430万人を大きく上回っている。WHOは、デング熱の流行国の多くは、監視・報告体制が十分でないと警告している。
世界的な追跡調査を強化するため、WHOは新しいダッシュボードを立ち上げた。現在のところ、103カ国のデータがある。今年、ヨーロッパを除くすべての地域で、現地で発症した症例が報告されている。
東南アジアでは、インドネシアで急増が報告され、バングラデシュ、ネパール、タイでは2023年の同時期よりも症例数が増加傾向にある。西太平洋ではマレーシアとベトナムが最も影響を受けている。アフリカでは13カ国で感染が続いており、東地中海地域では脆弱な紛争地域でデング熱の発生が報告され続けている。
デング熱の急増には、循環する血清型の変化や気候変動などいくつかの要因がある。WHOによると、都市化や人口移動も一役買っているという。「少なくとも5カ国(バングラデシュ、インド、ミャンマー、ネパール、タイ)では現在モンスーンの季節が始まっており、ヤブ蚊の繁殖と生存に適した条件が整っている」とWHOは指摘している。