- 今は風邪が流行るわけがない時期(ウイルス静穏期)(viral nadir)です 06/25/25
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2020年から2022年にかけてSARS-CoV-2の流行とともにインフルエンザ・RSV・パラインフルエンザが消失しました。そして直近の2年間、複数の呼吸器ウイルスが連続的に流行した結果、それぞれが互いに干渉し合い、最終的にそれらの流行が終息したことによって、現在一時的に市中の循環ウイルス量が大幅に低下し、「ウイルス静穏期」に入っています。(この1年間は大の大人が多数肺炎にかかるほど、既存免疫が弱っていて、多くの人が複数の風邪、気管支炎、肺炎にかかりました。消滅していたかに見えていたパラインフルエンザウイルス、百日咳も全部再登場しきりました。)
ウイルス干渉とは、あるウイルス感染が、他のウイルスの感染を抑制する現象のことです。ヒトはウイルスに感染すると、免疫が賦活されます。先に感染したウイルスによって免疫は抗ウイルス状態へ誘導されます。例えば、RSV → インフルエンザ → コロナ のように流行が重なった場合、連続的なウイルス流行によって免疫環境は「干渉強化モード」に保たれます。そのため次に来るウイルスは感染成立が阻害され、流行規模が限定されることになります。この状態が幾重にも繰り返され、市中のヒトの感受性宿主が減り、免疫的「飽和状態」になります。その結果、ほぼすべてのウイルスに対して「部分的に防御された環境」が一時的に形成され、流行する循環ウイルス量が減ることになります。
ウイルス流行後の静穏期(post-epidemic suppression)とは、感染拡大→干渉→終息という波がいくつか続くと、集団内の自然免疫系が「訓練」され、抗ウイルス状態が維持される感受性個体が多数を占めることになり、その結果、数週間〜数ヶ月にわたり複数のウイルスが同時に「出てこない」時期=ウイルス静穏期(viral nadir)が生じるということです。
その後、新たな感受性個体が再増加(例:連続的な流行による免疫訓練を受けていない乳幼児)することで、次の流行波が発生しやすくなります。あるいは、連続した感染拡大時期に参加していなかった別のウイルスによる流行が発生することになります。
Cooperative Virus-Virus Interactions: An Evolutionary Perspective
- コクサッキーウイルスB5は夏風邪の原因ですが… 06/23/25
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現在、ウイルス循環の谷にいるのですが、例年通りであればそろそろ夏風邪ウイルスの流行期に入ります。その代表的なウイルスがコクサッキーウイルス(Coxsackievirus)です。コクサッキーウイルスはエンテロウイルス属に属し、A群(A1〜A24) と B群(B1〜B6) に分類されます。ちょっと気がかりな現象が観察されています。2021年〜2024年まではA群による流行が繰り返されていたのですが、昨年秋以降B群の検出率の方がずっと高くなっていて、今年に入ってからは数は少ないもののB群(B5)だけが検出されているのです。
コクサッキーA群は、主に小児に表在性・粘膜性の病変を引き起こしやすく、手足口病(A16, A6)・ヘルパンギーナ(A2-10, A16)・結膜炎(A24)という表面的な病状に終わり、筋肉・内臓への侵襲性は弱く、通常は軽症で済むことが多い。昨年までは、この形で流行しました。一方、B群は、皮膚粘膜症状は少ないが、深部臓器(筋肉・心臓・中枢神経)を侵しやすく、心筋炎・心膜炎・無菌性髄膜炎・新生児敗血症様疾患・胸膜痛症候群(Bornholm病)・膵炎(→1型糖尿病誘因)を引き起こすことがあり、これらの病態は稀ではあるが重症になることがある。好発年齢も新生児~若年成人までと幅広い。
【B群による病状】
心筋炎・心膜炎 :若年男性に多く、胸痛・不整脈。突然死の原因にも。
無菌性髄膜炎(B2-5) :発熱・頭痛・項部硬直。A群より頻度高く、やや重症例も。
新生児感染症(敗血症様) :母子感染。肝炎、心筋炎、脳炎など致死的なことも。
Bornholm病(胸膜痛症候群) :急な胸・腹部筋肉痛と高熱。筋炎を伴う。
膵炎・糖尿病(発症契機):自己免疫性1型糖尿病の誘因ウイルスとして注目されている。これからしばらくは最も注視されるべきウイルスだと考えています。
- パラインフルエンザウイルスの症状 06/20/25
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パラインフルエンザウイルス 1型(HPIV-1)
教科書的には、好発年齢 6か月〜5歳(特に1〜3歳)、「犬吠様咳嗽」+嗄声+吸気性喘鳴が典型的、急性喉頭気管気管支炎(クループ症候群)の主な原因とされているが、成人の場合は、「声がでません(嗄声)」になる。秋(9〜11月)に流行することが多いといわれているが、春から初夏の今流行している。2年ごとにアウトブレイクが見られる傾向(周期性あり)。発熱・鼻汁・軽い咳で始まり、1〜2日以内にクループ症状(咽頭浮腫による呼吸音異常)へ進展。多くは3〜5日で改善。パラインフルエンザウイルス 3型(HPIV-3)
生後6か月〜2歳(特に1歳未満)の細気管支炎や肺炎の主要原因、RSウイルスに次いで頻度が高い下気道感染症ウイルス。春〜初夏にかけて(4〜6月頃)に流行することが多い。初期症状は上気道症状(鼻汁、軽度の咳など)、数日後に細気管支炎・肺炎へ進展するケースあり。特に乳児で喘鳴や呼吸困難、陥没呼吸を呈するが、成人でも気管支炎や肺炎で入院の原因になる。高熱を伴うことがあり、持続性だったりする。Parainfluenza Virus in the Hospitalized Adult; Clinical Infectious Diseases
- 今は2023~2024年の風邪ウイルス一斉同時流行後の谷間 06/20/25
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エンテロウイルス71による手足口病は2023年に大流行しました。コクサッキーウイルスA16、A6による手足口病は2024年に爆発的に1年に渡り長期間流行しました。コクサッキーウイルスA6によるヘルパンギーナは、2023年も2024年も夏を中心に流行するパターンを繰り返しました。下気道炎と急性弛緩性麻痺を引き起こすエンテロウイルス68が昨秋にかなり流行しました。無菌性髄膜炎の主な原因であるエコーウイルス11は昨年秋から冬にかけて大きな流行の山を作りました。咽頭結膜熱の原因になるアデノウイルス1,2,5は2023年から2024年にかけて長期間の流行になりました。感染性胃腸炎を引き起こすアデノウイルス41は昨年後半から今年前半にかけて散発的に流行を持続しています。RSウイルスは今年1〜3月に大流行しました。鼻風邪の最大原因ウイルスであるライノウイルスは今年5月まで2年以上流行が持続していました。今年5月にはメタニューモウイルスも流行しました。
コロナウイルス流行中に感染サイクルが途絶えていたこれらのウイルスは、2023年から2024年にかけて一斉に供給が高まり、今一斉に潮が引くように消えています。
その谷間に久しぶりに登場してきたのが、パラインフルエンザウイルス1,3です。1は主に上気道炎、3は下気道炎の原因になります。 - パラインフルエンザウイルスによる長い咳 05/30/25
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パラインフルエンザウイルスは、ヒトパラインフルエンザウイルス(HPIV)として知られるRNAウイルスで、気道感染症の原因となります。特に小児にクループ症候群(急性喉頭気管気管支炎)、気管支炎、肺炎、上気道炎(風邪)を引き起こすウイルスとして知られています。直近では、長引く咳の原因ウイルスとして、HPIV-3 がライノウイルスの他によく検出されています。
喘息発作の90%は、呼吸器ウイルス(RSウイルス、ライノウイルス、パラインフルエンザなど)が引き金になります。パラインフルエンザウイルスは、喘息発作のトリガー(引き金)となる代表的な呼吸器ウイルスの一つです。小児や乳幼児における初回喘鳴(ぜんめい)の原因、喘息既往歴のある人における発作の再燃、アトピー素因のある人において、ウイルス感染によって気道炎症反応が過剰に起こる原因、喘息患者においては、既にある慢性気道炎症を悪化させる原因になります。
風邪にかかった結果起きている現象は、気管支喘息そのものの症状ですので、咳の風邪なんだけれども喘息薬によって治療することになります。
Impact of viral infection on acute exacerbation of asthma in out-patient clinics: a prospective study: Journal of Thoracic Disease
Naturally Occurring Parainfluenza Virus 3 Infection in Adults Induces Mild Exacerbation of Asthma Associated with Increased Sputum Concentrations of Cysteinyl Leukotrienes: Int Arch Allergy Immunol - アレルギーIgE検査はアトピー、喘息の原因対策にはなりません 05/26/25
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よく誤解されているのは、血液検査で特異的IgE抗体が陽性を示すアレルゲンを除去することが、アトピー性皮膚炎の悪化を予防する対策だという迷信です。
アトピー性皮膚炎の場合、多くが何らかのアレルゲンに陽性を示すことが多いのは、皮膚炎があることによって上皮バリアの隙間から内部に侵入してしまった物質に対して免疫が反応するようになってしまった(感作という)結果であって、皮膚炎の原因では決してないということです。
したがって、感作を受けたアレルゲンを除去してもアトピー性皮膚炎の根本的な原因対策にはならない。
最近、盛んに宣伝されている「アレルギー検査」は、アトピー性皮膚炎の原因とは何の関係もないし、その治療には何の役にも立たないということです。同様に、喘息の場合でも、感作を受けた結果である特異的IgE抗体陽性物質は、喘息の治療や予防と直接の関係はありません。 - アトピー、喘息、食物アレルギーの根本原因〜上皮バリア仮説 05/26/25
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「上皮バリア仮説(epithelial barrier hypothesis)」は、アトピー性皮膚炎、喘息、食物アレルギーなどのアレルギー疾患の増加を説明する仮説で、近年、特に注目されています。これは「皮膚や腸などの上皮バリアの破綻」がアレルギー発症の出発点になるとする考え方です。
本来、皮膚や腸などの上皮細胞は外界から体内を守る「バリア」の役割を果たしています。このバリアが遺伝的要因や環境要因によって破綻すると、本来入ってこないはずのアレルゲンや微生物が侵入してくる。それによって免疫系が過剰に反応し、アレルギー炎症(アトピー性皮膚炎、喘息、アレルギー性鼻炎など)を引き起こすという理論です。アトピー性皮膚炎では皮膚バリアが、食物アレルギーでは腸管バリアが、喘息や鼻炎では気道上皮バリアが破綻したために、各部位で免疫の過剰反応が起きてしまうのです。
アトピー性皮膚炎の場合、遺伝的にフィラグリン遺伝子(FLG)変異によって、角層の構造タンパク質が欠損し、皮膚のバリア機能が低下しています。そのため、皮膚の水分保持能力の低下やアレルゲンの侵入を許す原因となります。さらに環境要因として、石けんや洗剤(界面活性剤)、PM2.5、殺菌剤(トリクロサン)、乾燥などによって皮膚バリアをさらに損なってしまいます。
そうして破綻したバリアの隙間からアレルゲンや病原体が内部に直接侵入し、ケラチノサイトや上皮細胞がTSLP, IL-33, IL-25などのサイトカインを放出、これらが免疫細胞(ILC2、樹状細胞、T細胞)を活性化し、Th2型免疫反応が起こり、IgE産生、好酸球活性化が生じて、かゆみや炎症が進行すると考えられています。したがって、アトピー性皮膚炎では、第1に、早期保湿;乳児期からの適切な保湿でバリア機能を保ち、同時に、バリア修復治療;抗炎症剤である外用ステロイドを併用してバリアの損傷部位の修復を促進し、バリアを壊さない生活;刺激の強い洗浄剤、過度な洗浄、乾燥の回避をする
ということが根本的な治療及び予防戦略になります。Recent advances in the epithelial barrier theory:International Immunology
要約
上皮バリア理論は、慢性非伝染性疾患、特に自己免疫疾患やアレルギー疾患の最近の増加を、上皮バリアを破壊する環境物質と関連づけるものである。無秩序な成長、近代化、工業化のために、世界的な汚染と環境有害物質への暴露は60年以上にわたって悪化し、人間の健康に影響を及ぼしてきた。この間、健康への影響を合理的に管理することなく新たな化学物質が導入され、特に皮膚や粘膜の上皮バリアへの悪影響が報告されている。粒子状物質、洗剤、界面活性剤、食品乳化剤、マイクロ・ナノプラスチック、ディーゼル排気ガス、タバコの煙、オゾンなど、これらの物質は上皮バリアの完全性を損なうことが明らかになっている。上皮バリア破壊は、タイトジャンクションバリアの開放、炎症、細胞死、酸化ストレス、代謝調節と関連している。特に罹患組織では、有害物質、基礎疾患である炎症性疾患、薬剤の相互作用を考慮しなければならない。この総説では、環境バリア損傷化合物がヒトの健康に及ぼす有害な影響について、細胞および分子メカニズムに絡めて論じている。 - なぜIgAが悪さするのか? 05/25/25
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【そもそもIgA抗体とは?】
IgA(免疫グロブリンA)は、粘膜免疫を担う主要な抗体です。上気道、消化管、泌尿生殖器などの粘膜表面で外敵(病原体)を中和する目的で作られます。IgAは主に呼吸器や消化管の粘膜感染に対する免疫応答の役割を担っています。【なぜIgAが病気の原因になるのか?】
ウイルスなどの感染により大量に産生されたIgAは自己抗原や細胞外マトリクス(例:ラミニン)と結合しやすく、IgA免疫複合体が作られやすい。それは小血管に沈着しやすく、同時に補体活性化や好中球の活性化を引き起こし、血管炎を発症させる。
IgA血管炎で作られるIgAは、通常のIgA1とは異なり、糖鎖修飾異常(O-ガラクトース欠損IgA1)を持つ場合があります。これは、免疫複合体を形成しやすく、クリアランスが悪く、血中に長く残り、腎臓のメサンギウム細胞や血管内皮に沈着しやすいという性質を持ち、腎障害や全身性の血管炎を引き起こす。このような異常なIgAの増加を引き起こしやすい感染症として、溶連菌では扁桃腺で、肺炎球菌では気道の粘膜表面で、ライノウイルスでは鼻腔粘膜表面で、ノロウイルスやロタウイルスでは腸管粘膜表面でそれぞれIgA応答による免疫複合体が形成されます。 - IgA血管炎の入院の目安 05/25/25
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IgA血管炎(紫斑病)は、多くの場合軽症で自然軽快する疾患ですが、一部では腎障害や消化管出血、関節症状を伴うため、外来での観察が可能かどうかは病状により判断されます。
外来観察可能なケース(軽症)
全身状態良好 (発熱、脱水、意識障害などの全身症状がない)
紫斑のみ/軽度の関節痛 (下肢に典型的な紫斑が出るが日常生活に支障なし)
腹部症状が軽微 (腹痛があっても軽度で、嘔吐・下血・腸重積の兆候がない)
腎症状なし/軽度 (尿検査で蛋白尿・血尿が軽度またはなし)
家族の理解とフォロー体制がある (自宅で経過観察ができる環境が整っている)入院を考慮すべきケース
腹部症状が強い(強い腹痛、嘔吐、下血、腸重積の疑い(触診で右下腹部圧痛や腫瘤))
腎症状あり (持続的な蛋白尿、血尿、または血圧上昇)
皮疹の壊死性変化 (紫斑が水疱化・壊死傾向あり、広範囲・痛みを伴う)
関節症状が高度 (歩行困難などの日常生活制限を伴う関節炎)
全身状態不良 (発熱・ぐったりしている)小児(主に3〜10歳)の多くは通常数週間で自然軽快し、重症化は稀であるが、成人では腎症のリスクが高く、慢性腎炎や腎不全に進展する可能性もある。免疫抑制治療の積極的導入が検討される場合もある。(腎障害は、発疹出現から 数日〜数週間後、尿蛋白・血尿、時にネフローゼ症候群や急性腎炎症状(浮腫、高血圧)として起きる。)
[腎障害の発症率]:小児 約20–40%(多くは軽度) / 成人 約40–60% [ネフローゼ症候群の合併率]:小児<10% / 成人15–30% [RPGN化の頻度]:小児 稀(<5%)/ 成人 10–20%前後 [完全寛解率]:小児 約85–90%(通常予後良好) / 成人 約50–60%(腎障害が残ることあり) [慢性腎不全への進行率]:小児<5%(長期)/ 成人 10–30%(10年で) [ステロイド・免疫抑制薬使用率]:小児 少ない / 成人 高い [フォローアップ期間]: 小児 3〜6か月程度(尿異常持続なら長期) / 成人 数年単位の腎機能フォローが必要 - ライノウイルスが流行すると紫斑病(IgA血管炎)が増える 05/25/25
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今年は、IgA血管炎がかつてないほど多く見受けられています。IgA血管炎は典型的な場合、両すねに赤くて硬い発疹がたくさん出てくる病気です。
パンデミック時の非薬物的介入(マスク着用、手洗い、ソーシャルディスタンスなど)によって呼吸器感染症の流行が抑制されたことにより、IgA血管炎の発症率が53.6%も大幅に減少し、介入緩和後、発症率が37.2%増加したことが報告されています。
特に小児のIgA血管炎の発症は呼吸器感染症と密接な関係があり、その流行時期と一致していることが示されています。呼吸器感染症の少ない夏はあまり見られないが、秋以降徐々に増え始め、冬〜特に免疫が過剰に反応しやすくなる春にかけて多い。
IgA血管炎の発症の37.3%に肺炎球菌が、25.6%に溶連菌が関連していたばかりでなく、驚くべきことに、その17.1%の発症にライノウイルスが関連していたことです。最近まで非常に多かった鼻炎・気管支炎を伴う普通の風邪が増えると、IgA血管炎が増えるのです。
川崎病と同様に、IgA血管炎は免疫関連性の小血管炎であり、特に小児の場合は、上気道感染などの感染症が引き金になり、ウイルス感染がIgAの過剰産生や免疫複合体の沈着を誘導し、発症の引き金になるということです。 - ライノウイルスとエンテロウイルスそしてEV-D68 05/23/25
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今、鼻炎・副鼻腔炎・気管支炎・喘息・肺炎を引き起こす風邪が流行っています。このライノウイルス(HRV)(Rhinovirus A/B/Cなど)と、これから夏秋にかけて流行るエンテロウイルス(EV)(Poliovirus、Coxsackievirus、Echovirus、EV-D68 など)は、共通の進化的祖先を持つと考えられていて、同じ「ピコルナウイルスファミリー(科)」に分類されます。(どちらも一本鎖(+)RNAウイルス、非エンベロープ型ウイルス)
ライノウイルス(HRV)は主に上気道(風邪の原因)から下気道に、エンテロウイルス(EV)は消化管(お腹にもくる高熱の風邪)、神経系、中枢神経に感染します。
HRVは、酸に弱く、胃酸で不活化されやすいが、エンテロウイルスは胃酸にも耐え、消化器症状を引き起こしやすい。互いのゲノム構造にはある程度の類似性はあるが、分子系統解析(VP1領域*や5’UTR領域**の塩基配列)では、ライノウイルス(HRV)はエンテロウイルス(EV)とは異なるクレードを形成します。ライノウイルス(HRV)は大きくAクレード(76型)とBクレード(25型)に分かれ、いずれもエンテロウイルス(EV)のクレードから明確に分岐していることが確認されている。
唯一ライノウイルス(HRV)87の塩基配列だけは、ライノウイルスよりもむしろエンテロウイルス(特にEV-70)に近いことが明らかにされ、以降HRV87はエンテロウイルス D属に分類され、エンテロウイルスD68(EV-D68)と再命名されました。
(*VP1はウイルスの主要なカプシドタンパク質であり、ウイルスの分類や抗原性の決定に重要な役割を果たします。)
(**5’UTR(5′ untranslated region、5′ 非翻訳領域)は、RNAウイルスのゲノムRNAの先頭部分にある翻訳されない領域です。この部分はタンパク質にはなりませんが、翻訳開始の調節、ウイルスRNAの安定性や複製制御の役割を担っていて、感染性に極めて重要な役割を果たします。)エンテロウイルスD68は、エンテロウイルス属ながら呼吸器ウイルスとしての特徴が強く、ライノウイルスに近い性質を持っています。上気道炎だけではなく、喘鳴や重度の呼吸障害を引き起こします。ゆえに喘息をもつ幼児・小児で重症化しやすい。
胃酸で不活化しやすく、エンテロウイルスにも関わらず消化器症状を起こしにくい。特に重要なことですが、EV-D68は、まれではあるものの、突然の四肢麻痺や筋力低下といったポリオに似た中枢神経症状(急性弛緩性麻痺)を引き起こすことがあります。
このように、EV-D68はHRVとEVの“中間的な性質”を持つウイルスである。HRVのように低温培養で増殖し、下気道に感染し、EVのように神経系に感染する場合もある。
EV-D68は2014年、2016年、2018年、2024年と数年周期で大規模な流行を繰り返しており、医学的には極めて注目度の高い要注意ウイルスです。
まとめ:エンテロウイルスEV-D68とライノウイルスは、引き起こされる症状の面でも遺伝的にも近縁でありながらも、EV-D68は「エンテロウイルス属」であり、「ライノウイルス属」ではない異なるウイルス種である。
Genetic clustering of all 102 human rhinovirus prototype strains: serotype 87 is close to human enterovirus 70:Journal of General Virology
Human Rhinovirus 87 and Enterovirus 68 Represent a Unique Serotype with Rhinovirus and Enterovirus Features: Journal of Clinical Microbiology - 副鼻腔炎(急性副鼻腔炎)の原因ウイルスで一番多いのは? 05/16/25
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現在、百日咳とは別の風邪も同時に流行しています。そして、それにかかった多くの人が副鼻腔炎(急性副鼻腔炎)を合併しています。
急性副鼻腔炎の80〜90%はウイルス性であるとされています。その中で圧倒的に最も多いのがライノウイルスです。一般的な風邪の主な原因ウイルスです。鼻粘膜の炎症を起こしやすく、鼻閉・鼻汁を引き起こして副鼻腔にも波及しやすい。
他に、コロナウイルス(季節性)は、通常の風邪の一因として SARS-CoV-2出現前から存在しているウイルスです。
インフルエンザウイルスも、強い全身症状の後に比較的多く副鼻腔炎を合併することがあります。
パラインフルエンザウイルスは、小児に多く、気管支炎が主な症状になることが多いのですが、同時に鼻~副鼻腔の粘膜も侵すことがあります。
アデノウイルスは、鼻汁・発熱・結膜炎など多彩な症状を起こしますが、副鼻腔にも炎症が及ぶことがあります。
しかし、症状が長引いた一部のケースでは、ウイルス感染後に細菌性副鼻腔炎(肺炎球菌やインフルエンザ菌による二次感染による)へと進展することがあります。
ちなみに、ライノウイルスは副鼻腔炎と同時に、気管支炎/細気管支炎/喘息性気管支炎/気管支喘息をしばしば引き起こし、百日咳と同様にしつこい咳の原因でもあるため、見分けがつきにくいこともしばしばです。 - 日本の子ども、心の健康度低く 05/15/25
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ユニセフによる、経済協力開発機構(OECD)および欧州連合(EU)加盟43カ国の調査によると、日本の子どもの精神的な健康度は32位(2020年は37位)、それに対して身体的な健康度は20年に引き続き1位でした(日経新聞)。普段からたくさんの子ども達と接していて観察されているものと合致した結果でした。診察室で自分を言葉ではっきり聞こえる声で表現できない子どもが、10年20年前に比べて非常に増えてきています。
小学校入学を境にして、それまで無邪気だった子ども達は、大きくなるにつれ、他人に迷惑をかけてはならないという倫理的・道徳的強迫観念、手足の先までがんじがらめにされているような、目に見えない規則・社会的掟、他人や社会への遠慮、言葉による自己表現の抑制、世間からの心理的制裁圧力、自己感情の抑制、といった、パンデミック以降特に強まった心理社会的圧力の下で、しだいに自己を鎧で覆い、自己の内側へ引きこもらざるを得なくなっていく姿を毎日見せてくれています。 - 二峰性発熱を見たら 04/27/25
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熱の出る病気の経過中、一旦下がったのに再び発熱、解熱することがあります。二峰性発熱といいます。
小児の二峰性発熱は、必ずしも悪い状態を示唆するわけではありません。軽いウイルス感染、つまり普通の風邪でも、治る直前に再発熱したり、それと同時に体中に発疹が出てきて治癒に向かうことはとても多く見られます。突発性発疹では、解熱(小さなdipのことも)後発疹が出る時に軽く再発熱することがありますが、そのまま自然に治っていきます。二峰性発熱はインフルエンザでもよくあります。こうした現象が起こるのは、体の中に入ってきたウイルスに対する免疫細胞の反応の種類によって応答フェーズのズレがあるからです。ウイルスが入ってきた直後に反応するものと数日経ってから反応するものがあるからです。遅れて起きる免疫システムの反応の方がどちらかというと過剰反応しやすいのですが、特に小児の軽いウイルス感染つまり風邪の場合は、この二段階目の免疫応答はさほど過剰な炎症は引き起こしません。 小児では、熱が出た割に重症感がないことが多い。二峰性=「必ずしも悪いサインではない」ことが多い。一方、二度目の発熱でちょっと具合悪そうだなという時には、ウイルスそのものは駆除されているのに、その後免疫システムが過剰反応を起こし、サイトカインストーム(炎症の嵐)が起きていることを考えなければなりません。デング熱で一旦熱が下がった後に重症化する場合、麻疹で咳や鼻水のフェーズ後発疹が出てくる時期がそれに当たります。川崎病では、この二次免疫過剰応答だけを何日間も見ているだけに該当することもあります。
さらに、ウイルスは駆除されつつあるものの、細菌による二次感染が起きていることもあります。よく見られるのが、風邪から始まって中耳炎や副鼻腔炎になる場合です。インフルエンザの二峰性発熱の場合でも、咳・痰・呼吸状態の悪化を伴う場合は、二次感染による肺炎球菌などによる細菌性肺炎を想起しなければなりません。
髄膜炎や敗血症でも、免疫応答フェーズのズレで波状の発熱になることがあります。この場合は、最初の発熱フェーズから重症感が強いこともあれば、さほど気づかれにくいこともあり、初期診断を難しくすることもあります。日常外来環境下では、頻度としては、小児の二峰性発熱は「自然な病態変化」が多いが、成人の二峰性発熱は「重症化や二次感染の警告」であることが多いと言えます。
- 梅毒の無料検査・相談室情報 04/01/25
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梅毒の感染経路:膣性交、肛門性交だけでなく、口腔性交やキスでも感染します。
症状:無症状のことがあります。症状が出たり自然に消えたりすることがあります。感染後1ヶ月の第1期は、感染した部位に、出来物やしこり、ただれができます。治療しなくても、数週間で症状は消えます。感染後3ヶ月の第2期は、手のひらや足の裏など全身に淡い赤色の発疹ができます。治療しなくても、数週間から数ヶ月で症状は消えます。 そうして、感染に気付かないうちに病気が進行します。数年から数十年後に、心臓・血管・神経の異常が現れ、死に至ることがあります。
検査:血液検査で診断します。検査は、感染の機会から4週間経たないと反応が出ません。
治療:抗生剤による早期治療が肝心です。パートナーも検査を受け、治療することが必要です。
免疫:免疫はできないので、何度でも感染します。
重要:妊娠中にお腹の赤ちゃんに感染して、先天梅毒を引き起こします。東京都多摩地域検査・相談室
は、匿名・無料で即日検査をやってくれています。HIV即日検査と梅毒即日検査(当日結果通知)を同時に実施。祝日を除く毎週土・日曜日の9:50〜11:00 問い合わせは 090-2537-2906 (祝日を除く 平日9:30〜17:00 土日9:30〜15:00)まで
住所:立川市柴崎町2-21-19 東京都立川福祉保健庁舎内2階 JR立川駅南口徒歩9分
予約:東京都HIV等検査予約センター 050-3801-5309(年末年始除く)10:00〜20:00
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