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RSウイルス感染症+インフルエンザ菌叢増大→重症肺炎    08/06/25

RSウイルス感染症に感染した乳児のうち26%に、少なくとも1種類の追加ウイルスが存在していました。かなり厳格な基準を用いた検出率なのでかなり控え目な数字になっています。あらゆる年齢の小児における呼吸器感染症における複数ウイルス同時検出率が10~65%と報告されていることと一致します。 同時に、病原性の高い呼吸器細菌では、乳児の91%でモラクセラまたは連鎖球菌(肺炎球菌)またはヘモフィルス(インフルエンザ菌)が検出されました。

一般に、ウイルスの重複同時感染率は年齢とともに低下するが、乳児および幼児では成人よりもウイルスの重複同時感染率が高い。 しかし、より詳細に見れば、生後3ヶ月までの最年少児では、母親からの抗体の影響のためか重複同時感染率は低く、4ヶ月以上の年長児では保育施設への通園などの社会的接触機会の増加のため、より多くの呼吸器系ウイルスに曝露されているためなのか、重複同時感染率が高かった。

ライノウイルスは最も多く同時検出されたウイルスであり、RSウイルス感染乳児の16%で検出された。ライノウイルスはRSウイルスに次いで小児における重症肺炎を引き起こす2番目に多いウイルスであり、また健康な小児または重症肺炎のない小児では最も一般的な風邪ウイルスである。実は、RSウイルスとライノウイルスはウイルス干渉効果により、同時感染しにくいウイルス同士であり、他の報告と合致したこの数字は、ライノウイルス同時感染率としての最大公約数だと考えられる。RSウイルス感染症乳児の5%以上は他の重複感染はなかった。

RSウイルスに加えて他の呼吸器系ウイルスの重複同時感染がある場合は、集中治療および人工呼吸器の必要性が高まった。しかし、ウイルスの同時検出と重症度との全体的な相関は小さく、同時検出されたウイルスはいずれも疾患の重症度と関連していなかった。

他の報告では、ライノウイルス、ヒトメタニューモウイルス、またはヒトパラインフルエンザウイルスが同時検出された5歳未満のRSウイルス感染児では下気道炎リスクが高まっていた。また別の報告でも、ライノウイルス、ヒトメタニューモウイルス、またはヒトパラインフルエンザウイルスが同時検出された5歳未満のRSウイルス感染児でも、下気道炎リスクが高まっていた。さらに、3歳未満の小児では、RSウイルスとライノウイルスの同時検出は、RSウイルス単独の場合よりも入院期間および酸素使用期間が長くなっていた。しかし、これらの報告における対象は、すでに併存疾患を抱える乳児が過剰に代表されているためだと考えられる。

ヘモフィルス菌(インフルエンザ菌、パラインフルエンザ菌)の存在は、年齢やRSウイルスの遺伝子型にかかわらず、RSウイルス感染症の重症化と有意に相関していました。インフルエンザ菌による重症化は、CD4+およびCD8+ T細胞シグネチャーの増加、Toll様受容体シグナル伝達の増強、粘膜ケモカイン(CXCL8)およびIL-17Aシグナル伝達(これらは、マクロファージおよび好中球の活性化および動員に寄与し、気管支肺胞好中球浸潤を誘導する)
と関連していました。

連鎖球菌(特に肺炎球菌)の存在と臨床転帰との間に関連性は認められなかった。しかし、他の研究では、連鎖球菌優勢の微生物叢が、RSウイルス感染症の乳児の入院リスク増加と、下気道炎発症リスク増加と関連していることが示されています。

最も多く検出された細菌であるにもかかわらず、モラクセラ属細菌は外来児や重症肺炎のない児で多く、軽症のRSウイルス感染症と関連していました。モラクセラが潜在的な保護効果、または病原性のない傍観者としての役割を果たしていることが示唆されています。

乳児は通常、呼吸器症状の有無にかかわらず、上気道に常在マイクロバイオームを保有しており、その中には病原性を持つ肺炎球菌やインフルエンザ菌などの細菌、エンテロウイルスやコロナウイルスなどのウイルスが含まれます。健康小児でも呼吸器感染症小児のいずれにおいても、複数のウイルスは頻繁に同時検出されますが、ウイルス間の相互作用はウイルス同士の関係によって相乗的になったり拮抗的になったりします。インフルエンザ A と RS ウイルスの同時感染は、ハイブリッドウイルス粒子が形成され、中和抗体を回避して受容体指向性が強化され、重症化する可能性が示唆されています。一方、ライノウイルスはインフルエンザウイルスに干渉し、両ウイルスの同時検出の可能性は低い。生後1年間を通して、呼吸器マイクロバイオームは多様性の増加とともに絶えず変化していき、モラクセラ属、ヘモフィルス属、またはレンサ球菌属の定着と肺炎球菌感染症は、ウイルス性呼吸器感染症と関連していることが示されています。

Targeted metagenomics reveals association between severity and pathogen co-detection in infants with respiratory syncytial virus: Nature

細菌とウイルス相互作用のメカニズム        08/03/25

インフルエンザパンデミックにおけるウイルスと細菌の重複感染の歴史的背景から、一次ウイルス感染が二次細菌感染の発生を促進し、下気道感染症につながるという、とても偏向した見解が広まっています。しかしながら、臨床研究では一次感染と二次感染を区別し、重複感染の臨床的意義を明らかにすることは困難です。いくつかの実験モデル研究では、ウイルス感染の次に細菌感染が成立するという位置方向性の関係ではなく、ウイルス感染と細菌感染との間には双方向の相互作用メカニズムがあることが示唆されています。例えば、ウイルス感染による呼吸器上皮の破壊、あるいは細菌のクリアランスを低下させる、あるいは細菌の付着を増加させるといった、ウイルスによる二次細菌感染の促進に対する関与ばかりではなく、細菌感染自体が抗ウイルス免疫への干渉を引き起こしたり、類似の機能を持つ病原性因子による相乗作用や補完作用などを通じて、二次的なウイルス感染を促進する可能性があります。

1.ウイルスによる二次的な細菌感染の促進
細菌クリアランスの低下
感染に対する第一線の防御機構である呼吸器上皮は、粘液繊毛クリアランスと細胞間接合の維持を通じて細菌の付着を抑制し、細菌受容体へのアクセスを制限します。一次的なウイルス感染が呼吸器上皮を破壊し、細菌クリアランスの低下につながります。ライノウイルス(RV)、RSV、アデノウイルス、インフルエンザに感染した細胞は粘液繊毛機能障害を引き起こし、その結果 S. pneumoniaeやH. influenzaeなどの細菌の排除が減少する。

ウイルス感染後の自然免疫細胞の調節も、呼吸器における細菌のクリアランスを低下させます。宿主の自然免疫応答のうち、肺胞マクロファージは正常気道における主要な細胞集団であり、呼吸器病原体に対する第一線の防御を形成します。インフルエンザ感染後に肺胞マクロファージを介した貪食作用が欠損し、S. pneumoniaeのクリアランスが阻害されることが示されています。インフルエンザとS. pneumoniaeの同時感染も、マクロファージの寄り付きが阻害され、細菌のコロニー形成が増加することが示されている。インフルエンザ感染により、感染部位への自然免疫細胞の動員が減少し、結果として細菌負荷が劇的に増加することが示されている。

細菌付着の増加
呼吸器上皮細胞へのウイルス感染は、細菌の宿主細胞への付着を促進する。先行するRSウイルス感染によってS. pneumoniaeの上皮細胞への付着が促進されました。RSウイルスはS. pneumoniaeに直接結合できます。 RSウイルス、パラインフルエンザウイルス(HPIV)、インフルエンザウイルスは、インフルエンザ菌と肺炎球菌の生きた細胞株への接着を促進した。RSVビリオンは肺炎球菌とインフルエンザ菌に直接結合し、細菌と上皮細胞の間の直接的なカップリング粒子として作用することで、細菌による定着を増やし、細菌の侵襲性を高めることが示されている。RSV感染中、宿主細胞表面のウイルス糖タンパク質は細菌接着の追加的な受容体として機能します。呼吸器ウイルスは、細菌が結合できる宿主表面タンパク質の発現を増加させることもできる。インフルエンザウイルスおよび肺炎球菌の研究では、ウイルスのノイラミニダーゼ活性によって細菌付着のための宿主細胞受容体が露出される。RVが感染した鼻粘膜上皮細胞には S. aureus、S. pneumoniae、H. influenzaeの付着が有意に増加した。また、ウイルス媒介性上皮損傷が基底膜および細菌付着のための新たな受容体の露出につながる可能性もある。

2.細菌による二次ウイルス感染の促進

ウイルス感染が細菌の増殖を促進するという一方通行の見解は、小児にはそれほど当てはまらない。発展途上国では、肺炎球菌の保菌率は成人で約4%であるのに対し、小児では50%を超え、5歳未満の小児で最大80%に達する。ヒトメタニューモウイルス(hMPV)のセロコンバージョン率は、S. pneumoniaeの鼻咽頭保菌率に比例していた。気管支上皮細胞に S. pneumoniaeを感染させると、hMPV感染感受性が上昇した。肺炎球菌結合ワクチンの普及が、小児における呼吸器ウイルス肺炎の31%を予防したことが示されている。これらは、細菌感染が二次ウイルス感染を促進することを裏付けています。

実験モデルでは、S. pneumoniaeのような細菌曝露後のほうがインフルエンザウイルス感染時のウイルス量が多いことが示されている。別のマウスモデルによれば、肺炎球菌曝露後にインフルエンザウイルスを感染させると死亡率100%だったが、インフルエンザウイルスを先に感染させた後に細菌感染させると生存率が向上しました。細菌が宿主細胞へのウイルス付着を促進するさらなる証拠として、細菌リポペプチドの添加により上皮細胞へのRSウイルスおよびhMPVの感染が促進されたことが示されている。インフルエンザ菌もまた、気道上皮細胞へのライノウイルス(RV)の結合を増強したことが示されています。

さらに、ウイルスは微生物環境を利用して免疫クリアランスを逃れる能力がある可能性も示唆されており、ウイルス感染における常在微生物叢の重要性が強調されています。

Viral-Bacterial Interactions in Childhood Respiratory Tract Infections: Nature

小児におけるウイルス・細菌重複感染エビデンス      08/03/25

呼吸器系におけるウイルスと細菌の重複感染の最も優れた、そして最も研究されている例はインフルエンザウイルスです。インフルエンザウイルスと細菌の重複感染は、成人と小児の両方で十分に報告されており、疾患の重症化との明確な関連性が示されていることは前回記しました。

RSウイルス感染症はウイルスと細菌の混合感染に関与しており、RSウイルスに感染した小児における混合感染率は17.5~44%に達すると報告されています。RSによる重症細気管支炎の小児では、乳児の下気道分泌物の42%から細菌が分離されており、同定された細菌の中で最も多かったのはインフルエンザ菌と黄色ブドウ球菌であり、細菌混合感染した小児は細菌性肺炎のリスクが高かった。小児の市中肺炎の39%がウイルスと細菌の混合感染を示し、そのうちRSウイルスと肺炎球菌の組み合わせが最も多く、症例の33%を占めていた。インフルエンザと同様、RSV と S. pneumoniae の感染はともに冬季にピークを迎え、RSV は S. pneumoniae の季節的な増加と同じ動きを辿ります。RSV と細菌の同時感染は、RSV 単独よりも重症度が高い。しかし、いくつかの臨床研究では、RSV に感染した小児における細菌の同時感染率が 2% 未満であるとしている。RSウイルス感染症で入院した乳児を対象とした研究では、細菌の重複感染はわずか0.6%にすぎないとする報告もあります。

ライノウイルス(RV)もまた、ウイルスと細菌の重複感染に関与することが多い。侵襲性肺炎球菌感染症の小児の34%にウイルスの重複感染が認められ、そのうち25%がインフルエンザウイルス、21%がRVであった。ウイルスの重複感染を認めた小児は、ウイルスの重複感染を認めなかった小児よりも重症だった。 市中肺炎の小児では、ウイルスと細菌の混合感染が66%で認められ、そのうちRVとS. pneumoniaeの組み合わせが最も多く、症例の約7%を占めました。さらに、治療に失敗した症例はすべてウイルスと細菌の混合感染であったと報告されています。RVに感染した小児のうち8%で認められた細菌の混合感染がICU入院の増加と関連していました。

他にも頻度は低いものの、ヒトメタニューモウイルス(hMPV)感染はS. pneumoniaeとの細菌の混合感染が多いことが示唆されています。肺炎球菌ワクチンの普及により、hMPV感染の発生率と臨床的肺炎の発生率が低下しています。これは、hMPV関連の入院のかなりの割合が、肺炎球菌結合ワクチンの接種によって予防できる可能性があることを示唆しています。侵襲性肺炎球菌感染症の小児の21%でアデノウイルスの混合感染が確認されました。関与する特定の病原体とは関係なく、呼吸器ウイルス全体の発生率と呼吸器細菌感染症の発生率との一致が認められています。臨床研究では、小児の下気道感染症ではウイルスと細菌の同時感染が一般的であることが確認されていますが、ほとんどの研究で対照群が存在しないため、同時感染の臨床的意義を解明することは困難です。

Viral-Bacterial Interactions in Childhood Respiratory Tract Infections: Nature

共細菌感染している呼吸器ウイルス感染症は結構多い      08/03/25

呼吸器ウイルスと細菌の同時感染は、呼吸器疾患のある小児において頻繁に検出される。ウイルスと細菌の同時感染率は20~50%と報告から66~77%という高い割合の報告まであるが、いずれにせよ呼吸器ウイルス単独感染状態という教科書的でしかない理想と現実には大変なギャップがある。元々ウイルスと細菌はどちらも呼吸器系にマイクロバイオームとして常在感染しているため、それらの検出は感染ではなく定着を反映している可能性があるため、同時感染に関与する個々のウイルスと細菌の相対的な重要性を判断することは困難とも言えるが、同時に、教科書的に一次感染とか二次感染という区別をすること自体が人為的なバイアス操作であり、(臨床医学にはよく見られることだけれども)自然現象を都合よく理解しようとするドグマ的思考に他ならない。

1918年の「スペインかぜ」パンデミックでは5000万人以上が死亡しましたが、そのほとんどはインフルエンザ単独による直接的な原因ではなく、二次的な細菌性肺炎が原因でした。感染患者の痰、肺、血液サンプルで最も頻繁に検出された微生物はS. pneumoniae、H. influenzae、Streptococcus pyogenes、S. aureusであり、インフルエンザウイルスが病原細菌と相乗的に作用し、疾患および死亡の発生率を増加させたと考えられていました。これらの知見は、1957年の「アジアかぜ」と1968年の「香港かぜ」のパンデミックのデータによって裏付けられ、死亡率の上昇と細菌性肺炎の発生率の上昇が関連していることを示していました。 1957年と1968年のパンデミックにおいて、1918年と比較して死亡者数が少なかった主な要因は、二次的な細菌感染に有効な抗生物質の利用可能性にあると考えられています。2009年のH1N1インフルエンザウイルスによる「豚インフルエンザ」パンデミックでは、致死的な肺炎症例において細菌の重複感染が頻繁に報告され、最も多く検出された細菌はS. pneumoniaeでした。

Viral-Bacterial Interactions in Childhood Respiratory Tract Infections: Nature

RSウイルス感染は肺炎球菌共感染を起こしやすい   08/02/25

RSウイルス(RSV)の流行と肺炎球菌(SP)の流行は同時期に起こることが知られています。肺炎球菌ワクチン接種の普及により小児のRSV入院が減少しました。

呼吸器系における細菌、真菌、ウイルスの正常なマイクロバイオーム構成は、ヒトの健康に有益であると考えられています。消化管マイクロバイオームが恒常性と全体的な健康の維持に重要な役割を担っているのと同様に、呼吸器マイクロバイオームの構成は宿主の免疫応答を調節し、それによって細菌やウイルスによる呼吸器感染症への感受性に影響を与えます。標準組成における「定着」平衡の破綻は、そこに眠っている潜在的な病原体の蔓延につながり、肺炎や敗血症に進行する可能性があります。

正常な呼吸器マイクロバイオームを構成する肺炎球菌は、小児において無症状に保菌されていますが、時にその定着肺炎球菌は病原性を示す可能性があり、RSウイルス感染症がその誘因となることを示唆するエビデンスがあります。RSV感染は、(1)接着分子および細菌毒性遺伝子の調節により細菌の上皮細胞への結合を強化し、(2)宿主の免疫応答を阻害することで、ヒト気道上皮細胞への肺炎球菌の付着を促進する。逆に肺炎球菌8,15A,19Fは、RSV複製を促進することが実証されています。

RSウイルス感染症のSP優位の鼻咽頭微生物叢プロファイルを持つ小児は重篤化しやすく、Toll様受容体関連遺伝子、好中球およびマクロファージの活性化およびシグナル伝達に関連する遺伝子の過剰発現が顕著であることが示されている。

RSウイルス感染症の小児の下気道では、肺炎球菌が増加し、健康な呼吸器微生物叢を成すナイセリア、プレボテラ、フソバクテリウムが減少していました。RSVは宿主免疫応答を妨害し、ヒト気道上皮細胞へのSPの付着を強化し、同時に常在細菌の増殖を抑制し、下気道マイクロバイオームの不均衡に至ることが示されています。上気道に関する研究では、RSウイルス感染症は年齢とは無関係であり、鼻咽頭におけるインフルエンザ菌とSPの増殖と関連していることが示されているが、小児の下気道においては、肺炎のもう一つの主な原因であるインフルエンザ菌が増加することがありませんでした。

さらに、宿主免疫系、細菌、ウイルス間の多方向的な相互作用が存在します。SPとRSウイルスが同時感染した状態では、抗炎症性好中球の特定のサブセットが活性化し、これらの細胞がT細胞を抑制し、ウイルス感染を助長する可能性があります。さらに、繊毛気道上皮細胞へのSPとRSVの重複感染は、粘膜の炎症反応を増強し、繊毛拍動頻度を低下させることが示されており、肺炎の重症化に寄与している可能性があります。

このように、RSV は肺炎球菌の定着を促進し、ナイセリアなどの健康常在菌を減少させ、RSV-SP重複感染による肺炎を引き起こしやすくするという、RSVと肺炎球菌間の特異的な相互作用が観察されています。

Lower respiratory tract co-infection of Streptococcus pneumoniae and respiratory syncytial virus shapes microbial landscape and clinical outcomes in children: Frontiers

腸内マイクロバイオームと肺       07/31/25

当時、重症化の要因を探るため、COVID-19の急性期から回復期における腸内マイクロバイオームの探究が不可欠でした。急性期には腸内微生物叢の多様性が低下し、回復期には増加していました。そして、急性期にはEnterococcus faeciumの顕著な寄与が確認され、回復期には酪酸産生細菌(Roseburia、Lachnospiraceae)の増加が見られました。さらに、Prevotella属はlong COVIDになりにくくする保護的効果を持っていました。

腸内マイクロバイオームは、主にFirmicutesフィルミクテス、Bacteroidesバクテロイデス、Aspergillusアスペルギルス、Actinobacteria放線菌に加え、Clostridiumクロストリジウム、Verruciformヴェルシフォルム、Spirochetesスピロヘータなどから構成されています。

腸内細菌叢は、リガンド、代謝物、免疫細胞を産生することで肺細菌叢に影響を及ぼすことができる数千の微生物で構成されており、これらは血流を介して肺に到達し、肺免疫を調節します。これらの循環細胞と代謝物を介して、腸内細菌叢は肺免疫に直接影響を及ぼし、場合によっては肺細菌叢の構成にも影響を及ぼします。

腸内マイクロバイオームは、免疫経路と代謝経路の両方を通じて肺機能に影響を与える可能性があります。腸内マイクロバイオームは喘息などの異常な免疫反応において重要な役割を果たしています。乳児では、肺や腸内に病原菌が存在することが、アレルギー性喘息の発症と関連しています。生後2~12か月の新生児の腸内微生物叢は、リポ多糖類(LPS)を介して、肺免疫系を調節し、酸化ストレスを増加させ、腸管バリアを調節することによって肺の損傷を媒介し、アレルギー性喘息を引き起こす可能性がある。酪酸を生成する腸内細菌群集や、SCFAなどの腸内微生物の代謝物の一部は喘息を予防します。腸管内の分節糸状細菌は、肺におけるTh17細胞応答を刺激し、肺炎球菌による感染と致死から肺を防御します。

このように、腸のマイクロバイオームは遠隔地である肺の免疫に影響しており、このような腸と肺の相互作用を「腸肺axis」と呼んでいます。

腸肺axisは双方向性であり、逆に肺は腸管の恒常性維持に影響を与えている可能性があります。鼻腔内に注入された物質はすぐに消化管内に出現し、
気管内の呼吸器系微生物叢の破壊は、一部の呼吸器系細菌を血流に移行させ、24時間以内に腸内微生物叢に影響を与え、腸内総細菌負荷を著しく増加させます。インフルエンザウイルス感染によって呼吸器系で生成されるインターフェロンは抗菌作用を示し、腸管の炎症反応を増幅さ、腸内細菌叢の異常を引き起こします。

喘息や COPD などの慢性肺疾患は、炎症性腸疾患 (IBD) や過敏性腸症候群 (IBS) などの慢性胃腸管障害を合併することがよくあります。IBD および IBS の患者も、肺疾患を発症する一定の可能性があります。喘息患者では腸粘膜の機能と構造が変化しており、COPD 患者では腸管透過性が通常増加しており、腸肺の密接な関係を表しています。

Gut Microbiome Composition and Dynamics in Hospitalized COVID-19 Patients and Patients with Post-Acute COVID-19 Syndrome
Impact of SARS-CoV-2 infection on respiratory and gut microbiome stability: a metagenomic investigation in long-term-hospitalized COVID-19 patients
Lung microbiome: new insights into the pathogenesis of respiratory diseases:Nature

RSウイルス感染のマイクロバイオーム     07/30/25

細気管支炎は、RSウイルス(RSV)感染が主な原因で、生後6ヶ月未満の乳児の入院原因疾患になります。鼻水、咳、喘鳴、息切れ、呼吸困難を起こします。2014年のcochrane reviewによると、アジスロマイシンまたはクラリスロマイシンの有効性は否定的な結論でしたが、将来的には、抗生剤が有益な病態がありうる可能性があるとも結論づけていました。それを受けて、2017年に発表されたAmerican Family Physicianのガイドラインでは、細菌感染が疑われたり確認される場合以外は、抗生剤投与は推奨されないとされました。

一方、そもそも特に小児の胸部レントゲン検査による肺炎の有無の判定はかなり主観的なものであることは避けられず、2018年のボストン小児病院は、胸部レントゲン検査で異常なしと判定されたうち9%が肺炎だったと報告しています。5歳児前後のマイコプラズマ肺炎の診断においてさえ、胸部レントゲンの誤診率が13%以上もあることが報告されています。ましてや、乳児のRSVによる細気管支炎において、胸部レントゲン検査の有無を問わず、肺炎がないと断定するのは極めて難しい。

乳児のRSV感染時のサイトカイン及び細胞内シグナル伝達の研究結果を考慮すると、乳児のRSV細気管支炎時はかなりのサイトカインストーム、強い炎症促進状態であることは確かです。2020年以降に起きたコロナ研究の副産物として、下気道・肺のマイクロバイオーム及び腸管マイクロバイオームの研究が進むにつれ、コロナウイルス感染時にこうしたマイクロバイオームによる炎症促進作用の寄与が相当大きいことがわかってきています。RSVがコロナウイルスと同程度の炎症促進状態を引き起こしうるウイルスであることから類推すれば、RSV感染も肺のマイクロバイオームの負荷増大による炎症促進作用が病態形成に大きく寄与しているとしても不思議ではない。RSVの肺内マイクロバイオーム研究が必要な理由です。

古いガイドラインに最新知見が反映されるのにはかなりの長年月が必要であることも確かです。

Antibiotics for bronchiolitis in children under two years of age
Respiratory Syncytial Virus Bronchiolitis in Children
The radiological diagnosis of pneumonia in children
Negative chest radiograph reliable rule-out of pediatric pneumonia
Clinical value and radiographic features of low dose CT scans compared to X rays in diagnosing mycoplasma pneumonia in children

気管支拡張症のマイクロバイオーム     07/29/25

気管支拡張症は、肺の気道の一部が永久的に拡張し、過剰な粘液の蓄積を引き起こす病気です。そのため、感染にさらされやすく、気管支拡張症では、発熱、痰、息苦しさによる急性感染性肺機能障害を発症することがしばしばです。

数多くの気管支拡張症で、FirmicutesとProteobacteriaが重症の気管支拡張症と関連していました。病状悪化に関連して最も多いのはインフルエンザ菌で、最も死亡率を高める病原体は、Pseudomonas aeruginosaとStreptococcus pneumoniaeでした。気管支拡張症が急性増悪しても、 微生物叢の構成はほとんど変化ないのですが、微生物叢多様性が減少してしまうことによって、重症化し死亡率も高まることになります。これは、微生物叢の多様性減少が治療に使われるマクロライドに感受性のある微生物叢の量の相対的減少につながるからだとも考えられますが、微生物叢全体の多様性低下によって、致死性の高いPseudomonasが相対的に増える結果であるとも考えられます。Pseudomonas aeruginosa、 Aspergillus fumigatus、非結核性マイコバクテリウム(NTM)による慢性感染、またはこれらの組み合わせは、肺損傷を加速的に進行させ死亡率を高めます。

真菌やウイルスも気管支拡張症の過程に関与しています。アスペルギルス(Aspergillus fumigatus、Aspergillus terreus)という真菌の量は病状の悪化と関連しており、気道炎症の重要な原因である可能性が示唆されています。小児の気管支拡張症では、呼吸器ウイルス、特にライノウイルスが被験者の48%で検出され、気管支拡張症急性期にはウイルス陽性サンプルの数が有意に多かったことが示されています。

気管支拡張症では、気道の粘液線毛クリアランスの低下によって、Neisseria subflava が気道に定着し、繊毛上皮機能を抑制し破壊する因子を放出します。それに対して宿主側は好中球性気道炎症を引き起こし、肺損傷を進行させます。その結果、さらにクリアランス機構が弱められ、悪循環に陥ります。そして、P. aeruginosa の優勢および微生物叢多様性の低下は好中球性炎症レベルを高めていました。一方、Rothia属の多様性は気道炎症の抑制と関連していました。

Lung microbiome: new insights into the pathogenesis of respiratory diseases: NATURE

COVID-19肺のマイクロバイオーム      07/28/25

COVIDの肺で微生物負荷が増加すると、呼吸器管理から離脱して回復する確率が低く、死亡率が高いことがわかっています。
肺微生物叢の増加及び構成の変化は宿主の免疫応答に影響を与え、肺胞の炎症を増加させる可能性があります。肺の細菌および真菌の量が、炎症の活性化に関与するサイトカインや肺胞炎症マーカー (TNF-α、IL-6、IL-1β) と関連していました。また、COVIDの重症化、ARDSの発症に関連していました。肺の微生物群の量と不均衡が、回復率や死亡率と関連していたのですが、特定の個々の細菌の種類とは関連していませんでした。

このように、COVIDはウイルスによって引き起こされるのですが、肺のマイクロバイオームが炎症反応を促進し、サイトカインを調節することで重症肺炎の発症に寄与しています。ある種の抗生剤の有効性を支持した、パンデミック初期の報告は、肺マイクロバイオームに関する知見と合致していたのです。

Lung microbiome: new insights into the pathogenesis of respiratory diseases: NATURE
Doxycycline for the prevention of progression of COVID-19 to severe disease requiring intensive care unit (ICU) admission: A randomized, controlled, open-label, parallel group trial (DOXPREVENT.ICU)
Doxycycline treatment of high-risk COVID-19-positive patients with comorbid pulmonary disease

肺炎のマイクロバイオーム      07/27/25

肺炎は読んで字の如く、肺の炎症、火事のことですが、その火元は大抵、細菌・ウイルス・真菌または他の微生物であることになっている。例えば、マイコプラズマやクラミジアは肺の常在菌ではないので、それらによる肺炎は外部病原体の肺への侵入によって引き起こされているのは明らかです。一方、市中肺炎の原因菌でもっともありふれた肺炎球菌、インフルエンザ菌、モラキセラ・カタラーリス、(頻度は低いが)黄色ブドウ球菌、緑膿菌は、流行性感染症でもないのに、一体どこからやって来るのだろうかという根本的な問いに対する答えは推測の域を出ないままでした。

肺のマイクロバイオームを構成しているPrevotella, Streptococcus, Clostridium, Roseburia, Veillonellaなどの下気道・肺の微生物叢の量の増加、つまり細菌負荷量の増大と多様性の低下及び不均衡が、サブクリニカルな炎症開始のドライバーになっています。 中等度から重度のCOPDでは、早期COPDに比べてマイクロバイオームの多様性が低下していました。COPDでは、新しい菌株に感染したり、細菌負荷が変化するとその後、炎症の増加と肺機能の急速な低下が起こります。

何らかの機序で免疫力が低下した結果、肺の微生物叢の量が増大すると同時に、それを構成する微生物群間の不均衡が起こります。優勢になる細菌群は肺炎の基盤になった状況によって異なっており、立場が逆転することもあります。Streptococcus、Prevotella が優勢になる肺炎パターンがある一方で、これらが劣勢になる肺炎パターンもあります。Pseudomonas、Staphylococcus、Streptococcus が優勢な肺炎パターンがある一方で、Prevotella、Veillonella、Corynebacterium、Roseburia が優勢な肺炎パターンもあります。

風邪のウイルス感染でも大気中の何らかの汚染物質でも、いったん下気道や肺を損傷させると肺内の微生物叢の増加と、特定のコロニーの過剰増殖へのシフトが引き起こされ、同時に宿主の免疫機構の一部が障害を受け、さらに炎症を増幅させることになります。こうして突然のように発生した細菌性肺炎は、潜在的な正のフィードバックループの特徴を有し、一度始まると、増殖促進シグナルが徐々に増幅され、マイクロバイオームと宿主側との恒常性の障害と炎症の増加という悪循環を形成します。こうして、選択された細菌群の増殖と病原性が促進され、肺胞炎症が長期にわたって持続する可能性があります。サイトカインと代謝物を調節することで、肺のマイクロバイオームは肺炎の進行を引き起こす炎症を促進します。この調節メカニズムは複雑で双方向性であり、肺のマイクロバイオームの構成自体にも影響を及ぼします。

特定の呼吸器生態系において肺の細菌負荷量は本質的に固定されており、システミックな抗生物質投与は肺の細菌負荷量全体を大幅に減少させることはできないものの、マイクロバイオームの構成を変化させる可能性があると考えられています。狭く特定の微生物群に標的を絞った治療法の可能性は理想的ではあるが、それは少なくとも現時点においては決して現実的な方法ではありません。抗生物質投与は、微生物叢全体を標的として全体の細菌負荷量を一旦軽減し、偏ってしまった多様性と構成をデフォルトのバランスに戻す再調整アプローチとして効果があるのだと考えられています。

Lung and gut microbiota profiling in intensive care unit patients: a prospective pilot study
Therapeutic Targeting of the Respiratory Microbiome

気管支炎(特に遷延性細菌性気管支炎)のマイクロバイオーム     07/27/25

遷延性細菌性気管支炎(PBB)の小児の細菌バイオーム量、好中球の割合、IL-8、およびIL-1βは、顕著に高い。PBB小児では、限定された菌種ではなく複数種からなる細菌叢で構成されています。プレボテラ(Prevotella)、インフルエンザ菌(H. influenzae)、肺炎球菌(S. pneumoniae)、モラクセラ(M. catarrhalis)、黄色ブドウ球菌(S. aureus)が増加していました。

PBB患児の好中球性炎症は、単一の病原種に起因するものではありません。Prevotella関連気管支炎では、病原菌でない共生細菌もPBB炎症の発症に寄与している可能性があります。これは、培養で呼吸器病原菌が検出されない小児の慢性咳嗽と下気道炎症が、明らかに抗生物質療法に反応するという経験的事実を裏付けます。また、肺のマイクロバイオームは気管支炎の予後と強く関連しています。PBB小児において、気道感染におけるH. influenzaeによる寄与が低い場合は、気管支拡張剤に対する反応が7倍良好であることがわかっています。また、急性呼吸器感染症後1カ月以上咳が続くPBB小児では、Neisseria、Streptococcus、M. catarrhalisの寄与が大きいことが示唆されています。

一方、PBBは、細菌叢によって気道内細菌叢バイオフィルムが形成され、それによって慢性的な炎症が持続しているのではないかとも考えられています。非定型インフルエンザ菌Haemophilus influenzae(NTHi)は、好中球の網状構造内のDNAなどの物質を、栄養源としてだけでなくバイオフィルムの材料として利用し、炎症によって局所環境に放出された物質をも自らの栄養素として利用している。さらに誘導された宿主炎症反応は、肺炎球菌などの他の潜在的な病原体や正常な共生細菌とNTHiが競合するのを助けることになり、さらに気道内の多様性が低下することになる。そこにウイルス感染が生じると、バイオフィルム内の微生物叢が剥離・放出され、単なる風邪症状では済まずに強化された炎症反応が生じることで、急性憎悪と持続炎症をもたらされます。

気管気管支炎のマイクロバイオームは、高い微生物多様性が特徴的です。PseudomonasとStaphylococcusが優勢であり、Actinomycetes、Firmicutes、Ascomycetes、Bacteroidetes、Tenericutesなどの多様性があります。気管気管支炎の炎症は、P. aeruginosaなどの優勢な細菌叢による炎症性サイトカイン刺激と同時に、Lactobacillusなどの抗炎症性細菌叢の減少によってもたらされています。同時に、増加した細菌叢の一部、BacteroidesとClostridiumは逆に炎症を抑える免疫反応を誘導しています。

Persistent and Recurrent Bacterial Bronchitis—A Paradigm Shift in Our Understanding of Chronic Respiratory Disease: Frontiers in Pediatrics
Lung microbiome: new insights into the pathogenesis of respiratory diseases: NATURE

COPD肺のマイクロバイオーム       07/26/25

健康な個体の肺マイクロバイオームは、肺環境の調節と免疫応答の調整を通じて、肺の恒常性維持に重要な役割を果たしています。肺マイクロバイオームとさまざまな肺疾患との関連性が明らかにされています。病気の肺のマイクロバイオームは、健康な肺のマイクロバイオームとは著しく異なり、主な属、微生物叢、その種類と量は疾患の種類によって異なります。一方、肺のマイクロバイオームの乱れは、病気の発症と悪化の原因です。

COPD
COPD患者の微生物叢は、健常者と比べて著しく異なる。COPD患者では、潜在的な呼吸器病原菌を含む複数の細菌がしばしば検出される。さらに、気流制限の程度が増加するにつれ、Pseudomonas aeruginosa(P. aeruginosa)やLactobacillusなどの日和見感染病原菌の数が増加する。病原性プロテオバクテリア、特にHaemophilusは、喘息とCOPD患者で増加している。一方、バクテロイデス属、特にプレボテラ属は、喘息とCOPD患者ではほとんど検出されませんでした。

COPD肺における細菌叢の多様性は、肺の構造が壊れているほど、慢性炎症が持続するほど、減少していました。COPDの慢性気道炎症は、γ-プロテオバクテリア優位の微生物叢と関係しており、肺組織における免疫細胞の浸潤と同時にプロテオバクテリアとアクチノマイセスが検出されています。

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喘息における肺のマイクロバイオーム        07/26/25

「そもそも肺のマイクロバイオームがなぜ重要なのか?」
健康な肺の中では、生態系バランスの維持された微生物群集が、宿主側の肺の細胞や免疫細胞群と絶妙な恒常性を保ち、静かで安定した宿主との共生状態なのですが、一方病気の肺では、病原性微生物群が偏って増加すると同時に免疫応答異常を引き起こし、微生物叢と宿主側との共生状態が崩れ(微生物叢の不均衡(ディスバイオーシスdysbiosis)と呼ばれます)、さらに病気を進行させることになります。宿主側の肺の構造の一部が壊れたり粘液クリアランス機構の損傷は、微生物群衆のさらなる不均衡をもたらし、悪循環に陥ることになります。したがって、正常な共生細菌の活動とバランスに副作用を及ぼすことなく、偏って増加した病原性微生物の活動だけをピンポイントで抑えることができれば、理想的な治療選択肢になりえます。

喘息
喘息では、肺のマイクロバイオームにおける病原性微生物の増加が特徴的です。それにより反復的な炎症が引き起こされ、さらに全身的な免疫機能障害の悪化がもたらされます。

喘息では、下気道内におけるHaemophilus、Staphylococcus、Actinomycesなどの病原性微生物群の増加が特徴的であると同時に共生細菌(PrevotellaやVeillonella)の数が減少します。さらに、正常肺では検出されないPseudomonasが多くの患者で病原体として検出され、特に重症喘息患者で頻度が高い。アトピー性喘息で入院した患者による報告では、Haemophilus、Fusobacterium、Neisseriaceae、 Sphingomonas、およびPorphyromonasが高レベルで検出され、BacteroidesとLactobacillusが低レベルになっていました。

このような肺のマイクロバイオームの異常は、Th2経路や他の経路を活性化することで慢性炎症プロセスを引き起こし、喘息の進行を悪化させる可能性があります。この炎症プロセスは、特定の細菌コロニーの増殖を促進し、さらに微生物のdysbiosis(不均衡)を招く可能性があります。さらに特定の病原性細菌は、薬物療法に対する免疫細胞の反応に悪影響を与える可能性があります。

肺の微生物叢のdysbiosisによる悪循環は、肺の炎症の増加と免疫バランスの乱れを引き起こし、アレルギー性喘息の発症および重症喘息の多様な特徴の要因になっています。このように微生物叢のdysbiosisは、喘息の病態の基盤なのです。

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肺のマイクロバイオーム(3)         07/25/25

ウイルス群集(ヴァイローム、ウイルスーム)
ヒトでは、ウイルス群集を構成するウイルスの数は身体の部位によって異なります。腸内容物には1gあたり109個のウイルス粒子、口腔咽頭、鼻腔、咽頭、唾液には1mlあたり108個のウイルス粒子が存在します。一方、肺のウイルス粒子は腸や口腔咽頭よりもずっと少ない。

健常なヒトの呼吸器系ウイルス群集は、パラミクソウイルス科、ピコルナウイルス科、およびオルソミクソウイルス科という主要な3グループから成ります。数は少ないが、アルファパピローマウイルス、KIポリオマウイルス、WUポリオマウイルス、およびアデノウイルス科のマストアデノウイルスも検出されます。健康な呼吸器系ウイルス叢の構成は多様・複雑というより単純で偏っています。例えば、健康な肺のウイルス叢は主にアナポウイルス科のグループが占め、まれにヘルペスウイルス、パピローマウイルス、レトロウイルスなどが検出されます。

このような多様な真核生物ウイルスの長期潜伏状態を通じて、体はIFN-γを継続的に産生し、マクロファージを活性化します。基礎免疫状態が上昇することにより細菌感染を制御することができるように成り、宿主にとって有利な環境を提供してくれている可能性があります。

肺の中には、ファージが豊富に存在し、そのファージの群集は宿主内の細菌の数に応じて変化します。ヒトの呼吸器系には、19種類のファージからなる常在コア群が存在します。ファージは肺という極めて限られた生存環境内において細菌の生存と繁殖を助ける役割を果たしています。

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肺のマイクロバイオーム(2)       07/24/25

腸内や口腔咽頭部のマイクロバイオームの豊富な微生物群集と比べて、肺のマイクロバイオームには常在微生物が少ないが、群集の多様性は保たれています。肺のマイクロバイオームは、細菌の群集であるバクテリオーム、カビの群集であるマイコバイオーム、ウイルスの群集であるヴァイロームから成る集合体です。

細菌群集(バクテリオーム)
肺のバクテリオームでは、ストレプトコッカス、ヴェイロネラ、プレボテラが最も一般的な属であり、ヘモフィルス(インフルエンザ菌など)は肺に特有の常在微生物であり、他の部位のマイクロバイオームでは稀な細菌です。(肺のコア微生物叢には、Pseudomonas、Streptococcus、Proteus、Clostridium、Haemophilus、Veillonella、およびPorphyromonasが含まれます。)
皮膚や腸のような、ほぼ変わることがない自己維持型の微生物叢とは異なり、肺の微生物叢の構成は永続的なものではなく、体の免疫応答に応じて変化します。肺の微生物叢は口腔咽頭や上気道といった隣接する部位から微生物の継続的な移動を受けるため常に変化し続けており、新しい種がランダムに導入されたり除去されたりしています。そのため肺の微生物の組成は口腔咽頭と類似しているのですが、お互いの微生物群集の割合は異なり、肺には独自の属が存在しています。そして肺の微生物叢の一部には長期にわたる自己維持型の細菌群集も存在しています。(肺の微生物叢は口腔咽頭と比べてRalstonia、Bosea、Haemophilus、Enterobacteriaceae、Methylobacteriumが多い。)
肺の正常な微生物叢のバランスは、免疫応答に参加し炎症を防止することで、清潔で安全な肺環境を提供する役割を担っていると考えられています。

真菌群集(マイコバイオーム)
健康な肺における真菌の種は多様です。アスコマイセテスとストレプトマイセスが最も一般的な群集であり、次いでカンジダが優勢で、サッカロマイセス、ペニシリウム、ディクティオステリウム、フザリウムが続きます。さらに、アスペルギルス、ダヴィエラ科、ユーロティウムも存在します。
肺の真菌叢は、細菌を脱水、薬剤、免疫細胞の攻撃から保護するバイオフィルム構造を産生できます。これにより、抗菌剤に対して多剤耐性を持つ細菌株の発生と拡散が可能になります。

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