今年夏から目立ち始めたインフルエンザの流行がまだ収まりません。実は、2023年1月から始まったH3型の流行が完全に途切れることなく今も続いています。さらに、夏頃からH1pdm09が加わって、A型インフルエンザの2種類の亜種が同時流行し、数は少ないものの、ビクトリア系統と呼ばれるB型も散発流行しているため、稀に見る3種類の亜系統同時流行となっています。2週間前にA型にかかった人がまたすぐにA型にかかるというケースが稀ではありません。
それらに加えて、溶連菌、アデノウイルス、ノロウイルスも同時流行しています。そして、過去と明らかに違うのは、200種類以上あるとされている普通の風邪の重症化です。かつてないほど普通の風邪による発熱期間が長くなり、気管支炎や肺炎になる確率が明らかに高くなっています。普通の風邪ウイルスに過ぎないのに、熱が続いたり、咳が長引いたりするため、本人も家族も不安・心配が大きくなります。このような事態は決して過去にはありませんでした。こうした現象は実は少なくとも先進国では世界的に起きているようです。
3年間のマスク生活によって、インフルエンザを始めとして風邪のウイルスは伝染・流行を妨げられてきました。それはすなわち私たちの「風邪に対する免疫系」が風邪ウイルスに対処する方法をとことん忘れてしまうことにつながりました。私たちの免疫系、特にウイルスに最初に立ち向かう抗体などの免疫系は、時々本物の風邪ウイルスにさらされて、ブーストされ続けなければ、あっという間に戦い方を忘れてしまいます。
久しぶりに、しかも一度に市中循環し始めたウイルス達に遭遇しても、マスクをして風邪を引いていなかった人ほど、それらに対して免疫系がうまく働かずに、高熱になったり、熱が長引いたり、肺炎になったりしやすくなっていると考えられています。(したがって、マスクをしていなかった乳幼児や未就学児ほどあまり重症化せずに比較的普通の経過で済むようですが、小学生や大人の方が順調に治らないケースが多い。)
当院の場合、今年の秋以降、特別な名前のつく起炎菌やウイルスではない病原体によって肺炎になっているケースがパンデミック前の10倍ぐらい高い率で起きている感覚です。遷延性咳嗽に混じって、肺炎のケースが後を絶ちません。また、何十年間も喘息を発症せずに済んでいた小児喘息既往のある人が突然、気管支喘息を発症するということが起きています。また、子供の発熱の重症化の判断の分かれ目である4日または5日を超えて解熱しきれない風邪のケースも散見されます。
参考:The Case of the Never-Ending Illness Post-pandemic, winter has become one big blur of coughs and colds. Did something change? (The New York Times)
インフルエンザウイルス分離・検出報告数 2023/24シーズン(2023年12月7日現在)