ダニ媒介脳炎は中枢神経系に影響するウイルス感染症であり、軽症例から、より重篤で生命を脅かす病態まで、広い範囲での症状を引き起こします。東ヨーロッパからロシアに至るユーラシア大陸中央部、極東地域、中国北部までの広い地域で、およそ年間1万~1万5千例の感染があると推計されています。国内でも過去に北海道で5例の感染者が報告されています。
ダニ媒介脳炎ウイルスは、野生の齧歯類(げっしるい:ネズミなど)が保菌し、ネズミから脱落した”マダニ”に咬まれることにより、人も感染します。このウイルスに感染した動物(ヤギ等)から生産された乳製品からうつることもあります。人から人へは滅多にうつりませんが、まれに輸血や母乳からうつることがあります。
感染してしまった2/3くらいの人には何の症状もおこりませんが、1/3の人は4~28日間の症状のない期間があった後、頭痛、筋肉痛、倦怠感や発熱が起こります。そのまま治る場合もありますが、悪化すると、脳に障害が出るようになり、呼吸ができなくなることがあります。重症型の場合には死亡することがあります。ダニ脳炎ウイルスに対応する抗ウイルス薬はありません。解熱剤で熱を下げたり、抗痙攣薬で対症的に対応するしかありません。
ヨーロッパ(特に東ヨーロッパ長期滞在)・ロシアでのアウトドア活動(トレッキング・登山)は、ダニ咬傷によるダニ媒介脳炎のリスクがありますので、渡航前の予防接種が推奨されます。
ダニに咬まれないよう、虫刺され対策を行い、殺菌されていない乳製品(ヤギ等)の摂取は避けましょう。
ワクチンの基本接種3回を完了すれば3年間は十分な免疫が維持され、その後は3年後に追加接種1回を行います。それ以降は5年毎に追加接種をします。12歳未満の接種者は、より有効性が高く、一方60歳以上では抗体陽性率がやや低下します。