現在、ウイルス循環の谷にいるのですが、例年通りであればそろそろ夏風邪ウイルスの流行期に入ります。その代表的なウイルスがコクサッキーウイルス(Coxsackievirus)です。コクサッキーウイルスはエンテロウイルス属に属し、A群(A1〜A24) と B群(B1〜B6) に分類されます。ちょっと気がかりな現象が観察されています。2021年〜2024年まではA群による流行が繰り返されていたのですが、昨年秋以降B群の検出率の方がずっと高くなっていて、今年に入ってからは数は少ないもののB群(B5)だけが検出されているのです。
コクサッキーA群は、主に小児に表在性・粘膜性の病変を引き起こしやすく、手足口病(A16, A6)・ヘルパンギーナ(A2-10, A16)・結膜炎(A24)という表面的な病状に終わり、筋肉・内臓への侵襲性は弱く、通常は軽症で済むことが多い。昨年までは、この形で流行しました。一方、B群は、皮膚粘膜症状は少ないが、深部臓器(筋肉・心臓・中枢神経)を侵しやすく、心筋炎・心膜炎・無菌性髄膜炎・新生児敗血症様疾患・胸膜痛症候群(Bornholm病)・膵炎(→1型糖尿病誘因)を引き起こすことがあり、これらの病態は稀ではあるが重症になることがある。好発年齢も新生児~若年成人までと幅広い。
【B群による病状】
心筋炎・心膜炎 :若年男性に多く、胸痛・不整脈。突然死の原因にも。
無菌性髄膜炎(B2-5) :発熱・頭痛・項部硬直。A群より頻度高く、やや重症例も。
新生児感染症(敗血症様) :母子感染。肝炎、心筋炎、脳炎など致死的なことも。
Bornholm病(胸膜痛症候群) :急な胸・腹部筋肉痛と高熱。筋炎を伴う。
膵炎・糖尿病(発症契機):自己免疫性1型糖尿病の誘因ウイルスとして注目されている。
これからしばらくは最も注視されるべきウイルスだと考えています。