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今は風邪が流行るわけがない時期(ウイルス静穏期)(viral nadir)です  06/25/25

2020年から2022年にかけてSARS-CoV-2の流行とともにインフルエンザ・RSV・パラインフルエンザが消失しました。そして直近の2年間、複数の呼吸器ウイルスが連続的に流行した結果、それぞれが互いに干渉し合い、最終的にそれらの流行が終息したことによって、現在一時的に市中の循環ウイルス量が大幅に低下し、「ウイルス静穏期」に入っています。(この1年間は大の大人が多数肺炎にかかるほど、既存免疫が弱っていて、多くの人が複数の風邪、気管支炎、肺炎にかかりました。消滅していたかに見えていたパラインフルエンザウイルス、百日咳も全部再登場しきりました。)

ウイルス干渉とは、あるウイルス感染が、他のウイルスの感染を抑制する現象のことです。ヒトはウイルスに感染すると、免疫が賦活されます。先に感染したウイルスによって免疫は抗ウイルス状態へ誘導されます。例えば、RSV → インフルエンザ → コロナ のように流行が重なった場合、連続的なウイルス流行によって免疫環境は「干渉強化モード」に保たれます。そのため次に来るウイルスは感染成立が阻害され、流行規模が限定されることになります。この状態が幾重にも繰り返され、市中のヒトの感受性宿主が減り、免疫的「飽和状態」になります。その結果、ほぼすべてのウイルスに対して「部分的に防御された環境」が一時的に形成され、流行する循環ウイルス量が減ることになります。

ウイルス流行後の静穏期(post-epidemic suppression)とは、感染拡大→干渉→終息という波がいくつか続くと、集団内の自然免疫系が「訓練」され、抗ウイルス状態が維持される感受性個体が多数を占めることになり、その結果、数週間〜数ヶ月にわたり複数のウイルスが同時に「出てこない」時期=ウイルス静穏期(viral nadir)が生じるということです。

その後、新たな感受性個体が再増加(例:連続的な流行による免疫訓練を受けていない乳幼児)することで、次の流行波が発生しやすくなります。あるいは、連続した感染拡大時期に参加していなかった別のウイルスによる流行が発生することになります。

Cooperative Virus-Virus Interactions: An Evolutionary Perspective