慢性咳嗽(8週間以上続く咳)では、問診とレントゲンによってある程度病気を絞り込みますが、それだけで最終診断に至ることはありえません。慢性咳嗽の約半分を占めるとされている咳喘息かどうかを確かめるためには、気管支拡張吸入薬が効くかどうかが重要な手がかりになります。アトピー咳嗽やCOPD(慢性閉塞性肺疾患)では、β2気管支拡張薬が効きません。がんばって吸入しても、薬が肺の奥の方まで届いていないために有効性が得られず、正しい診断に行きつくのに、かなり回り道をすることになります。こういった事態は実際には頻繁に起こっていて、一定の頻度で生じざるをえないものと想定しています。
アドエアなどの円盤上のディスカス製剤、レルベア、エンクラッセなどのエリプタ製剤、シムビコートなどのタービュヘイラー製剤では、強く「早く深く」吸入しないと薬剤が気管支の奥まで到達しにくく、ある程度以上の吸気力が必要ですが、一方吸気力が強すぎると薬剤が喉を直撃して肺の奥まで到達しにくくなり、時には嗄声につながることもあります。
フルティフォーム、アドエアエアゾールといった筒状でエアロゾルが噴霧される製剤では、吸気力の弱い人でも吸入できますが、薬剤噴霧と吸気の同調が難しいことがあります。急激に噴射せず、エアロゾル移動速度を吸気に合わせるようにやや遅く「ゆっくり深く」することが必要です。また、薬剤の噴射方向が必ずしもまっすぐになっていなかったり、吸気時に薬剤でむせ込むことがあります。
スピリーバレスピマット(ソフトミスト吸入器)は、エアロゾル化率の高い薬剤がゆっくりと噴射されるように作られています。吸気と薬剤噴射とを同調させるためには、いかにゆっくり深く吸い込むかが大切です。また、ちょっぴり力が要ります。「できるだけゆっくりと肺いっぱいに息を吸い込み、苦しくならない程度に息を止めるように」します。