特にコロナウイルス感染後には、イガイガして我慢できない咳が長く続くことがあります。小児のクループでも止まらない咳が続きますが、まるで咳で痙攣しているかのようです。
皮膚の表面に傷や湿疹があると、痛みや痒みという感覚が感じられますが、特に痒みが強くなると、そこの痒みを払い除けたくなる切迫感が重なり、我慢できずに引っ掻いてしまわざるをえなくなります。引っ掻くのを我慢するためには我慢するぞという意思が必要です。特に乳児には我慢というものはないので、アトピー性皮膚炎の小さい子たちは、痒みの条件反射を抑えきれずに、自分を血だらけにしてでも痒みから解放されようとします。
皮膚の痒みの場合、局所に痒みを起こす炎症メディエーター物質が作り出されて、皮膚表面に張り巡らされている末梢神経末端がそれによって刺激され、そしてその刺激が末梢神経から脊髄を通って脳のてっぺんの中枢まで上っていく神経回路が関わっています。
咳も痒みと同じような作りです。ウイルスや細菌が炎症を引き起こしたり、花粉によるアレルギーによる炎症だったり、時には単に冷たい部屋の空気だったり、誘因は様々ですが、これらによって気管支の壁に張り巡らされている末梢神経(迷走神経)の末端が刺激されると、その刺激は脳幹まで行って帰ってくる神経回路を瞬時に上っていきます。さらにそこから脳のてっぺんにある認知脳、中枢神経まで上ります。意思を働かせる中枢脳は神経回路経由で咳を我慢させたり抑えようとします。
喋ると止まらなくなる咳、こらえきれないでタテ続きに出る咳、痙攣しているかのような咳では、末梢神経と脳幹からなる神経回路の過敏性が高まっているので、些細な刺激だけでも咳反射を引き起こすようになっています。あるいは、中枢神経と脳幹との神経回路も過敏性が高まっていたりします。
こらえきれない咳、特に長期間経過して癖になってしまっているかのような慢性の咳の場合には、こうした神経回路の過敏性を抑える薬が必要になります。しかし、現在薬不足が深刻なため、こうした薬のうち今入手可能なものは、選択的P2X3受容体拮抗薬だけになっています。
参照:Peripheral and central mechanisms of cough hypersensitivity