肺炎や喘息などの原因疾患の十分な治療をしても、部分的な改善に留まり遷延する咳を「治療抵抗性咳嗽 Refractory Chronic Cough (RCC)」、様々な検査と治療を施しても原因疾患が特定できない咳は「原因が明らかでない治療抵抗性慢性咳嗽 Unexplained Chronic Cough (UCC)」と呼ばれるようになっている。8週間以上続く遷延性・慢性咳嗽のうち15〜20%がRCC、1〜6%がUCCと報告されている。
こうした慢性難治性咳嗽のうち相当多くが、「咳過敏症 Cough Hypersensitivity Syndrome (CHS)」と呼ばれる病態カテゴリーとして捉えられるものとして経験される。すなわち、低レベルの温度刺激、機械的・化学的刺激を契機に生じる難治性の咳を呈する臨床グループであり、気道知覚神経の過敏状態や中枢神経の機能異常がその主要病態であると想定されうる。
実際には、エアコンなどによる冷気、乾燥した空気、香り、会話などの通常ならば咳を生じない軽微な刺激により生じる喉のイガイガ感、堪えらきれないむせ(urge to cough)に続いて意図的に止められない咳が出る状態が生じ、痰や唾気のような何らかの不愉快なものが引っかかる喉頭感覚異常、かすれ声などの発声異常、喉を中心として息苦しさのような上気道呼吸困難感といった喉頭過敏症状を引き起こす。
気管支喘息やいわゆる気管支炎は喉付近の中枢気道からかなり遠く深いところ(末梢気道)、つまり咳過敏症が生じる部位とはかけ離れた部位で起きる病気である。末梢気道で生じた気管支喘息が十分に治療されたにも関わらず、咳だけが遷延することは日常茶飯であるが、その理由は、喘息の治療が必ずしも喉付近の中枢気道で生じている咳過敏症を治療したことにはなっていないからだと考えられる。
咳過敏症は、主な発症部位が末梢気道と捉えられる気管支喘息とは一部重なるが、異なる疾患カテゴリーとして捉えるべき病態である。