腸内細菌叢は約1000種の微生物から構成され、6~10の主要な門にまたがり、3000~5000種に及び、総質量は1~2kgである。主な門には、バクテロイデス門、フィルミクテス門、プロテオバクテリア門、放線菌門が含まれる。腸内細菌叢は、人体において、生物の発育や病原体に対する抵抗力など、様々な重要な機能を担っている。さらに重要な点として、腸内細菌叢は消化管と遠隔臓器の両方における免疫応答を調節することで、恒常的な健康の維持に極めて重要な役割を果たしている。
腸粘膜組織の免疫細胞は、体内の免疫システムの重要な構成要素であり、全免疫細胞の約80%を占めている。初期の発達過程において、これら免疫細胞は徐々に消化管に定着し、腸の健康に不可欠な安定した微生物生態系が構築されるのに重要な役割を担っている。逆に腸内細菌叢によって、健康な免疫の発達が促される。母体の腸内細菌叢の細胞と代謝物によって、胎児の胸腺と骨髄において免疫を制御する役割を果たすシステムの発達が促され、出生時に母親から伝播した細菌によって、乳児のTヘルパー(Th)細胞がTh2からTh1およびTh17免疫表現型優位へ移行させられると同時に、免疫制御系の発達が促されることで小児のアレルギー疾患や喘息への進展を抑えることに役立っている。
「腸肺軸“gut–lung axis”」とは、微生物の代謝と免疫機能を介して消化管と呼吸器系が複雑に絡み合い、制御し、相互に影響を与えることを指す。
乳児期の腸内細菌叢中のスピロヘータの量が多いと就学前小児喘息の発症率は低下し、クロストリジウム・ディフィシルの量が多いと生後3ヶ月以内に呼吸器疾患を発症しやすいことが観察されている。母乳栄養の乳児にプロバイオティクス株EVC001を投与すると、免疫調節分子ガレクチン-1がアップレギュレーションされ、Th2細胞およびTh17細胞への分極が阻害され、インターフェロンβ(IFN-β)の発現が誘導される。
腸内マイクロバイオームは生後3年間で大きく変化し、時間の経過とともに多様性が徐々に高まり、個人差が拡大し、マイクロバイオームの構成は成人と同様のプロファイルへと移行する。生後1年間の腸内マイクロバイオームの未熟な発達が喘息リスクを増大させる要因であることが示されている。
さらに、小児期のアトピーおよび喘息の発症は新生児期の腸内細菌叢の構成と関係している。ビフィドバクテリウム、アッカーマンシア、フェカリバクテリウムなどの善玉菌の相対的存在量が低く、同時にカンジダおよびロドトルラという真菌量が多く、糞便中炎症誘発性代謝物が豊富に含まれている場合、喘息を発症しやすいことが示されている。また腸内細菌叢中のホルデマネラ属の存在が喘息の潜在的な危険因子として特定されている。
喘息のある小児では酪酸産生細菌量が減少、かつクロストリジウム属が増加しており、便中のアミノ酸および酪酸レベルが減少していた。そして便中酪酸レベルの低下は、血清IgEとダニ特異的IgEレベルの上昇と関連していた。腸内細菌叢の乱れは、有益なプロバイオティクス種の減少と病原性細菌の増加をもたらすことで短鎖脂肪酸の産生を減少させ、それによってTh2型炎症を促進する。