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麻疹の臨床経過    03/11/24

1) 麻疹の臨床症状
  麻疹の潜伏期間(ウイルス曝露から症状発現)は通常10日前後であり、発熱、カタル症状、結膜充血が数日間持続した後、頬粘膜における特徴的なコプリック斑が現れる。その1-2日後から顔面に発疹が出現し始め、その後全身性の特徴的な発疹が出現し、高熱が数日間持続する。重症化しなければ症状発現7~10日後に回復していく。

2)麻疹の臨床経過
 i)前駆期〈カタル期〉:(2~4日間)
  通常麻疹感受性者が麻疹ウイルスに感染すると、10日前後(8~12日)の潜伏期間を経て前駆期(カタル期)として発症する。この時期には38~39℃の発熱が続き、倦怠感、上気道炎症状、結膜炎症状が出現し、次第に増強する。乳幼児では下痢、腹痛等の腹部症状を伴うことが多い。発疹が出現する2日前頃には頬粘膜に、やや隆起し紅暈に囲まれた約1mm径の白色小斑点(コプリック班)が出現する。コプリック斑は麻疹に特異的であり、診断的価値が高いが、発疹出現の2日前頃に出現し、発疹出現後2日以内に急速に消退する。また口腔粘膜は発赤し、口蓋部には粘膜疹がみられ、しばしば溢血斑を伴うことがある。カタル期に次いで、発疹期となる。(写真は、Online Wileyによる)

 ii)発疹期:(3~5日間)
  カタル期の発熱が一旦下降(1℃程度)したあと、半日位後に再び高熱(多くは39.5℃以上)を発すると共に、疾患特異的な発疹が耳介後部、頚部、前額部より出現し、翌日には顔面、体幹部、上腕に広がり、2日後には四肢末端にまでおよぶ。ウイルス曝露から発疹出現までおよそ2週間である。発疹が全身に広がるまでの3~4日間は39.5℃以上の高熱が続く。発疹は当初は鮮紅色扁平であるが、まもなく皮膚面より隆起し、不整形の斑状丘疹となる。指圧により退色することも特徴の一つではあるが、次第に融合していき、次いで暗赤色となり、出現したときと同じ順序で退色していく。発疹期には上気道炎症状、結膜炎症状等のいわゆるカタル症状はより強くなる。麻疹の臨床経過での特徴はこのように前駆期(カタル期)と発疹期が比較的はっきりと分かれており、発熱もカタル期の終わりに一旦下降した後、より高熱を呈する(二峰性発熱)。

 iii)回復期:
  回復期に入ると発疹は退色し、発熱もなくなり、カタル症状も軽快していく。発疹は色素沈着がしばらくは残存する。麻疹は通常このような経過をたどり、合併症がなければ回復していく。

3)麻疹の合併症
  麻疹に伴って引き起こされる合併症は30%にも達し、その約半数が肺炎であり、以下腸炎、中耳炎、クループ等がある。また、頻度は低いものの、脳炎合併例もあり、肺炎と並んで麻疹による2大死因といわれており、要注意である。
 i)肺炎:
  麻疹に合併する肺炎には、大きくわけて細菌の二次感染による細菌性肺炎とウイルス性肺炎等があるが、最近の死亡例や呼吸管理を要する重症例には、間質性肺炎が多くみられている。

 ii)脳炎:
  1000例に0.5~1例の割合で発生する。麻疹の重症度に関係なく、発疹出現後2~6日頃に発症することが多い。半数以上は完全に回復するが、精神運動発達遅滞や麻痺などの後遺症を残す場合があり、10~15%は死亡するといわれている。特異的治療法はない。

 iii)亜急性硬化性全脳炎(SSPE):
  麻疹罹患後平均7~10年で発症し、知能障害や運動障害が徐々に進行し、ミオクロニーなどの錐体・錐体外路症状を示す。徐々に進行し、発症から平均6~9か月で死の転帰をとる進行性の予後不良疾患である。麻疹ウイルスの中枢神経系細胞における持続感染により生じるが、本態は不明である。麻疹初感染時の症状はほとんどが軽症で、その後もウイルスの一部の蛋白の発現に欠損が認められる欠損ウイルス粒子として存在し続けると言われている。

4)非典型的な経過をとる麻疹
 i)修飾麻疹(Modified measles):
  麻疹に対して不完全な免疫を持つ個体が麻疹ウイルスに感染した場合、軽症で非典型的な麻疹を発症することがある。その場合潜伏期は14~20日に延長し、カタル期症状は軽度か欠落し、コプリック斑も出現しないことが多い。発疹は急速に出現するが、融合はしない。通常合併症はなく、経過も短いことから、風疹と誤診されることもある。以前は母体由来の移行抗体が残存している乳児や、ヒトγ-グロブリンを投与された後にみられていたが、最近では麻しんワクチン接種者がその後麻疹ウイルスに暴露せず、ブースター効果が得られないままに体内での麻疹抗体価が減衰し、麻疹に罹患する場合(Secondary vaccine failure)もみられるようになった。

 ii)異型麻疹(Atypical measles)
 現行の弱毒生麻しんワクチン接種以前に、生ワクチンの発熱率が高く、不活化ワクチンと併用されていた時期があった。不活化ワクチン接種2~4年後に自然麻疹に罹患した際にこの病態(異型麻疹)がみられることがある。4~7日続く39~40℃台の発熱、肺炎、肺浸潤と胸水貯溜、発熱2~3日後に出現する特徴的な非定形発疹(蕁麻疹様、斑丘疹、紫斑、小水疱など、四肢に好発し、ときに四肢末端に浮腫をみる)が主症状で、Koplik斑を認めることは少ない。全身症状は1週間くらいのうちに好転し、発疹は1~3週で消退する。回復期の麻疹HI抗体価は通常の麻疹に比して著明高値をとる。発症機序はホルマリンで不活化された麻しんワクチンが細胞から細胞への感染を予防するF(fusion) 蛋白に対する抗体を誘導することができなかったことあるいは不活化ワクチン由来のアレルギーによると推論されている。異型麻疹と修飾麻疹とは全く別の病態であり、現在わが国では異型麻疹の発生はない。 

以上、国立感染症研究所 感染症情報センターによる。