「そもそも肺のマイクロバイオームがなぜ重要なのか?」
健康な肺の中では、生態系バランスの維持された微生物群集が、宿主側の肺の細胞や免疫細胞群と絶妙な恒常性を保ち、静かで安定した宿主との共生状態なのですが、一方病気の肺では、病原性微生物群が偏って増加すると同時に免疫応答異常を引き起こし、微生物叢と宿主側との共生状態が崩れ(微生物叢の不均衡(ディスバイオーシスdysbiosis)と呼ばれます)、さらに病気を進行させることになります。宿主側の肺の構造の一部が壊れたり粘液クリアランス機構の損傷は、微生物群衆のさらなる不均衡をもたらし、悪循環に陥ることになります。したがって、正常な共生細菌の活動とバランスに副作用を及ぼすことなく、偏って増加した病原性微生物の活動だけをピンポイントで抑えることができれば、理想的な治療選択肢になりえます。
喘息
喘息では、肺のマイクロバイオームにおける病原性微生物の増加が特徴的です。それにより反復的な炎症が引き起こされ、さらに全身的な免疫機能障害の悪化がもたらされます。
喘息では、下気道内におけるHaemophilus、Staphylococcus、Actinomycesなどの病原性微生物群の増加が特徴的であると同時に共生細菌(PrevotellaやVeillonella)の数が減少します。さらに、正常肺では検出されないPseudomonasが多くの患者で病原体として検出され、特に重症喘息患者で頻度が高い。アトピー性喘息で入院した患者による報告では、Haemophilus、Fusobacterium、Neisseriaceae、 Sphingomonas、およびPorphyromonasが高レベルで検出され、BacteroidesとLactobacillusが低レベルになっていました。
このような肺のマイクロバイオームの異常は、Th2経路や他の経路を活性化することで慢性炎症プロセスを引き起こし、喘息の進行を悪化させる可能性があります。この炎症プロセスは、特定の細菌コロニーの増殖を促進し、さらに微生物のdysbiosis(不均衡)を招く可能性があります。さらに特定の病原性細菌は、薬物療法に対する免疫細胞の反応に悪影響を与える可能性があります。
肺の微生物叢のdysbiosisによる悪循環は、肺の炎症の増加と免疫バランスの乱れを引き起こし、アレルギー性喘息の発症および重症喘息の多様な特徴の要因になっています。このように微生物叢のdysbiosisは、喘息の病態の基盤なのです。
Lung microbiome: new insights into the pathogenesis of respiratory diseases: NATURE