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パラインフルエンザ菌はパラインフルエンザウイルスとは全く異なる病原体です 07/21/25

5月から7月にかけて、パラインフルエンザウイルスによるしつこい咳が流行しましたが、実は同時期に複数の気管支肺炎からパラインフルエンザ菌も検出されました。さらに紛らわしい病原体として、インフルエンザウイルスとインフルエンザ菌もあるのですが、それぞれ全く異なる病原体です。
パラインフルエンザウイルスとパラインフルエンザ菌は両方とも「インフルエンザに似ている」「インフルエンザと関係あるかのように見える」という歴史的背景から命名されていますが、片方はウイルスで、片方は細菌という別物であるものの、どちらも呼吸器感染症を引き起こす病原体です。

1. パラインフルエンザ菌の発見と命名の経緯
1892年、最初にインフルエンザ菌(H. influenzae)がインフルエンザ大流行時に発見され、当初はインフルエンザの原因と間違われていたのですが、その後、インフルエンザの真の原因はインフルエンザウイルスであることが判明しました。
後になって(?)、パラインフルエンザ菌が同定されたが、インフルエンザ菌と近縁であるが、栄養要求性や抗原性が異なることから、「インフルエンザ菌に似た(para)」という意味のパラインフルエンザ菌(Haemophilus parainfluenzae)と命名されました。インフルエンザ菌属(Haemophilus属)というグループに属しています。

2. パラインフルエンザウイルスの発見と命名の経緯
1950年代に、米国で風邪様症状を引き起こすが、インフルエンザウイルスA・Bとは異なる原因病原体として分離されました。当時はインフルエンザ様症状を示すが、インフルエンザウイルスとは抗原性が異なることから、やはり「近い」「類似の」を意味する接頭語「para」をつけて「パラインフルエンザ(para-influenza)ウイルス」と名付けられました。ヒトの呼吸器感染症(クループ、気管支炎、肺炎など)を引き起こします。系統的にはRSウイルス(RSV)や麻疹ウイルスと同じパラミクソウイルス科に属しています。

これら二つを明確に区別するために、専門的には、パラインフルエンザウイルスは、HPIV(Human Parainfluenza Virus)、パラインフルエンザ菌は、Hpi(Haemophilus parainfluenzae)と表記されることがあります。

3. パラインフルエンザ菌は、上気道や口腔咽頭に常在する菌ですが、時に日和見感染を起こし、中耳炎、気管支炎、肺炎、敗血症などの原因になります。感染症を引き起こしやすくなる条件として、高齢、COPDや喘息などの慢性呼吸器疾患、免疫抑制(がん、免疫抑制薬、糖尿病)、気管挿管や人工呼吸器使用中、歯科処置・口腔内侵襲があります。
COPDなど呼吸器基礎疾患がある場合に、気管支炎や肺炎、COPDや慢性気管支炎の増悪といった病状を引き起こすことが多く見られるようです。さらに小児で中耳炎の起因菌となることがあったり、慢性副鼻腔炎の起因菌の一部となることがあります。専門的に要注意の病態としては、弁膜症や人工弁がある場合や、口腔内手術後の菌血症から発症する感染性心内膜炎や、極めて稀だが免疫不全状態や高齢者で起こりうる菌血症/敗血症があります。

Immune Response to Haemophilus parainfluenzae in Patients with Chronic Obstructive Lung Disease
HACEK endocarditis: state-of-the-art