「上皮バリア仮説(epithelial barrier hypothesis)」は、アトピー性皮膚炎、喘息、食物アレルギーなどのアレルギー疾患の増加を説明する仮説で、近年、特に注目されています。これは「皮膚や腸などの上皮バリアの破綻」がアレルギー発症の出発点になるとする考え方です。
本来、皮膚や腸などの上皮細胞は外界から体内を守る「バリア」の役割を果たしています。このバリアが遺伝的要因や環境要因によって破綻すると、本来入ってこないはずのアレルゲンや微生物が侵入してくる。それによって免疫系が過剰に反応し、アレルギー炎症(アトピー性皮膚炎、喘息、アレルギー性鼻炎など)を引き起こすという理論です。アトピー性皮膚炎では皮膚バリアが、食物アレルギーでは腸管バリアが、喘息や鼻炎では気道上皮バリアが破綻したために、各部位で免疫の過剰反応が起きてしまうのです。
アトピー性皮膚炎の場合、遺伝的にフィラグリン遺伝子(FLG)変異によって、角層の構造タンパク質が欠損し、皮膚のバリア機能が低下しています。そのため、皮膚の水分保持能力の低下やアレルゲンの侵入を許す原因となります。さらに環境要因として、石けんや洗剤(界面活性剤)、PM2.5、殺菌剤(トリクロサン)、乾燥などによって皮膚バリアをさらに損なってしまいます。
そうして破綻したバリアの隙間からアレルゲンや病原体が内部に直接侵入し、ケラチノサイトや上皮細胞がTSLP, IL-33, IL-25などのサイトカインを放出、これらが免疫細胞(ILC2、樹状細胞、T細胞)を活性化し、Th2型免疫反応が起こり、IgE産生、好酸球活性化が生じて、かゆみや炎症が進行すると考えられています。
したがって、アトピー性皮膚炎では、第1に、早期保湿;乳児期からの適切な保湿でバリア機能を保ち、同時に、バリア修復治療;抗炎症剤である外用ステロイドを併用してバリアの損傷部位の修復を促進し、バリアを壊さない生活;刺激の強い洗浄剤、過度な洗浄、乾燥の回避をする
ということが根本的な治療及び予防戦略になります。
Recent advances in the epithelial barrier theory:International Immunology
要約
上皮バリア理論は、慢性非伝染性疾患、特に自己免疫疾患やアレルギー疾患の最近の増加を、上皮バリアを破壊する環境物質と関連づけるものである。無秩序な成長、近代化、工業化のために、世界的な汚染と環境有害物質への暴露は60年以上にわたって悪化し、人間の健康に影響を及ぼしてきた。この間、健康への影響を合理的に管理することなく新たな化学物質が導入され、特に皮膚や粘膜の上皮バリアへの悪影響が報告されている。粒子状物質、洗剤、界面活性剤、食品乳化剤、マイクロ・ナノプラスチック、ディーゼル排気ガス、タバコの煙、オゾンなど、これらの物質は上皮バリアの完全性を損なうことが明らかになっている。上皮バリア破壊は、タイトジャンクションバリアの開放、炎症、細胞死、酸化ストレス、代謝調節と関連している。特に罹患組織では、有害物質、基礎疾患である炎症性疾患、薬剤の相互作用を考慮しなければならない。この総説では、環境バリア損傷化合物がヒトの健康に及ぼす有害な影響について、細胞および分子メカニズムに絡めて論じている。