延髄の咳反射中枢が侵されることで咳反射が抑制され、誤嚥を起こしやすくなる脳神経疾患には以下がある。
1. 延髄(外側)梗塞(ワレンベルグ症候群)
椎骨動脈(VA)または後下小脳動脈(PICA)の閉塞により発生。
延髄外側の孤束核(NTS)、迷走神経核、疑核(nucleus ambiguus)が障害される。
咳反射の求心路(迷走神経)や中枢の統合部(孤束核)が障害されることで、咳反射が鈍くなる。
嚥下反射も障害されるため、誤嚥が起こりやすい。
しばしば嚥下困難、嗄声(させい)、構音障害を伴う。
2. 球麻痺
延髄の運動神経核(特に迷走神経核、舌咽神経核、舌下神経核)が障害される病態。
ALS(筋萎縮性側索硬化症)、ギラン・バレー症候群、脳幹梗塞などで見られる。
迷走神経核や疑核が障害されることで、咳反射の遠心路が機能しなくなる。
同時に嚥下障害を伴い、誤嚥性肺炎のリスクが高まる。
3. 多系統萎縮症
小脳型やパーキンソン型に分類される神経変性疾患。
延髄の神経核や迷走神経が障害され、嚥下機能低下や呼吸障害を引き起こす。
延髄の自律神経系や呼吸調節機構が障害され、咳反射の感受性が低下。
嚥下障害が進行すると、無症候性誤嚥(silent aspiration)が増加し、誤嚥性肺炎のリスクが高まる。
4. パーキンソン病
黒質-線条体ドーパミン神経の変性による運動障害を主体とする神経変性疾患。
嚥下障害が進行すると、咳反射の低下による誤嚥が問題となる。
咳反射の中枢である延髄の神経回路が機能低下し、異物を感知しても咳が起こりにくくなる。
嚥下機能も低下し、誤嚥性肺炎のリスクが上昇。
5. 進行性核上性麻痺
脳幹(特に中脳・橋・延髄)の神経変性を伴う疾患。
嚥下障害が早期から出現し、誤嚥性肺炎のリスクが高い。
延髄の咳反射中枢や関連神経核の変性により、咳反射が低下。
口腔期・咽頭期の嚥下障害が進行し、誤嚥が多発する。
Cough as a neurological sign: What a clinician should know ;World J Crit Care Med.
延髄梗塞(Wallenberg症候群) 延髄外側の梗塞 孤束核・迷走神経核が障害され、咳反射低下
球麻痺(ALS, GBSなど) 延髄運動神経核の障害 咳反射の遠心路(運動)障害
多系統萎縮症(MSA) 自律神経・運動障害 延髄の神経変性による咳反射低下
パーキンソン病(PD) 黒質・脳幹の変性 咳反射の中枢が鈍化、誤嚥増加
進行性核上性麻痺(PSP) 脳幹の神経変性 嚥下障害と咳反射低下が進行
ハンチントン病(HD) 線条体・大脳皮質変性 咳反射低下+認知機能低下
これらの疾患では、誤嚥性肺炎のリスクが高いため、嚥下訓練や気道管理が重要となる。