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同じパラインフルエンザウイルスでも人種によって違う肺炎の形をとることがある 08/28/25

cotton rat(ワタオネズミ)は Sigmodon(シグモドン)属に含まれるげっ歯類で、研究モデル動物(特に呼吸器ウイルス研究:RSウイルス、パラインフルエンザウイルスなど)としてもよく利用されます。その中で Sigmodon hispidus(hispid cotton rat) と Sigmodon fulviventer(fulvous cotton rat) の両者はシグモドン属の中でも特に近縁で、分子系統解析では姉妹群関係にあります。
S. hispidusは、北米南東部から中米に広く分布、毛が「hispid(剛毛状)」で粗い印象、体色は灰褐色〜黄褐色。一方、S. fulviventerは、主にメキシコ高地や南西米国に分布、腹部がより黄色味「fulvous(黄褐色)」がかっているが、体毛は S. hispidus よりも滑らかで淡色傾向。
互いに非常に近縁ですが、分類学的には両者の遺伝的距離は 5–7% 程度とされ、別種として扱われています。

これら二種のネズミに、ヒトパラインフルエンザウイルス3を感染させると、感染後2日目から5日目まで鼻腔および肺でウイルスは増殖し、感染性ウイルスは8日目にかけて排除されていった。鼻粘膜上皮では、ウイルス複製ではわずかな組織学的変化しか生じなかった。決定的な違いは、肺病変の起こり方でした。
S. hispidus の肺では、細気管支炎が引き起こされ、細気管支周囲リンパ球細胞浸潤は感染後6日目にピークに達し、間質性肺炎の要素はわずかに存在するのみだった。対照的に、S. fulviventer の肺では、間質性肺炎が引き起こされ、病変は感染後6日目までに最大限に達し、細気管支周囲リンパ球浸潤は最小限にとどまっていた。
両種のネズミの肺病変は感染後9日目にはほぼ治癒し、感染後16日目には感染の痕跡すらなくなっていた。

ヒトが実際にパラインフルエンザウイルスにかかっても、大抵自然治癒してしまって、ネズミと同じように跡形なく治ってしまうので、肺の中でどのような出来事が起きたかどうかはわからないままです。また、パラインフルエンザウイルスの有効な検査キットが存在しない条件の下、一定の流行状況と臨床症状によって推測するしかない状況で、レントゲンで肺炎像を認めた場合に、そのパターンが人種によって、あるいは個体によって一定の傾向がないとすると、一般外来における肺炎の原因の絞り込みはなかなか難しいということになります。

Pathogenesis of human parainfluenza virus 3 infection in two species of cotton rats: Sigmodon hispidus develops bronchiolitis, while Sigmodon fulviventer develops interstitial pneumonia